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光よりも速く
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「あ、あり得ない!」
心の底から絞り出した声で否定するストライク。この闘いを観ている全ての者の代弁だ。
「無属性魔力は、それ単体だけで存在する事が不可能な事は、魔法研究の歴史において立証されている! 無属性魔力は他の無属性魔力と繋がり、そうやって属性魔力となって初めてこの世界に顕現出来るんだ! 無属性魔力しか持たない人間、いや、存在などいない! いるとすれば……」
「神、かい?」
動揺のまま言葉を紡ぐストライクに対しての答え。フェイルーラは落ち着いていた。いや、それは周囲からは諦観のように観えた。
「そうだね。普通は無属性魔力、純魔力単体で存在する事はあり得ない。それは人類が実験に実験を重ね、属性魔力を純魔力に分解する実験により、分解され、純魔力となった魔力が、その存在を光速度よりも速く別の純魔力や属性魔力とくっつく事で証明されている」
「分かっていて、それを騙るのか」
ストライクの声には少なからずの怒気が込められていた。自身が神の名を冠した神拳を名乗る為にどれだけの努力を積み重ねてきたか、己自身が一番分かっているからだ。
「俺は、双子でね」
「知っている」
「こう表現するのは憚られるが、才能のほぼ全てをそっちに簒奪されて生まれてきたんだ」
「簒奪?」
フェイルーラの言葉に、ストライクは眉間にシワを寄せる。
「詳しくは向こうの不利になるから伏せるけど、それは肉体の性能であり、頭脳の明晰さであり、魔力量であり、……魔力の属性だった」
「弟に魔力属性を奪われたから、無属性で生まれた。と言いたいのか?」
「信じられないだろうけれど、それが真実よりも確かな事実だよ」
静寂に包まれる。誰も声を発さない。それはストライクだけでなく、観客たちも、他の決闘者たちもだ。
「信じられないだろうし、信じたくないだろうけれど、実際に俺には属性魔力はない。高性能な計測器で調べて、発表しても良い」
「…………」
「そう畏まる必要はないよ。俺は神じゃない。それは断言出来る。こんな出来損ないが、神なはずない。こんなのは神のイタズラさ」
「神のイタズラ?」
ストライクは更に眉間のシワを深くする。
「俺の尊敬する枢機卿の言葉でね。神はイタズラが大好きなんだそうだ」
「…………」
「イタズラに世界を創生し、イタズラに世界を存続させ、イタズラに世界中のものに罪を与え、イタズラに争いを起こし、イタズラに奇跡を起こし、……そしてイタズラに無属性魔力の人間なんて特異な存在を存続させている。ははは」
「何がおかしい」
自嘲気味に笑うフェイルーラにストライクが問う。
「いや、自分で言っていて何だけど、これだと神のイタズラと言うよりも、イタズラこそが神だな。と思っただけさ」
「…………」
「ストライク君は、神はどんなものだと思う?」
「…………」
「…………髭を生やしたおじいさんを想像するだろうね。君もこの国の人間だし」
「……まあ、そうだな」
ストライクは自身の想像した神の姿を的確に当てられて少し動揺するが、フェイルーラの言葉から、この国の人間ならば、誰であれ想像する神の姿は教会の礼拝堂の奥でこちらを見守るあの姿だと思い直した。
「神は人間を神に似せて作った。なんて事を宣う愚か者もいる。人間が他の生き物より上位の存在じゃないと気が済まない連中だ。もしかしたら本当に我々人間は神の似姿なのかも知れない」
「…………」
「でも我々は神じゃない。そして神も人間ではない。ペットや家畜と仲良くなれても、ペットや家畜が本当は何を考えているか分からないように、神が何を考えているかなんて、人類が永劫生存したとしても、両者ともに完璧には理解し合える事は出来ないだろうねえ」
「…………」
フェイルーラの知ったか振りのご高説に対して、難しい顔となるストライク。これを、自分の話が詰まらなかったと受け取ったフェイルーラは首を振る。
「教会に馴染みがないと、こんな話をされても困るよね。では、君が好みそうな話題にしよう。な~に、単純な話さ。人間や動物、目で見えるもの、手で触れられるもの、音として聴こえるもの、単純に五感で感じられるものは三次元の存在だ」
ここで一旦話を止め、ストライクの耳目を自身に集中させてから、フェイルーラは話を再開する。
「そして、霊体や精霊、属性魔力などは四次元のものとされる。では、無属性魔力、純魔力は?」
これに顔を歪めるストライク。
「五次元だ。先程少し触れたが、俺の魔力は魔力路内を光速を超えて巡る。たとえそちらが本当に雷速で動けると言っても、俺の眼はそれを捉えるぜ」
渋面になるとともに、ストライクの身体に余計な力が入る。
「ま、それも一瞬だけどね」
「一瞬?」
これにスッと力が抜けるストライク。
「そ。ほら、俺って魔力量がこのザマだから。師の話じゃ、俺の魔力量がこの二倍あれば、誰にも敗けない、神速の拳士になる事も可能だったらしい」
両掌を上に上げて、フェイルーラは肩を竦める。残念だ。と仕草で示しているが、その仕草や声音からは、残念無念と言う感情は伝わってこない。フェイルーラにとって、それはそれ程重要でない事を、逆に示していた。
「さて、闘技場は自分語りをする場所じゃない。時間もそろそろ終幕に向かっている」
フェイルーラが天井を見上げると、そこには残りの決闘時間が表示されていた。残り三分。
「神拳を名乗るのならば、不遜にも神速を騙る俺を、その拳で罰してみせろよ」
安い挑発だ。が、ストライクから提示した拳と拳の闘いである。自身の武術名を宣言した拳士同士の闘いだ。フェイルーラを自力で倒す為、ストライクは一度全身から完全に力の強張りも、魔力の強張りも抜いた。そして改めて構え直す。
「神速を語る拳士よ、俺はそれを不遜とは問うまい。しかし、神の威を借るならば、神の名を冠した拳でお前を誅しよう。願わくば、神速が偽りでない事を望む」
それだけ口にすると、ストライクは深く長く一度だけ息を吐き出して吸い込む。そして一気にそれを再度吐き出すと、その全身を包む雷は天に向かって放出される程に眩く力強く光を放ち、逆に巨人の足跡はバトルフィールド全体を押し潰さんと、フィールド全体を押し砕く。
「ここからは限界超えて行くぞ!!」
常人の眼では決して捉え切れない音速を超える超高速で、ストライクは連撃を繰り出す。右拳、左拳、右足、左足、肘、膝、肩、超音速波の破裂音が、衝撃波となって二十階を揺らす。
闘技場の防御機構で、普通の攻撃であればアバターから発生したものは観客席や他のバトルフィールドまで届かないが、臨場感を出す為、音と光は観客席まで届くのだ。それが偽りのものだったとしても、それは確かに波体として、振動として二十階を壊さんばかりに揺らし、それは戦場にいるかのような臨場感として、恐怖心と、高揚感と言う心の形となって観客たちや他の決闘者たちを射抜く。
そんなストライクの攻撃に対して、フェイルーラは的確に防御し続けた。そう的確に。蛇蝎骨法らしく。
時間にして五秒。その間にストライクは五十を超える攻撃を繰り出し、しかしてその量故に、フェイルーラの的確な防御の餌食となった。
ガクン。
次の攻撃を! と息巻いて身体を動かそうとしたストライクは、まるで糸が切れた操り人形のように突っ伏した。
(何が!?)
理解が追い付かず、しかし身体を動かそうとしてそこで初めて気付いた。全身の骨の半分が外されていた事に。
肩が、肘が、手首が、足首が、膝が、股関節が、仙骨が、頚椎が、そして手や足を構成する細かな骨に至るまで、関節を外されていた。雷によって超音速で身体を動かさていたストライクは、その筋肉に刺激を与えて無理矢理身体を動かしていた為、初撃から関節を外し続けていたフェイルーラの防御と言う形の反撃に気付くのが遅れ、そして半分の骨を外された段階で、身体が上手く機能しなくなり、突っ伏したのだ。
フェイルーラが本当に無属性なのか、それはストライクには分からなかったが、ただ一つ断言出来る事は、フェイルーラの動きは、異常な程に正確に機能すると言う事だ。正確に敵の攻撃をいなし、正確に敵の急所へ反撃する。神速であるかどうかよりも、その動きの正確性こそが、フェイルーラの蛇蝎骨法を己の雷震神拳と同レベル以上の神域にまで押し上げている。それがストライクの出した答えだった。
「さて、それではもう拳を握る事も出来ないだろう? 終いとしよう」
フェイルーラは正確なリズムで、正確な歩法で、ストライクに近付いていくと、スーッと右足を振り上げ、それを振り下ろす。
ズダンッ!! と言う重い衝撃とともにフェイルーラの踵がフィールドにめり込む。そう、フィールドにめり込んだのだ。
スッとフェイルーラが右へ視線を向けると、横へ転がったストライクが、ボキボキボキッと外れた骨を無理矢理付け直していた。そして何とか立ち上がるストライク。
「骨の付け外しは、そっちの専売特許じゃないんだぜ?」
「へえ」
言って構えるストライクに対して、フェイルーラは目を剥き、口角を深く上げて、獲物を見定めた獣のような顔を覗かせたのだった。
心の底から絞り出した声で否定するストライク。この闘いを観ている全ての者の代弁だ。
「無属性魔力は、それ単体だけで存在する事が不可能な事は、魔法研究の歴史において立証されている! 無属性魔力は他の無属性魔力と繋がり、そうやって属性魔力となって初めてこの世界に顕現出来るんだ! 無属性魔力しか持たない人間、いや、存在などいない! いるとすれば……」
「神、かい?」
動揺のまま言葉を紡ぐストライクに対しての答え。フェイルーラは落ち着いていた。いや、それは周囲からは諦観のように観えた。
「そうだね。普通は無属性魔力、純魔力単体で存在する事はあり得ない。それは人類が実験に実験を重ね、属性魔力を純魔力に分解する実験により、分解され、純魔力となった魔力が、その存在を光速度よりも速く別の純魔力や属性魔力とくっつく事で証明されている」
「分かっていて、それを騙るのか」
ストライクの声には少なからずの怒気が込められていた。自身が神の名を冠した神拳を名乗る為にどれだけの努力を積み重ねてきたか、己自身が一番分かっているからだ。
「俺は、双子でね」
「知っている」
「こう表現するのは憚られるが、才能のほぼ全てをそっちに簒奪されて生まれてきたんだ」
「簒奪?」
フェイルーラの言葉に、ストライクは眉間にシワを寄せる。
「詳しくは向こうの不利になるから伏せるけど、それは肉体の性能であり、頭脳の明晰さであり、魔力量であり、……魔力の属性だった」
「弟に魔力属性を奪われたから、無属性で生まれた。と言いたいのか?」
「信じられないだろうけれど、それが真実よりも確かな事実だよ」
静寂に包まれる。誰も声を発さない。それはストライクだけでなく、観客たちも、他の決闘者たちもだ。
「信じられないだろうし、信じたくないだろうけれど、実際に俺には属性魔力はない。高性能な計測器で調べて、発表しても良い」
「…………」
「そう畏まる必要はないよ。俺は神じゃない。それは断言出来る。こんな出来損ないが、神なはずない。こんなのは神のイタズラさ」
「神のイタズラ?」
ストライクは更に眉間のシワを深くする。
「俺の尊敬する枢機卿の言葉でね。神はイタズラが大好きなんだそうだ」
「…………」
「イタズラに世界を創生し、イタズラに世界を存続させ、イタズラに世界中のものに罪を与え、イタズラに争いを起こし、イタズラに奇跡を起こし、……そしてイタズラに無属性魔力の人間なんて特異な存在を存続させている。ははは」
「何がおかしい」
自嘲気味に笑うフェイルーラにストライクが問う。
「いや、自分で言っていて何だけど、これだと神のイタズラと言うよりも、イタズラこそが神だな。と思っただけさ」
「…………」
「ストライク君は、神はどんなものだと思う?」
「…………」
「…………髭を生やしたおじいさんを想像するだろうね。君もこの国の人間だし」
「……まあ、そうだな」
ストライクは自身の想像した神の姿を的確に当てられて少し動揺するが、フェイルーラの言葉から、この国の人間ならば、誰であれ想像する神の姿は教会の礼拝堂の奥でこちらを見守るあの姿だと思い直した。
「神は人間を神に似せて作った。なんて事を宣う愚か者もいる。人間が他の生き物より上位の存在じゃないと気が済まない連中だ。もしかしたら本当に我々人間は神の似姿なのかも知れない」
「…………」
「でも我々は神じゃない。そして神も人間ではない。ペットや家畜と仲良くなれても、ペットや家畜が本当は何を考えているか分からないように、神が何を考えているかなんて、人類が永劫生存したとしても、両者ともに完璧には理解し合える事は出来ないだろうねえ」
「…………」
フェイルーラの知ったか振りのご高説に対して、難しい顔となるストライク。これを、自分の話が詰まらなかったと受け取ったフェイルーラは首を振る。
「教会に馴染みがないと、こんな話をされても困るよね。では、君が好みそうな話題にしよう。な~に、単純な話さ。人間や動物、目で見えるもの、手で触れられるもの、音として聴こえるもの、単純に五感で感じられるものは三次元の存在だ」
ここで一旦話を止め、ストライクの耳目を自身に集中させてから、フェイルーラは話を再開する。
「そして、霊体や精霊、属性魔力などは四次元のものとされる。では、無属性魔力、純魔力は?」
これに顔を歪めるストライク。
「五次元だ。先程少し触れたが、俺の魔力は魔力路内を光速を超えて巡る。たとえそちらが本当に雷速で動けると言っても、俺の眼はそれを捉えるぜ」
渋面になるとともに、ストライクの身体に余計な力が入る。
「ま、それも一瞬だけどね」
「一瞬?」
これにスッと力が抜けるストライク。
「そ。ほら、俺って魔力量がこのザマだから。師の話じゃ、俺の魔力量がこの二倍あれば、誰にも敗けない、神速の拳士になる事も可能だったらしい」
両掌を上に上げて、フェイルーラは肩を竦める。残念だ。と仕草で示しているが、その仕草や声音からは、残念無念と言う感情は伝わってこない。フェイルーラにとって、それはそれ程重要でない事を、逆に示していた。
「さて、闘技場は自分語りをする場所じゃない。時間もそろそろ終幕に向かっている」
フェイルーラが天井を見上げると、そこには残りの決闘時間が表示されていた。残り三分。
「神拳を名乗るのならば、不遜にも神速を騙る俺を、その拳で罰してみせろよ」
安い挑発だ。が、ストライクから提示した拳と拳の闘いである。自身の武術名を宣言した拳士同士の闘いだ。フェイルーラを自力で倒す為、ストライクは一度全身から完全に力の強張りも、魔力の強張りも抜いた。そして改めて構え直す。
「神速を語る拳士よ、俺はそれを不遜とは問うまい。しかし、神の威を借るならば、神の名を冠した拳でお前を誅しよう。願わくば、神速が偽りでない事を望む」
それだけ口にすると、ストライクは深く長く一度だけ息を吐き出して吸い込む。そして一気にそれを再度吐き出すと、その全身を包む雷は天に向かって放出される程に眩く力強く光を放ち、逆に巨人の足跡はバトルフィールド全体を押し潰さんと、フィールド全体を押し砕く。
「ここからは限界超えて行くぞ!!」
常人の眼では決して捉え切れない音速を超える超高速で、ストライクは連撃を繰り出す。右拳、左拳、右足、左足、肘、膝、肩、超音速波の破裂音が、衝撃波となって二十階を揺らす。
闘技場の防御機構で、普通の攻撃であればアバターから発生したものは観客席や他のバトルフィールドまで届かないが、臨場感を出す為、音と光は観客席まで届くのだ。それが偽りのものだったとしても、それは確かに波体として、振動として二十階を壊さんばかりに揺らし、それは戦場にいるかのような臨場感として、恐怖心と、高揚感と言う心の形となって観客たちや他の決闘者たちを射抜く。
そんなストライクの攻撃に対して、フェイルーラは的確に防御し続けた。そう的確に。蛇蝎骨法らしく。
時間にして五秒。その間にストライクは五十を超える攻撃を繰り出し、しかしてその量故に、フェイルーラの的確な防御の餌食となった。
ガクン。
次の攻撃を! と息巻いて身体を動かそうとしたストライクは、まるで糸が切れた操り人形のように突っ伏した。
(何が!?)
理解が追い付かず、しかし身体を動かそうとしてそこで初めて気付いた。全身の骨の半分が外されていた事に。
肩が、肘が、手首が、足首が、膝が、股関節が、仙骨が、頚椎が、そして手や足を構成する細かな骨に至るまで、関節を外されていた。雷によって超音速で身体を動かさていたストライクは、その筋肉に刺激を与えて無理矢理身体を動かしていた為、初撃から関節を外し続けていたフェイルーラの防御と言う形の反撃に気付くのが遅れ、そして半分の骨を外された段階で、身体が上手く機能しなくなり、突っ伏したのだ。
フェイルーラが本当に無属性なのか、それはストライクには分からなかったが、ただ一つ断言出来る事は、フェイルーラの動きは、異常な程に正確に機能すると言う事だ。正確に敵の攻撃をいなし、正確に敵の急所へ反撃する。神速であるかどうかよりも、その動きの正確性こそが、フェイルーラの蛇蝎骨法を己の雷震神拳と同レベル以上の神域にまで押し上げている。それがストライクの出した答えだった。
「さて、それではもう拳を握る事も出来ないだろう? 終いとしよう」
フェイルーラは正確なリズムで、正確な歩法で、ストライクに近付いていくと、スーッと右足を振り上げ、それを振り下ろす。
ズダンッ!! と言う重い衝撃とともにフェイルーラの踵がフィールドにめり込む。そう、フィールドにめり込んだのだ。
スッとフェイルーラが右へ視線を向けると、横へ転がったストライクが、ボキボキボキッと外れた骨を無理矢理付け直していた。そして何とか立ち上がるストライク。
「骨の付け外しは、そっちの専売特許じゃないんだぜ?」
「へえ」
言って構えるストライクに対して、フェイルーラは目を剥き、口角を深く上げて、獲物を見定めた獣のような顔を覗かせたのだった。
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