SPIRITS TIMES ARMS

西順

文字の大きさ
101 / 103

約束

しおりを挟む
「俺だって修練の中で、関節が外れた事くらい何度だってある。それを即座に付け直せなければ、それこそ、即やられるからな。人体を理解しているのが、蛇蝎骨法の専売特許だと思うなよ」

「勝ち誇っているようで悪いけど、思っていないよ。医武同源が蛇蝎骨法の術理だからね。拳士であれば、それが他流派であっても、人体に通じている。と想定して対するように心掛けているから」

「成程。多少驚いただけか。攻撃では正確にして、人体の急所を的確に攻撃し、防御においても隙は見せず、葦の如くこれをいなし、更には反撃で骨まで外してくるとは、全く厄介だ」

「お褒め頂きありがとう? かな?」

 ストライクの嫌味も、フェイルーラは軽く受け流す。その間も、バキボキと関節を繋げていくストライク。しかし嵌める度に顔を歪めている。試合時間ももう少なく、今ならストライクを倒せるだろうが、フェイルーラはそれをしない。

「でも、俺にこれを使わせたのは称賛に値するよ」

「嫌味か?」

「いやいや、本当に褒めているんだよ。『二周解結』。俺が今ストライク君に使った技の名前だ。蛇蝎骨法の奥義の一つだよ」

 これにはストライクも目を細める。フェイルーラは底の知れない相手だが、だからこそ、フェイルーラが奥義で対抗してきた事が信じられないし、それが仮に本当だとしたら自分も大したものだと褒めてやりたい気分だった。

「二周解結はその名の通り、敵の周囲を二周する技だ」

 眉を顰めるストライク。フェイルーラがストライクの周囲を回っていなかった事は、ストライク自身も、観客たちや他の決闘者たちも分かっていたからだ。

「そんな睨まないでよ。それはあくまで奥義習得の為のプロセスなんだ。実戦で敵の周囲を二周するなんて余程実力差がなければ無理な話だ」

 これを聞いてストライクや観客たち決闘者たちは納得する。

「じゃあ二周の間に何をするのか。って話になるけど、まず一周目で敵の全身の関節を全て外し、そして次の一周で、敵が倒れる前に外した関節を繋ぎ直す。これが出来て、蛇蝎骨法は完成するんだ」

 これを聞いて会場の全員の背筋が凍る。それは詰まるところ、人体を完璧に理解し、解体し、結合させる。それを成し得る正確さと速度がなければ出来ない事だからだ。

「成程、それは確かに奥義だな」

「だろう? 師から奥義伝授の為に、何度これを食らった事か。覚えるのは地獄だったよ」

 それは拳士の奥義伝授なのか。ストライクも観客たちも決闘者たちも疑問に思う。が、それが出来るならば、これまでのフェイルーラの動きが鋭い一撃で終わっていた事の説明が付く。そして人体を壊す事に精通している事に。

「それよりも良いの? 関節は全部繋がっただろう? もう時間なくなるよ? 俺は別に引き分けでも良いんだけど」

 フェイルーラの言にハッとなり、ストライクは拳を構え、鼻と口から血が垂れた。

「がっ!? はっ!?」

 視界が歪み、三半規管がおかしくなり、立っているのも辛いくらいにフラフラとなる。

(何をされた? ッ!! 『蛇蝎』骨法!! 蛇蝎……!!)

「毒、か……!」

「正解」

 フェイルーラは特に悪気もなくストライクを称える。

(毒属性の攻撃? いや、あいつは無属性と言っていた。それも本当か? 普通に毒薬を使用された可能性もある)

 毒を使用する事は、闘技場のルールに違反していない。が、闘いを求めてやって来ている闘技場の決闘者たちや観客たちからは嫌われる戦法だ。事実、フェイルーラが毒を使ったと何となく察した目の肥えた観客たちからブーイングが起こる。

「いつ、毒を盛りやがった……」

 ストライクは分かりきっている事を尋ねていた。先程フェイルーラが反撃した時、ストライクの骨の半分が外された時、それ以外に考えられなかったからだ。

 が、どのように毒を盛ったのかが分からなかった。フェイルーラの服装は七分丈のジャージだ。手に毒薬を持てばストライクでも気付く。そうなると必然的に足、カンフーシューズに仕込んでいた事になる。

(足、か? いや、感触的に刃物や針の感触はなかった。服を着ていないところへ塗布された?)

 想像が想像を呼び、毒の影響もあり、思考が定まらず、悪い妄想の沼に意識が沈んでいくのが止まらない。

「活性毒」

「か、活性……毒?」

 聞いた事のない毒の名前を口にされ、ストライクは動揺で視線がブレる。

「人体を構成する物質の中には、過剰に分泌されると、逆に人体に毒となる物質があるんだよ。俺はそれらが過剰分泌される箇所に攻撃を加えただけ。その毒は君の身体から生まれた毒だよ」

「んなっ!?」

 薬の過剰摂取が毒となるのは自明であったが、体内物質を過剰分泌させて毒とする。そんな離れ業に、ストライクは気力が挫かれる。

 ぐらり。とうつ伏せに倒れゆくストライク。自身が生み出した毒により、朦朧となり消えゆく意識。しかし、ストライクは倒れなかった。一歩。足を踏み出し倒れる身体を持ち堪える。

「こんな……、こんな結末は許さない!!」

 顔を上げ、フェイルーラを睨むストライクの瞳は、バチバチと爆ぜていた。

「俺は、拳士だ! 俺は雷震神拳の拳士、ストライク・サンダーパレス! こんな敗けを、俺が許さない! 倒す! フェイルーラ・ヴァストドラゴン! 俺は! お前を! 倒す!!」

 ストライクから今日一番の雷光が立ち昇る。それでいてバトルフィールドは重い殺気、巨人の足跡により踏み潰されるようなプレッシャーがフェイルーラを襲う。

「これが、最後だ」

 毒に侵されながらも、ストライクの所作はスムーズだった。それはここに至るまで、幾千、幾万と、毎日、毎日、毎日、雨の日も雪の日も、そして雷の日も、最高の型を求めてストライクが続けてきた型の所作。それが今ここで完成した。

 二十階全体を真っ白に染める雷電の発光。その後を追うように、衝撃波と轟音が二十階が崩れるのではないかと言う程揺らした。

 突然の強烈な発光により、目を焼かれた観客たち、決闘者たち。その目に景色が戻ってきた観客たち、決闘者たちが目にしたものは、長くこの闘技場に居着いていて、初めて見た光景だった。

 恐らくストライクの拳をいなしたのだろうフェイルーラの左腕は、ストライクの攻撃をいなし切れずに消し飛び、そのカウンターでフェイルーラの右手刀が、ストライクの心臓を貫いていた。

 しかし、会場の誰もが驚いたのは、消し飛んだフェイルーラの左腕でもなく、ストライクの心臓を貫いた右手刀でもなく、ストライクのその姿だった。

 ストライクは全身が真っ黒に焼け焦げ炭化していた。それは自身の許容量を超える雷を生み出した証明であった。自傷を厭わぬ最大量の雷の鎚撃。フェイルーラの左腕が消し飛んだのも当然の事であった。

「…………く、まだ届かなかった、か……」

 ストライクはもう指先一つ動かない身体を、前に向かって倒す。これを身体で受け止めるフェイルーラ。

「いや、届いたさ」

「嘘、言うなよ。俺の敗けだ」

「そうか。そうかもな。でも、これが最後じゃない。また闘おう。神拳の拳士ストライク」

「ああ……。神速の拳士フェイルーラ」

 その言葉だけを残して、ストライクの身体は崩れ、フィールドから消えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...