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思惑
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「ま、まあ良い。フェイルーラにこの速度で、位階を昇られたら、下手したら今日中にランクを追い抜かれてしまうかも知れん。行くぞ」
フェイルーラの説明に一応は納得したジュウベエだが、ここで呑気にフェイルーラの試合を観戦している場合でないと悟り、派閥の少年たちを連れて地下二階の控え室を出ていった。
「諸君はどうする?」
フェイルーラの問いに、グーシーを始め、フェイルーラ派閥の面々は特にフェイルーラの側から離れるつもりはないようだ。
「別に、俺に気を使わなくても良いんだよ」
フェイルーラはそう口にするが、グーシーたちの意思は変わらないのか、この場から動かない。
「そもそも、我々の闘いは見世物とは掛け離れたものですからねえ」
グーシーの言に派閥の面々も首肯する。
「まあ、俺もそう思う。でも、闘技場でランクバトルとしてみて思ったし、諸君もそう感じたと思うけど、これはこれで、賊の奴らとはまた違った闘いだ。位階が低いうちは、確かに退屈と感じてしまうかも知れないが、今のうちにランクを上げていき、中位、上位ランクになっておけば、相当な戦闘経験値が獲得出来るし、学校での合戦のヒントも得られるだろう」
フェイルーラの言葉を聞いて、それぞれが思考を巡らせる。
「俺はやっぱりもうやめておきますよ」
始めにそう応えたのはアーネスシスだ。これにはフェイルーラも納得する。ジュウベエをして『忍者』と称されたアーネスシスの闘いは、確かに闘技場で見せびらかすものではない。これに、他数名も続く。
しかし、グーシーやブルブルを始め、その他の者たちは、フェイルーラの言に賛同したようだ。
「ではアーネスシス。ここは貴方に任せます。フェイルーラ様のバックアップ、頼みましたよ」
「へ~い」
グーシーはフェイルーラから水筒を返して貰うと、派閥の面々を連れて、地下二階控え室から出て行ったのだった。
「どうします? セイキュア様の記録抜いちゃいます?」
控え室で楽にしていたフェイルーラに、アーネスシスが尋ねる。
「そうだなあ……」
一階層10分なら、母セイキュアを超える二十二階までノンストップで210分。三時間半で二十二階層まで到達する事になる。
(こんなに楽に到達出来るものなのか? 母上の頃よりも、闘技場全体のレベルが下がっているのか?)
フェイルーラは強い母しか知らない。王立魔法学校に通っていた頃のセイキュアの実力がどの程度だったのかを知らない。
インビジブル・バーストは王立魔法学校時代にセイキュアが考案したらしい話は女王ガイシアから聞いているが、セイキュアが学生時代のどの頃に闘技場に挑戦したのかを知らない。
セイキュアは寡黙と言う訳ではなかったが、周遊旅団と言う職務に実直で、過去の栄光を語るタイプの人間ではなかった。口を動かす暇があるなら身体を動かせ。そんなタイプだった。
「エスペーシは?」
「今日は観光みたいですね」
「今日?」
アーネスシスの言葉に首を傾げるフェイルーラ。
「昨日は?」
「午前中からフレミア嬢のところへ行っていました」
フレミア嬢から愛を取り戻すのに必死か。いや、
「グロブス殿下は?」
「同上」
アーネスシスの言葉に対して、フェイルーラはあからさまに辟易した顔となる。現王家の第二王子が、わざわざ婚約者の住まいまで足を運ぶと言うのは、多分異例だろう。
いや、今度の第一婚約者がまだグリフォンデン領の分館に住んでいるから足を運んだだけで、フィアーナが第一婚約者だった頃も、王城内のフィアーナの下へ足繁く通っていた可能性はあった。それに今はフィアーナが里帰りしている。女に現を抜かすなら、そんな事もするかも知れない。
それともインシグニアがいるとでも思っていたか。それはない。とフェイルーラは直ぐ様これに関しては否定した。インシグニアが昨日王立魔法学校で音楽倶楽部と合同練習だった事は、一昨日の段階で、王立魔法学校の第一大講堂にいた者なら誰もが知っていたはずだ。
「今日の王都観光って、エスペーシたちだけ?」
「はい。フレミア嬢は王城に向かいましたから」
これを聞いて嘆息をこぼすフェイルーラ。
「何やってんだよ。相手が王子だからって、当初の目的忘れているんじゃねえのか?」
「まあ、立場の差はありますからね」
「『王族の命』か」
これにアーネスシスは首肯する。
「本番は学校が始まってからか。しかし、それだと押しが弱いな」
学校が始まれば嫌でもエスペーシ、フレミア、グロブスの三人は同じ寮で生活する事になる。五年は長いが、五年掛けてフレミアをエスペーシに惚れさせるのは愚策だとフェイルーラは考え、また嘆息する。何故自分が他寮や他領、王族の事に気を揉まなければならないのか。しかし言い出しっぺは自分なので、取り消しには出来ない。
「グロブス殿下って、もう闘技場で闘った事あるの?」
「はい。何でも八歳にして闘技場の最年少出場と、最年少勝利記録をお持ちとか」
「へえ。意外と武闘派なのか?」
「どうでしょう? その後は積極的に闘技場で闘ってはいないようですから、恐らくは人心操作の類かと。このままではスフィアン王太子殿下が順当に次期国王となられますから、そうなった時に備えて、ご自身の価値を上げる為に、最年少記録が必要だったのではないかと」
フェイルーラは一昨日の事を思い出す。幾らセガン曰く反抗期とは言え、その性格は落ち着きがないように見えた。そして昨日グリフォンデン領の分館に向かった。と言う情報からも、その性格が出ている。
これが幼少から直らないグロブスの気性であるなら、家庭教師の教育方針にも影響が出る。机に向かってじっと勉強するのは、その気性であれば向いていないだろう。が、反対に身体を動かす事には向いているとも取れる。
これを利用して、家庭教師がグロブスに闘技場最年少記録と言う実績を与える事で、将来的に軍に入隊させ、一年目から相応の地位を得られるように仕向けているとしたなら、その家庭教師は中々にやり手である。親に反抗的な性格を改善させなかった事に目を瞑れば、だが。
しかし、そうなるとエスペーシに取ってグロブスは更に高い壁となる。ヴァストドラゴン家は武闘派なのだ。将来性を考えれば、五年経った時点でも、グロブスが軍上層部に一目置かれるのとは対照的に、エスペーシは四大貴族の三男のままとなる。何ともふわふわした立場だ。
さてこれをどうしたものか。とフェイルーラが考えていると、エレベーターからジェンタールがやって来た。その顔は少し複雑そうだ。
「どうかしたの?」
「殿下は昼にはここから帰られるそうだ」
「へえ」
「へえ。じゃない。フェイルーラ、お前があんな闘い方をしたから、殿下は気分を害されたのだぞ」
ジェンタールの言葉に、フェイルーラも複雑な顔となる。ジェンタール自身はフェイルーラの闘い方を理解していたし、恐らくフェイルーラの闘いを直視する事を、スフィアンに忠告はしただろう事はフェイルーラでも分かった。何せ、闘い大好きなジュウベエも引いていたくらいだ。
しかし、同時にフェイルーラに取って、これは好機でもあった。半日で帰るとなると、フェイルーラがそれまでに二十二階層まで到達出来るかどうかは微妙なところだ。そしてスフィアンが帰るなら、それ以降闘技場に留まる理由はなくなる。
「うん、分かった。じゃあ、こっちも昼に引き上げるよ」
フェイルーラはへらりと笑い、ジェンタールにそう告げた。これに一瞬眉を寄せるジェンタール。このまま一日闘技場にいれば、母であるセイキュアの記録を抜く事も可能である事は、ジェンタールも理解していた。フェイルーラの発言は、記録を捨てる。と言っているのとほぼ同じだ。しかしここで「何故だ?」と尋ねたところで、フェイルーラがまともに返答する訳ない事も、兄であるジェンタールは理解していた。
「分かった。殿下にも、そのように伝えておく」
「は~い。宜しく」
フェイルーラは手をひらひらさせながらジェンタールを見送る。そしてジェンタールがエレベーターで上階へ向かったのを確認した後、アーネスシスがフェイルーラに尋ねた。
「矛盾していません?」
そう、アーネスシスたち自分の派閥には闘えと言っておきながら、半日で切り上げる。と言うジェンタールへの返答は矛盾していた。
「そうだねえ。でも俺は別に、記録には興味ないからねえ。そう言うのは、エスペーシにでもくれてやるよ」
フェイルーラがそう口にすれば、聡いフェイルーラ派閥の面々は、それが、エスペーシに最速記録と言う花を持たせる作戦だと理解したのだった。
フェイルーラの説明に一応は納得したジュウベエだが、ここで呑気にフェイルーラの試合を観戦している場合でないと悟り、派閥の少年たちを連れて地下二階の控え室を出ていった。
「諸君はどうする?」
フェイルーラの問いに、グーシーを始め、フェイルーラ派閥の面々は特にフェイルーラの側から離れるつもりはないようだ。
「別に、俺に気を使わなくても良いんだよ」
フェイルーラはそう口にするが、グーシーたちの意思は変わらないのか、この場から動かない。
「そもそも、我々の闘いは見世物とは掛け離れたものですからねえ」
グーシーの言に派閥の面々も首肯する。
「まあ、俺もそう思う。でも、闘技場でランクバトルとしてみて思ったし、諸君もそう感じたと思うけど、これはこれで、賊の奴らとはまた違った闘いだ。位階が低いうちは、確かに退屈と感じてしまうかも知れないが、今のうちにランクを上げていき、中位、上位ランクになっておけば、相当な戦闘経験値が獲得出来るし、学校での合戦のヒントも得られるだろう」
フェイルーラの言葉を聞いて、それぞれが思考を巡らせる。
「俺はやっぱりもうやめておきますよ」
始めにそう応えたのはアーネスシスだ。これにはフェイルーラも納得する。ジュウベエをして『忍者』と称されたアーネスシスの闘いは、確かに闘技場で見せびらかすものではない。これに、他数名も続く。
しかし、グーシーやブルブルを始め、その他の者たちは、フェイルーラの言に賛同したようだ。
「ではアーネスシス。ここは貴方に任せます。フェイルーラ様のバックアップ、頼みましたよ」
「へ~い」
グーシーはフェイルーラから水筒を返して貰うと、派閥の面々を連れて、地下二階控え室から出て行ったのだった。
「どうします? セイキュア様の記録抜いちゃいます?」
控え室で楽にしていたフェイルーラに、アーネスシスが尋ねる。
「そうだなあ……」
一階層10分なら、母セイキュアを超える二十二階までノンストップで210分。三時間半で二十二階層まで到達する事になる。
(こんなに楽に到達出来るものなのか? 母上の頃よりも、闘技場全体のレベルが下がっているのか?)
フェイルーラは強い母しか知らない。王立魔法学校に通っていた頃のセイキュアの実力がどの程度だったのかを知らない。
インビジブル・バーストは王立魔法学校時代にセイキュアが考案したらしい話は女王ガイシアから聞いているが、セイキュアが学生時代のどの頃に闘技場に挑戦したのかを知らない。
セイキュアは寡黙と言う訳ではなかったが、周遊旅団と言う職務に実直で、過去の栄光を語るタイプの人間ではなかった。口を動かす暇があるなら身体を動かせ。そんなタイプだった。
「エスペーシは?」
「今日は観光みたいですね」
「今日?」
アーネスシスの言葉に首を傾げるフェイルーラ。
「昨日は?」
「午前中からフレミア嬢のところへ行っていました」
フレミア嬢から愛を取り戻すのに必死か。いや、
「グロブス殿下は?」
「同上」
アーネスシスの言葉に対して、フェイルーラはあからさまに辟易した顔となる。現王家の第二王子が、わざわざ婚約者の住まいまで足を運ぶと言うのは、多分異例だろう。
いや、今度の第一婚約者がまだグリフォンデン領の分館に住んでいるから足を運んだだけで、フィアーナが第一婚約者だった頃も、王城内のフィアーナの下へ足繁く通っていた可能性はあった。それに今はフィアーナが里帰りしている。女に現を抜かすなら、そんな事もするかも知れない。
それともインシグニアがいるとでも思っていたか。それはない。とフェイルーラは直ぐ様これに関しては否定した。インシグニアが昨日王立魔法学校で音楽倶楽部と合同練習だった事は、一昨日の段階で、王立魔法学校の第一大講堂にいた者なら誰もが知っていたはずだ。
「今日の王都観光って、エスペーシたちだけ?」
「はい。フレミア嬢は王城に向かいましたから」
これを聞いて嘆息をこぼすフェイルーラ。
「何やってんだよ。相手が王子だからって、当初の目的忘れているんじゃねえのか?」
「まあ、立場の差はありますからね」
「『王族の命』か」
これにアーネスシスは首肯する。
「本番は学校が始まってからか。しかし、それだと押しが弱いな」
学校が始まれば嫌でもエスペーシ、フレミア、グロブスの三人は同じ寮で生活する事になる。五年は長いが、五年掛けてフレミアをエスペーシに惚れさせるのは愚策だとフェイルーラは考え、また嘆息する。何故自分が他寮や他領、王族の事に気を揉まなければならないのか。しかし言い出しっぺは自分なので、取り消しには出来ない。
「グロブス殿下って、もう闘技場で闘った事あるの?」
「はい。何でも八歳にして闘技場の最年少出場と、最年少勝利記録をお持ちとか」
「へえ。意外と武闘派なのか?」
「どうでしょう? その後は積極的に闘技場で闘ってはいないようですから、恐らくは人心操作の類かと。このままではスフィアン王太子殿下が順当に次期国王となられますから、そうなった時に備えて、ご自身の価値を上げる為に、最年少記録が必要だったのではないかと」
フェイルーラは一昨日の事を思い出す。幾らセガン曰く反抗期とは言え、その性格は落ち着きがないように見えた。そして昨日グリフォンデン領の分館に向かった。と言う情報からも、その性格が出ている。
これが幼少から直らないグロブスの気性であるなら、家庭教師の教育方針にも影響が出る。机に向かってじっと勉強するのは、その気性であれば向いていないだろう。が、反対に身体を動かす事には向いているとも取れる。
これを利用して、家庭教師がグロブスに闘技場最年少記録と言う実績を与える事で、将来的に軍に入隊させ、一年目から相応の地位を得られるように仕向けているとしたなら、その家庭教師は中々にやり手である。親に反抗的な性格を改善させなかった事に目を瞑れば、だが。
しかし、そうなるとエスペーシに取ってグロブスは更に高い壁となる。ヴァストドラゴン家は武闘派なのだ。将来性を考えれば、五年経った時点でも、グロブスが軍上層部に一目置かれるのとは対照的に、エスペーシは四大貴族の三男のままとなる。何ともふわふわした立場だ。
さてこれをどうしたものか。とフェイルーラが考えていると、エレベーターからジェンタールがやって来た。その顔は少し複雑そうだ。
「どうかしたの?」
「殿下は昼にはここから帰られるそうだ」
「へえ」
「へえ。じゃない。フェイルーラ、お前があんな闘い方をしたから、殿下は気分を害されたのだぞ」
ジェンタールの言葉に、フェイルーラも複雑な顔となる。ジェンタール自身はフェイルーラの闘い方を理解していたし、恐らくフェイルーラの闘いを直視する事を、スフィアンに忠告はしただろう事はフェイルーラでも分かった。何せ、闘い大好きなジュウベエも引いていたくらいだ。
しかし、同時にフェイルーラに取って、これは好機でもあった。半日で帰るとなると、フェイルーラがそれまでに二十二階層まで到達出来るかどうかは微妙なところだ。そしてスフィアンが帰るなら、それ以降闘技場に留まる理由はなくなる。
「うん、分かった。じゃあ、こっちも昼に引き上げるよ」
フェイルーラはへらりと笑い、ジェンタールにそう告げた。これに一瞬眉を寄せるジェンタール。このまま一日闘技場にいれば、母であるセイキュアの記録を抜く事も可能である事は、ジェンタールも理解していた。フェイルーラの発言は、記録を捨てる。と言っているのとほぼ同じだ。しかしここで「何故だ?」と尋ねたところで、フェイルーラがまともに返答する訳ない事も、兄であるジェンタールは理解していた。
「分かった。殿下にも、そのように伝えておく」
「は~い。宜しく」
フェイルーラは手をひらひらさせながらジェンタールを見送る。そしてジェンタールがエレベーターで上階へ向かったのを確認した後、アーネスシスがフェイルーラに尋ねた。
「矛盾していません?」
そう、アーネスシスたち自分の派閥には闘えと言っておきながら、半日で切り上げる。と言うジェンタールへの返答は矛盾していた。
「そうだねえ。でも俺は別に、記録には興味ないからねえ。そう言うのは、エスペーシにでもくれてやるよ」
フェイルーラがそう口にすれば、聡いフェイルーラ派閥の面々は、それが、エスペーシに最速記録と言う花を持たせる作戦だと理解したのだった。
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