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鎧袖一触

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 ズビームッ!


 一キロ以上離れた場所から、千体の人工天使たちが両手をかざし、こちらへ熱光線を放ってきた。それをサングリッター・スローンのバリアが防ぐが、どうやら相手の命中精度は低いらしく、いくらかが平原を燃やす。それに逃げ惑う参加者たちの姿が見えた。


 助けるのが人道なのだろうが、この場には人工天使の素材にされた三千人を除いて、一万七千人もいるのだ。これを守れとはまた難題である。


「動き出したぞ!」


 どうするべきかと逡巡する間も与えてくれず、遠距離からの熱光線が効かないと悟った人工天使たちが、こちらへ飛翔してくる。


「バヨネッタさん、上手くあの人工天使を一ヶ所に集められませんか?」


「分かったわ。リコピン」


『はい、マスター』


 理由も聞かずにサングリッター・スローンを浮上させてくれるバヨネッタさん。


「ここまできて、殺すな。とは言わないわよね?」


 こちらに迫る人工天使を前に、操縦室の玉座に座るバヨネッタさんがそんな事を口にした。


「サリィの時の不完全な人工天使とは見た目からして違いますからね。あそこから融合が解けて人間に戻れるとは思えません。とは言え、地上に被害が出るので、俺の合図があるまでは逃げ回ってくれるとありがたいです」


 俺の返答にバヨネッタさんは嘆息で応える。


「そう言う事らしいわ。リコピン」


『承知しました。全速力で回避しますので、皆様ご着席ください』


 リコピンの指示に従い、俺たちは操縦室の席に着く。どうすれば良いのか事態に付いていけてなかったイヤルガムも、武田さんが無理矢理席に座らせた。バンジョーさんはギュッと目を瞑って祈っている。


 その直後に、接近していた人工天使たちが光の剣を手の内に作り出し、それでもってこちらへ攻撃してくるが、それをバリアで弾いたサングリッター・スローンは、一気に加速してその場から離脱した。


 そのサングリッター・スローンに対して、熱光線を放ってきたり、光の剣や光の槍で攻撃してきたりする人工天使たち。だがそれらはサングリッター・スローンを操縦するリコピンによって華麗に回避されていく。


 時に上昇し、時に下降し、右旋回、左旋回、急停止に急発進と、リコピンは見事に人工天使たちの攻撃を回避し、それだけでなく、千体いる人工天使の周りを囲うように跳び回る事で、人工天使たちを一ヶ所へと集めていく。


「ハルアキ、用意は良い?」


「はい」


 バヨネッタさんの前の席で返事をした俺は、五閘拳・火拳を使ってオルさんから貰った夢幻香の指輪に火を灯す。これによって『有頂天』状態へと没入する。


「ふう……」


 息を整えると、俺は右手の平を上に向け、真っ青で周囲を光輪が回る小さな星である『清浄星』を顕現させると、その星に厚い雲を生み出した。それから丹田、腹、胸の坩堝を開き、己のLPを『清浄星』へと注ぎ込む。そうする事で『清浄星』は眩しく輝き、サングリッター・スローンと人工天使たちを、『清浄星』の中へと連れていったのだった。


「時間はほとんどありません」


「分かっているわ。一気に決める」


 既にバヨネッタさんは坩堝砲の準備に取り掛かっていた。全合一で感じ取れば、サングリッター・スローン上部後方で、人工坩堝が高速回転を始めているのが分かる。しかし何かしようとしているおれたちを、人工天使たちが大人しく待っていてくれる訳がない。だがそれは想定済みだ。現在の『清浄星』の空には、光輪が一切見えない程の厚い黒雲が立ち込めている。


「食らいな」


 俺が右人差し指を下に向けると同時に、万雷が千体の人工天使に降り注いだ。雷の威力と言うのは数千万から一億ボルトもあり、それは一般家庭の約五十日分を賄える電力、そして温度にして約三万度、太陽の四から五倍あるそうだ。


 流石に俺の『清浄星』でそこまでの雷を再現は出来ないが、それでも相当な威力である事は、目の前で黒焦げになっている人工天使たちを見れば一目瞭然である。が、


「やっぱり回復持ちか」


 これだけの雷をその身に浴びながらも、黒焦げだった天使たちは徐々元の姿に戻ろうとしていた。


「バヨネッタさん」


「回復出来ると言っても、塵も残さずこの世から消え去れば、回復しようもないでしょう」


『マスター、坩堝砲のチャージ、五十パーセントまで到達しました』


「十分ね。眼前の出来損ないどもを消滅させなさい」


『はい、マスター』


 バヨネッタさんの言葉を合図に放たれる五十パーセントの坩堝砲の威力は、当然ながら前回見せて貰った三十パーセントの坩堝砲を超えていた。しかもそれを一直線に放つのではなく、船体を横へ旋回させて、熱光線を横一線に薙いだのだ。


 坩堝砲の熱光線に触れると同時に、そのエネルギーによって蒸発していく人工天使たち。千体いた人工天使たちはものの数秒で全員蒸発し、その姿をこの世から消したのだった。


 同時に厚い黒雲に覆われていた世界が、午後の日差しが差し込む平原へと戻る。俺はぐったりしながら、『有頂天』で消費したHPを回復させる為に、ポーションをがぶ飲みする。


「これで終わりじゃないわよ」


「分かっています」


 バヨネッタさんに言われて、俺は席に座り直す。人工天使は消滅させたが、人工天使を造り出した馬鹿の始末が残っている。


「武田さん」


「大丈夫だ。既に捕捉して、ヒカルを送り込んでいる」


 言うなり武田さんは、サングリッター・スローンごと俺たちを『転置』でこんな事を仕出かした馬鹿のところへ転移させてくれた。

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