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拳士と拳士

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(大体同じくらいの年齢かな?)

 フェイルーラの前に現れたのは、黒髪に黄土色のメッシュの入ったマッシュルームヘアに、黒と、金色のオッドアイの少年であった。

(ここまで対戦相手にあんまり年齢差がなかったのは、王立魔法学校の受験生が、受験終わりに闘技場で闘っているからかな?)

 同年代らしい少年を見て、これまでの対戦相手を思い出し、フェイルーラは心の中でそう推測した。実際、受験終わりに闘技場と言う流れは、王立魔法学校に通う学生候補には多い。それは闘技場での位階が、学校での分かり易い地位の指標となるからだ。

 フェイルーラの前に現れた少年は、フェイルーラと似た服装だった。ジャージと言うよりもカンフー服と言う感じだが、足元もカンフーシューズで、色は服が黄色で、靴が黒だ。全身が黒と黄色で構成されていた。

「フェイルーラ・ヴァストドラゴン」

 ここまで勝ち上がってきただけあってか、対戦相手はフェイルーラの名前を知っていた。フェイルーラは連戦続きで他の決闘者の名前など知らずにここまで来たが。

「悪いが、ガンブレードは収めて貰えるかな?」

 マッシュルームヘアの少年は言いながら拳を構える。左半身のその姿は、一目で長年の修練が窺える堂に入ったものだ。

「カンフーを習っているのか」

「ああ。俺の名はストライク。ストライク・サンダーパレス」

 少年の名を聞き、僅かばかり目を見開くフェイルーラ。

「サンダーパレス。オブリウス、いや、タイフーンタイクン派閥だね」

「知っていたか」

「幼少の頃に各地の気象データを調べていて、珍しい領地名だったから、頭の片隅に残っていたんだよ。何でも、アダマンティアで年間落雷数が一番多い土地だそうだね」

「ああ」

 同意はするが構えは解かないストライク。絶えずフェイルーラを警戒していた。

「それで? それと俺がガンブレードを使わない事に相関関係があるのかい?」

「同じ拳士だ。拳で闘いたい」

「俺を拳士と認めるの?」

「ああ」

 その返答に濁りはない。この事から本当にストライクがフェイルーラとカンフーで闘いたい事が窺えた。

「……理由を聞いても?」

「我が家には、シャーハン一族の血が流れている」

「シャーハン一族? ギガントシブリングス家じゃなく?」

「それも俺には流れているが、まず交わったのはシャーハン一族だ。それ以来、そのシャーハン一族から伝わった拳法を、連綿と俺の代まで伝えてきた。その名は雷震神拳。それが、他の拳法と対した時にどれ程通用するのか、ここで知っておきたい」

 これを聞いてフェイルーラは片眉をピクリと上げる。

「雷震神拳か。神の字を使う事を許された拳法は、シャーハン一族が扱う拳法の中でも、最上位に位置される特別な拳法だと、神の領域に踏み込んだ、人を超える術だと、俺にこの拳法を教えてくれたせんせいが言っていたな」

「ああ。一子相伝とは言わないが、神拳を名乗れるのは当代で一人だけ。他の者たちは、雷震拳と名乗っている」

 ストライクの言葉から、神拳を名乗る事がどれだけ特別な事かフェイルーラは理解する。

「敗けたら?」

「敗けた時の事は考えない。……と言いたいが、同じ流派でなければ許される。流石に何度も同じ相手に敗北したとなれば、返上も視野に入るが」

「そう」と応えながら、フェイルーラはガンブレードを左手の空間魔法陣に仕舞い、そして両手のグローブをジャージのズボンのポケットに仕舞った。

「ふう……」

 息を細く長く吐き出し、しっかり全身から脱力してから、フェイルーラも構える。拳を構えるのは今日初めてだ。それまでは自然体で拳を構える事もなく、ズンズンと対戦相手に近付き、胸に手刀を一突きして終わりだったから、構えるまでもなかったのが現実だ。

「蛇蝎骨法……。シャーハン一族の中でも、幻とされる殺人術。本当に存在したとはな。相対せる事に喜びを感じるよ」

「殺人術か。俺にとっては活人術なんだけどなあ。ああ、でも敵からしたら殺人術と揶揄されてしかるべきか」

 フェイルーラは左半身で、ガンブレードの構えに似ており、それでいてその拳は握られておらず、正に蛇か蠍の如く、人差し指、中指、親指で三角形を作り、ストライクを狙っていた。

 バトルフィールドが静謐な空気に包まれる。観客席からの野次や喧騒もない。他のバトルフィールドの対戦する音も聞こえない。この場の誰もが、二人の対戦を見守っていた。それだけ、二人が構えただけで、周囲を魅了する程に格が違うと素人目でも分かるものだった。

 スッとフェイルーラの目が薄目となり、次の瞬間、カッとその目が見開かれ、同時に竜の武威が指向性を持ってストライクにぶつけられる。

 これはストライクの予想の範囲内であり、これに対してストライクは巨人の足跡を発動する。これもフェイルーラの予測の範囲内だった。ストライクにギガントシブリングス家の血が流れているなら、出来ても不思議ではない。

 両者の殺気がぶつかり、二十階が震える。フェイルーラとストライクのバトルフィールドだけではない。二十階全体が二人の殺気に圧殺されるように悲鳴を上げて、ガクガクと揺れているのだ。それを見守る観客たちも、闘いを止めた他のバトルフィールドの決闘者たちも、その場から動く事が出来なくなった。誰ともなく祈るように両手を合わせる。それは、ほんの少しでもこの二人の機嫌を損ねたら、その時点で自分が殺されるかも知れない。と言う畏れからくる、自然な行動だった。

 ファーストアタックはストライクだった。巨人の足跡に合わせるように、左足で強くフィールドを踏み鳴らし、グンッと沈むその身体は、踏み鳴らした反動で上に強く跳ね返る。それは何千何万と繰り返しした修練により身体に刻んだ雷震神拳の術理により、前方への推進力へと変換され、身体に捻りを加えながら、一瞬にしてフェイルーラとの彼我の距離を亡きものとし、ストライクの右拳がフェイルーラの顔面に向けて打ち込まれる。

 パンッ!! と遅れて会場に響く破裂音。それはストライクの右拳が、音速を超えて突き出された証明であり、フェイルーラがその突きを首を右に倒して躱した証明でもあった。

(初撃を躱すか。雷震拳は基本、初撃確殺。その一撃一撃、一つ一つが必殺の拳だ。音速を超えるその拳に全集中力を注ぐから、まず常人では躱す事は不可能なんだがな。ッ!)

 一撃に重きを置くが為、その反動で拳を突き出したまま硬直状態となったストライクの首筋目掛け、フェイルーラの手刀が迫る。

 しかしこれをかくんと脱力してしゃがんで躱すと、そこへ飛んでくるフェイルーラの膝蹴りから、ストライクは飛び跳ねて距離を取る。

「ふう。今の踏み込みは震脚しんきゃくって奴かい? 地面を強く踏み込む程、拳の威力が上がる拳法があるって師から聞き及んでいたけど、雷震神拳もその類のようだね。成程、ギガントシブリングス家と懇意にする訳だ」

「はっ! 超音速の突きを躱した奴が、知ったような口を聞くなよ」

「それは失礼。知ったか振りは顰蹙ひんしゅくを買うからねえ。この試合で派閥の皆に説明出来るくらいには、観察しておきたいかなあ」

「拳士なら、口ではなく行動で俺の力を引き出してみせな」

 ストライクはそう言って再度左半身に拳を構えると、その身に雷を纏う。ストライクのマッシュルームヘアが雷によってボワッと上に膨らむ。

「まあ、俺の速さに追い付けたなら、だけどな」

 サンダーパレス家。その家はその家名が表すように、歴代領主は雷に愛され、雷属性を持って生まれる。

 これに相対するフェイルーラは、ストライクのこの姿を見てもまだ、不敵に笑うのだった。
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