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裏から手を回す
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スピーカーから聴こえる『虹へ』に、音楽倶楽部、それにインシグニア嬢やセガン監督官が耳を傾ける。そして地平線に霞みながら沈む虹のように、音が小さくなりながら演奏が終わった。
『…………』
聴き終わっても誰も声を発さない。
「どうですか?」
このまま無言と言う訳にもいかないので、俺が話を促すと、皆が明後日の方向を見る。それはどう言う感情なの? と思わず眉間にシワが寄る。
「ああ~、現状の理解は出来ましたけど、皆納得は出来ていないかと」
音楽倶楽部を代表して、イッシャーナ嬢が己を内省するように口にしたら、全員が首肯する。自分たちが歌奏した『イザ、前進』と『虹へ』を客観的に耳にして、皆、自分の中で課題が生まれ、それをこれから約一ヶ月後の入学式までに仕上げなければならないと考えると、時間は幾らあっても足りないだろう。まあ、俺だって『完璧な歌奏』なんて百回に一回くらいだもんなあ。皆大変だ。
「じゃあ、レコーダーに予備のカード、スピーカーはインシグニア嬢に預けるので、ここを出発点として、入学式まで頑張って下さい」
『はい!』
うん、元気。始めは怪訝な目で俺を敵視していたクルザール君も、素直に返事をしてくれた。それだけクルザール君の中で俺の印象が変わったのだろう。
「シキイ様は、招聘に応じて下さるでしょうか?」
気になったのか、インシグニア嬢が尋ねてきた。
「今朝、ウェルソンとテレフォンして、シキイならこちらへ呼んで良い事になっていますから、そこは問題ないと思います」
「あ、既に決定事項だったんですね」
インシグニア嬢の受け答えに、音楽倶楽部の面々が全員眉根を寄せる。なら、今までの努力は? とでも言いたげだ。
「いえ、決定事項って訳ではなかったですね。呼ぶか呼ばないかは俺に一任されていた感じです。なので本当に、私がここでシキイから音楽を学ぶに値するかを判断したうえで、ですね」
これには音楽倶楽部全員が顔を引き攣らせる。
「ああ、私の機嫌で呼ぶ呼ばないは決定しないので、そこは純粋に音楽の実力に拠りますから、安心して下さい」
これに更に顔を引き攣らせる音楽倶楽部の面々。何故?
「何か、呼ぶに当たって懸念があるような口振りでしたが、やはり、シキイ様は王都に来たがらない? とお考えなのでしょうか?」
昨日、第一大講堂で話題に上がったからか、インシグニア嬢が突っ込んだ話題を振ってくる。
「ああ、いえ、王立楽団がどうの、と言う事ではなく、今、シキイは教会所属なので、もし王都に来るとなると、大聖堂で生活する事になると思うと、あの環境に馴染めるかが、ちょっと不安で」
「ああ……」
俺の言を聞いて、インシグニア嬢は俺が言外に現教皇猊下と仲良く出来るかを不安視している事を理解してくれたようだ。
「大聖堂住みとなると、通いになるか。そうなると、シキイの負担が大きくなってしまうね」
大聖堂の内情を知らないセガン監督官は、そのような認識だ。他の音楽倶楽部の面々も、同じような認識らしく、「ああ」と声を漏らしている。
「学長と理事会に掛け合えば、教職員用の寮に部屋を貰えると思うけれど、そうなると、大聖堂がまた色々言ってきそうだなあ」
こめかみを叩くセガン監督官。昨日、俺のせいで女王陛下が信徒から除外されそうになった事案があったので、セガン監督官としても気を揉む案件だ。平穏を望むなら、シキイは大聖堂住みが良いが、それだとシキイのストレスが凄い事になり、年期半ばでヴァストドラゴン領に帰ってしまうかも知れない。あいつ王都から逃げ出した前例があるし。
「学校の方で部屋を用意して下さるなら、教皇猊下には、こちらから話を通すのも吝かではありませんが、その場合、学校側に用意して貰うものが増えます。でも、こちらとしたらそのように動いて貰う方がありがたいですね」
「うん? 用意するもの?」
俺の発言に対して、身構えるセガン監督官。
「そんなに凄いものやら、高価なものを要求する訳じゃありません。シキイが魔法学校にいる理由を用意をして欲しいのです」
「シキイが魔法学校にいる理由?」
その理由が分からないのだろう。セガン監督官が首を傾げる。
「はい。先程も話題に出しましたが、シキイは教会所属です。なので、学校内に教会、ちょっとした礼拝堂を設けて下されば、それを理由にシキイをこの王立魔法学校に引き止める事が出来ます」
「成程ね。それなら大丈夫だよ。部屋や礼拝堂なら、空間拡張の魔法で作れるからね。それくらいでシキイをこちら側に引き込めるなら、安過ぎるくらいだ」
セガン監督官が鷹揚に頷く。納得してくれたらしい。
「部屋が増やせるなら、シキイの他に、大聖堂から何人か送り込まれるとか、シキイが神官を連れてくる可能性もあると考えて下さい。それでもこの件が理事会と学長から認可されたなら、改めて、こちらから教皇猊下に事情を説明して、シキイを学校住みにします」
「分かった。今日はもう遅いから、明日学長に掛け合い、明後日には理事会を開いて、承認を貰うよ」
「フットワークが軽くて助かります」
本当に、セガン監督官はすぐに実行してくれるからありがたい。
「いやいや、僕が始めた事だからね。このくらいは任せてよ」
セガン監督官の言葉に、不安そうにしていた音楽倶楽部の面々にも笑顔が生まれるのだった。
✕✕✕✕✕
「ありがとうございました」
インシグニア嬢の車でヴァストドラゴン領の分館まで送って貰い、グーシーが傘を差し出す中、外に出ると、振り返ってインシグニア嬢に礼を言う。
「いえ、このような素敵なものまで貰ってしまいましたし、今日の練習は有意義でした」
インシグニア嬢はレコーダーを取り出しながら微笑む。そう思って貰えたならありがたい。
「では、また明後日に」
「はい」
言いながら、後部座席の窓が閉められ、インシグニア嬢と侍女二人を乗せた車は、分館から去っていった。
明後日は大聖堂で『契約召喚の儀』での歌奏の合同練習だ。こちらは俺も強制参加なので逃げられない。まあ、明日は一日休みだから、それを喜ぼう。王都に来て五日、やっと休みだ。何かこの五日間濃かったなあ。などと振り返りつつ玄関へ向かうと、アーネスシスとブルブルが玄関扉を開けてくれた。
『お帰りなさいませ!』
うん。派閥全員で元気にお迎えですか。
「うん、ただいま~。いや~、疲れたね~。もうお腹ペコペコだから、早速夕食としよう」
俺の、指示とも言えない言葉で、派閥の面々は素早く動き出した。俺も部屋に戻って楽な服装に変えよう。
✕✕✕✕✕
「…………」
「…………」
食堂が静かだ。理由はジュウベエ君たちが黙々と夕食を食べているから。しかも不満そうに。
「流石に故郷の食が恋しくなったかな?」
「…………」
俺が話し掛けても無言だ。何があったの? と周囲に視線で尋ねると、皆が苦笑を漏らす。うん? え~と、確か今朝、ジュウベエ君たちが闘技場に行きたいとごねたから、うちの派閥を付けて闘技場に行って貰ったんだよなあ。闘技場で何かあったのか。闘技場の猛者にでも敗けたかな?
「フェイルーラ」
「うん?」
微妙な雰囲気の中、ジュウベエ君の方から声を掛けてきた。
「お前の派閥、強いのな」
何を今更? それは俺の派閥を弱いと思っていた人物の台詞だ。
「特にお前の側近の三人とか、闘技場で俺様よりも上階まで昇ったんだけど。その闘い方を見て、下手したら俺様よりも強いんじゃないかと……」
「そりゃあ強いよ。だってこんな騎士貴族よりも魔力量の少ない俺の側近だよ? 三人と十回闘ったら、六対四で俺が敗けるね」
「マジかよ!?」
これに驚いているジュウベエ君たち。
「いや、魔力量的に考えて妥当でしょ」
「でもフェイルーラはチョコ店で、自分と闘うにはレートが低いと言っていたじゃないか!」
ああ、それで三人が俺より弱いと今まで錯覚していたのか。まあ、あの場ではそう錯覚するように誘導したしな。
「言っただろう、ジュウベエ君。この国の貴族は二種類に分けられる。激情家と二枚舌。俺はどっちだと思う?」
これを聞けば、ジュウベエ君は自分があの場でハメられた事に気付き、顔を真っ赤にするのだった。
『…………』
聴き終わっても誰も声を発さない。
「どうですか?」
このまま無言と言う訳にもいかないので、俺が話を促すと、皆が明後日の方向を見る。それはどう言う感情なの? と思わず眉間にシワが寄る。
「ああ~、現状の理解は出来ましたけど、皆納得は出来ていないかと」
音楽倶楽部を代表して、イッシャーナ嬢が己を内省するように口にしたら、全員が首肯する。自分たちが歌奏した『イザ、前進』と『虹へ』を客観的に耳にして、皆、自分の中で課題が生まれ、それをこれから約一ヶ月後の入学式までに仕上げなければならないと考えると、時間は幾らあっても足りないだろう。まあ、俺だって『完璧な歌奏』なんて百回に一回くらいだもんなあ。皆大変だ。
「じゃあ、レコーダーに予備のカード、スピーカーはインシグニア嬢に預けるので、ここを出発点として、入学式まで頑張って下さい」
『はい!』
うん、元気。始めは怪訝な目で俺を敵視していたクルザール君も、素直に返事をしてくれた。それだけクルザール君の中で俺の印象が変わったのだろう。
「シキイ様は、招聘に応じて下さるでしょうか?」
気になったのか、インシグニア嬢が尋ねてきた。
「今朝、ウェルソンとテレフォンして、シキイならこちらへ呼んで良い事になっていますから、そこは問題ないと思います」
「あ、既に決定事項だったんですね」
インシグニア嬢の受け答えに、音楽倶楽部の面々が全員眉根を寄せる。なら、今までの努力は? とでも言いたげだ。
「いえ、決定事項って訳ではなかったですね。呼ぶか呼ばないかは俺に一任されていた感じです。なので本当に、私がここでシキイから音楽を学ぶに値するかを判断したうえで、ですね」
これには音楽倶楽部全員が顔を引き攣らせる。
「ああ、私の機嫌で呼ぶ呼ばないは決定しないので、そこは純粋に音楽の実力に拠りますから、安心して下さい」
これに更に顔を引き攣らせる音楽倶楽部の面々。何故?
「何か、呼ぶに当たって懸念があるような口振りでしたが、やはり、シキイ様は王都に来たがらない? とお考えなのでしょうか?」
昨日、第一大講堂で話題に上がったからか、インシグニア嬢が突っ込んだ話題を振ってくる。
「ああ、いえ、王立楽団がどうの、と言う事ではなく、今、シキイは教会所属なので、もし王都に来るとなると、大聖堂で生活する事になると思うと、あの環境に馴染めるかが、ちょっと不安で」
「ああ……」
俺の言を聞いて、インシグニア嬢は俺が言外に現教皇猊下と仲良く出来るかを不安視している事を理解してくれたようだ。
「大聖堂住みとなると、通いになるか。そうなると、シキイの負担が大きくなってしまうね」
大聖堂の内情を知らないセガン監督官は、そのような認識だ。他の音楽倶楽部の面々も、同じような認識らしく、「ああ」と声を漏らしている。
「学長と理事会に掛け合えば、教職員用の寮に部屋を貰えると思うけれど、そうなると、大聖堂がまた色々言ってきそうだなあ」
こめかみを叩くセガン監督官。昨日、俺のせいで女王陛下が信徒から除外されそうになった事案があったので、セガン監督官としても気を揉む案件だ。平穏を望むなら、シキイは大聖堂住みが良いが、それだとシキイのストレスが凄い事になり、年期半ばでヴァストドラゴン領に帰ってしまうかも知れない。あいつ王都から逃げ出した前例があるし。
「学校の方で部屋を用意して下さるなら、教皇猊下には、こちらから話を通すのも吝かではありませんが、その場合、学校側に用意して貰うものが増えます。でも、こちらとしたらそのように動いて貰う方がありがたいですね」
「うん? 用意するもの?」
俺の発言に対して、身構えるセガン監督官。
「そんなに凄いものやら、高価なものを要求する訳じゃありません。シキイが魔法学校にいる理由を用意をして欲しいのです」
「シキイが魔法学校にいる理由?」
その理由が分からないのだろう。セガン監督官が首を傾げる。
「はい。先程も話題に出しましたが、シキイは教会所属です。なので、学校内に教会、ちょっとした礼拝堂を設けて下されば、それを理由にシキイをこの王立魔法学校に引き止める事が出来ます」
「成程ね。それなら大丈夫だよ。部屋や礼拝堂なら、空間拡張の魔法で作れるからね。それくらいでシキイをこちら側に引き込めるなら、安過ぎるくらいだ」
セガン監督官が鷹揚に頷く。納得してくれたらしい。
「部屋が増やせるなら、シキイの他に、大聖堂から何人か送り込まれるとか、シキイが神官を連れてくる可能性もあると考えて下さい。それでもこの件が理事会と学長から認可されたなら、改めて、こちらから教皇猊下に事情を説明して、シキイを学校住みにします」
「分かった。今日はもう遅いから、明日学長に掛け合い、明後日には理事会を開いて、承認を貰うよ」
「フットワークが軽くて助かります」
本当に、セガン監督官はすぐに実行してくれるからありがたい。
「いやいや、僕が始めた事だからね。このくらいは任せてよ」
セガン監督官の言葉に、不安そうにしていた音楽倶楽部の面々にも笑顔が生まれるのだった。
✕✕✕✕✕
「ありがとうございました」
インシグニア嬢の車でヴァストドラゴン領の分館まで送って貰い、グーシーが傘を差し出す中、外に出ると、振り返ってインシグニア嬢に礼を言う。
「いえ、このような素敵なものまで貰ってしまいましたし、今日の練習は有意義でした」
インシグニア嬢はレコーダーを取り出しながら微笑む。そう思って貰えたならありがたい。
「では、また明後日に」
「はい」
言いながら、後部座席の窓が閉められ、インシグニア嬢と侍女二人を乗せた車は、分館から去っていった。
明後日は大聖堂で『契約召喚の儀』での歌奏の合同練習だ。こちらは俺も強制参加なので逃げられない。まあ、明日は一日休みだから、それを喜ぼう。王都に来て五日、やっと休みだ。何かこの五日間濃かったなあ。などと振り返りつつ玄関へ向かうと、アーネスシスとブルブルが玄関扉を開けてくれた。
『お帰りなさいませ!』
うん。派閥全員で元気にお迎えですか。
「うん、ただいま~。いや~、疲れたね~。もうお腹ペコペコだから、早速夕食としよう」
俺の、指示とも言えない言葉で、派閥の面々は素早く動き出した。俺も部屋に戻って楽な服装に変えよう。
✕✕✕✕✕
「…………」
「…………」
食堂が静かだ。理由はジュウベエ君たちが黙々と夕食を食べているから。しかも不満そうに。
「流石に故郷の食が恋しくなったかな?」
「…………」
俺が話し掛けても無言だ。何があったの? と周囲に視線で尋ねると、皆が苦笑を漏らす。うん? え~と、確か今朝、ジュウベエ君たちが闘技場に行きたいとごねたから、うちの派閥を付けて闘技場に行って貰ったんだよなあ。闘技場で何かあったのか。闘技場の猛者にでも敗けたかな?
「フェイルーラ」
「うん?」
微妙な雰囲気の中、ジュウベエ君の方から声を掛けてきた。
「お前の派閥、強いのな」
何を今更? それは俺の派閥を弱いと思っていた人物の台詞だ。
「特にお前の側近の三人とか、闘技場で俺様よりも上階まで昇ったんだけど。その闘い方を見て、下手したら俺様よりも強いんじゃないかと……」
「そりゃあ強いよ。だってこんな騎士貴族よりも魔力量の少ない俺の側近だよ? 三人と十回闘ったら、六対四で俺が敗けるね」
「マジかよ!?」
これに驚いているジュウベエ君たち。
「いや、魔力量的に考えて妥当でしょ」
「でもフェイルーラはチョコ店で、自分と闘うにはレートが低いと言っていたじゃないか!」
ああ、それで三人が俺より弱いと今まで錯覚していたのか。まあ、あの場ではそう錯覚するように誘導したしな。
「言っただろう、ジュウベエ君。この国の貴族は二種類に分けられる。激情家と二枚舌。俺はどっちだと思う?」
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