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「悪かったわ」
無事に全員集まった所で、バヨネッタさんが腰に両手を当て尊大にふんぞり返りながら、そんな言葉を口にした。言行不一致である。だけれど、まさかバヨネッタさんから謝罪の言葉が聞けるとは全員思っていなかったらしく、ざわりと皆に動揺が走った。
「何よ?」
「いえ、まだ『有頂天』状態で夢の中にいるのかと思って」
「ほう?」
俺の冗談に対して、キーライフルを突き出してくるのはやめて貰いたい。両手を上げて降参のポーズを取らざる得なくなるから。
「もう、分かったから、さっさと次の階層に進もう」
武田さんが間を取り持ってくれたが、そんな武田さんを睨み返すバヨネッタさん。
「さっさと次の階層ですって? それこそ冗談でしょう?」
「何でだよ?」
この武田さんの発言に対して、バヨネッタさんはデムレイさんと顔を見合わせ頭を振る。
「このフロアにまだ行っていない部屋があるでしょう? そこにも宝箱はあるはずよ」
成程、お宝目当てか。
「そう言われてもな。アルティニン廟上層の宝箱の中身は、大体スイッチで、それ以外だと護符系がほとんどだ」
まあ、このダンジョンの宝箱って小さいしな。それにベフメ領で手に入れたフーダオの花形箱や、天賦の塔の宝箱とは違って、中身は完全にランダムだ。でも財宝の魔女であるバヨネッタさんと、遺跡ハンターのデムレイさんからしたら、宝箱を取らずに階下に行くのは、嫌なんだろうなあ。
「武田さん、スイッチの数って、そのフロアの罠と同数な訳じゃないんですよね?」
「ああ。フロアの罠に対して多い時もあれば、少ない時もある」
となると、なるべくスイッチを使う場面は減らして階下に向かいたい。
「だが待ってくれ。このアルティニン廟は、一度入る度に、中身が様変わりするのだろう?」
デムレイさん、引き下がらないなあ。
「まあ、俺たちの世界で言えば、ローグライクと呼ばれるタイプのダンジョンみたいですから」
俺が言いながら武田さんに視線を送ると、頷き返してくれた。
「そうなると、一度取り逃がしたアイテムは、二度と手に入らない可能性だってあるんじゃないのか?」
ああ、その心配をしているのか。バヨネッタさんも強く頷いているしな。確かに、レアアイテムを取り逃がしたかも。と考えると、後悔する事になるか。
「でも先を急ぐ身でもあるからねえ。どこかしらでストップを掛けないと、こういった欲望は身を滅ぼすよ」
とのミカリー卿の発言に俺も同意だ。これがそれこそゲームであるなら、やり直しはいくらでも出来るが、現実では死ねば終わりなのだから、引き際は肝心だよなあ。
「武田さん、ワンフロア平均でどれくらいの罠が仕掛けられているか、覚えていますか?」
「そんなの覚えている訳ないだろう」
そうだよねえ。となると、
「皆さん、とりあえず今あるスイッチを全部出して、その数を確認しましょう」
俺の提言の下、皆がスイッチを出す。カッテナさんとダイザーロくんは五個ずつ。武田さんが八個で、ミカリー卿は三個。どうやら途中で鍵が罠である事に気付いたらしい。デムレイさんが十三個でバヨネッタさんが十四個。
「ま、負けた」
「ふふん」
勝ち負けじゃあないと思うけど。そして俺が二十二個。
「何でハルアキそんなに持っているの?」
「運ですかねえ」
『英雄運』のお陰で運が良いのか悪いのか。そもそもカッテナさん、ダイザーロくんのも俺がアニンで開けた宝箱からのものだしね。なので本来は三十二個となる。武田さんは自ら持っている鍵開け道具で自力で開けていた。
そして現在七十個のスイッチがあり、そこには五つの魔石が収められているから、約三百五十回は罠を解除出来る訳だ。う~ん。罠に対して多いようにも感じるけど、このフロアだけでも常時作動している罠が百以上あり、更に侵入者が足を踏み入れた時に発動するタイプの罠もある。となると不安は残るな。
「武田さん、一階一階のフロアの大きさって、大体この階と同じくらいなんですか?」
「いや、広かったり狭かったり、罠の数も多かったり少なかったり色々だが、下に行けば行く程、罠も魔物も凶悪になっていくな」
「ここの罠って、まだ可愛い方なんですね」
「そうだ。だからスイッチの数の管理はかなり重要になる」
「だ、そうです」
と俺が武田さんとの会話を、バヨネッタさんとデムレイさんに聞かせれば、二人はこれまで見た事ないように頭を抱えて懊悩していた。そこまでしてお宝が欲しいのか。
「折衷案を出すなら、ワンフロアで使って良いスイッチの数は、二十個まで。二十個以上は使わずに階下に降りる」
「ええ~、倍にならない?」
珍しくバヨネッタさんが、手を合わせて目を潤ませて懇願してきた。が、
「駄目ですね。生命に関わりますから」
と俺が毅然とした態度で出ると、
「くっ」
とそっぽを向くのだった。演技だったらしい。
「まあ、こちらには『空織』を持っている武田さんがいる訳ですから、最初にルート解析すれば、かなり回れると思いますよ」
「そうだな。このフロアはアルティニン廟としては広い方の部類に入るし、魔物も強かった。他のフロアはまだマシだろうから、二十までも使わずに全部屋回り切れると思うぞ」
やっぱりこのフロアは広い部類だったのか。いや、でも油断は禁物だよなあ。と俺が考えている横で、
「本当でしょうねえ? 嘘だったら承知しないわよ!」
と武田さんに詰め寄るバヨネッタさんとデムレイさんがいた。
無事に全員集まった所で、バヨネッタさんが腰に両手を当て尊大にふんぞり返りながら、そんな言葉を口にした。言行不一致である。だけれど、まさかバヨネッタさんから謝罪の言葉が聞けるとは全員思っていなかったらしく、ざわりと皆に動揺が走った。
「何よ?」
「いえ、まだ『有頂天』状態で夢の中にいるのかと思って」
「ほう?」
俺の冗談に対して、キーライフルを突き出してくるのはやめて貰いたい。両手を上げて降参のポーズを取らざる得なくなるから。
「もう、分かったから、さっさと次の階層に進もう」
武田さんが間を取り持ってくれたが、そんな武田さんを睨み返すバヨネッタさん。
「さっさと次の階層ですって? それこそ冗談でしょう?」
「何でだよ?」
この武田さんの発言に対して、バヨネッタさんはデムレイさんと顔を見合わせ頭を振る。
「このフロアにまだ行っていない部屋があるでしょう? そこにも宝箱はあるはずよ」
成程、お宝目当てか。
「そう言われてもな。アルティニン廟上層の宝箱の中身は、大体スイッチで、それ以外だと護符系がほとんどだ」
まあ、このダンジョンの宝箱って小さいしな。それにベフメ領で手に入れたフーダオの花形箱や、天賦の塔の宝箱とは違って、中身は完全にランダムだ。でも財宝の魔女であるバヨネッタさんと、遺跡ハンターのデムレイさんからしたら、宝箱を取らずに階下に行くのは、嫌なんだろうなあ。
「武田さん、スイッチの数って、そのフロアの罠と同数な訳じゃないんですよね?」
「ああ。フロアの罠に対して多い時もあれば、少ない時もある」
となると、なるべくスイッチを使う場面は減らして階下に向かいたい。
「だが待ってくれ。このアルティニン廟は、一度入る度に、中身が様変わりするのだろう?」
デムレイさん、引き下がらないなあ。
「まあ、俺たちの世界で言えば、ローグライクと呼ばれるタイプのダンジョンみたいですから」
俺が言いながら武田さんに視線を送ると、頷き返してくれた。
「そうなると、一度取り逃がしたアイテムは、二度と手に入らない可能性だってあるんじゃないのか?」
ああ、その心配をしているのか。バヨネッタさんも強く頷いているしな。確かに、レアアイテムを取り逃がしたかも。と考えると、後悔する事になるか。
「でも先を急ぐ身でもあるからねえ。どこかしらでストップを掛けないと、こういった欲望は身を滅ぼすよ」
とのミカリー卿の発言に俺も同意だ。これがそれこそゲームであるなら、やり直しはいくらでも出来るが、現実では死ねば終わりなのだから、引き際は肝心だよなあ。
「武田さん、ワンフロア平均でどれくらいの罠が仕掛けられているか、覚えていますか?」
「そんなの覚えている訳ないだろう」
そうだよねえ。となると、
「皆さん、とりあえず今あるスイッチを全部出して、その数を確認しましょう」
俺の提言の下、皆がスイッチを出す。カッテナさんとダイザーロくんは五個ずつ。武田さんが八個で、ミカリー卿は三個。どうやら途中で鍵が罠である事に気付いたらしい。デムレイさんが十三個でバヨネッタさんが十四個。
「ま、負けた」
「ふふん」
勝ち負けじゃあないと思うけど。そして俺が二十二個。
「何でハルアキそんなに持っているの?」
「運ですかねえ」
『英雄運』のお陰で運が良いのか悪いのか。そもそもカッテナさん、ダイザーロくんのも俺がアニンで開けた宝箱からのものだしね。なので本来は三十二個となる。武田さんは自ら持っている鍵開け道具で自力で開けていた。
そして現在七十個のスイッチがあり、そこには五つの魔石が収められているから、約三百五十回は罠を解除出来る訳だ。う~ん。罠に対して多いようにも感じるけど、このフロアだけでも常時作動している罠が百以上あり、更に侵入者が足を踏み入れた時に発動するタイプの罠もある。となると不安は残るな。
「武田さん、一階一階のフロアの大きさって、大体この階と同じくらいなんですか?」
「いや、広かったり狭かったり、罠の数も多かったり少なかったり色々だが、下に行けば行く程、罠も魔物も凶悪になっていくな」
「ここの罠って、まだ可愛い方なんですね」
「そうだ。だからスイッチの数の管理はかなり重要になる」
「だ、そうです」
と俺が武田さんとの会話を、バヨネッタさんとデムレイさんに聞かせれば、二人はこれまで見た事ないように頭を抱えて懊悩していた。そこまでしてお宝が欲しいのか。
「折衷案を出すなら、ワンフロアで使って良いスイッチの数は、二十個まで。二十個以上は使わずに階下に降りる」
「ええ~、倍にならない?」
珍しくバヨネッタさんが、手を合わせて目を潤ませて懇願してきた。が、
「駄目ですね。生命に関わりますから」
と俺が毅然とした態度で出ると、
「くっ」
とそっぽを向くのだった。演技だったらしい。
「まあ、こちらには『空織』を持っている武田さんがいる訳ですから、最初にルート解析すれば、かなり回れると思いますよ」
「そうだな。このフロアはアルティニン廟としては広い方の部類に入るし、魔物も強かった。他のフロアはまだマシだろうから、二十までも使わずに全部屋回り切れると思うぞ」
やっぱりこのフロアは広い部類だったのか。いや、でも油断は禁物だよなあ。と俺が考えている横で、
「本当でしょうねえ? 嘘だったら承知しないわよ!」
と武田さんに詰め寄るバヨネッタさんとデムレイさんがいた。
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