科学魔法学園のニセ王子

猫隼

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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー20・いったい誰なの?

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「おい、このクズゲス王子」
 学園に来るや、門で待っていたらしいリリエッタに、バージョンアップ(?)した異名で呼ばれ、胸ぐらを捕まれた偽物レイのユイト。
[「ナニモ、キイテマセン」]
 すぐさま風芸ウィンドアートで伝えてきたミユ。
 しかし伝えられるまでもなく、心当たりはいくつもあるのだろう事は、自分に向けられた同情の視線から、よく伝わってくる。
「フィオナに何したんだよ?」
 どうやらフィオナがらみらしい。
「いえ、何もしてないと思いますよ」
 そこははっきり言ってくれたミユ。
 
 そう、それは確かに間違いない。何せ、レイはただフィオナに避けられているというだけではない。
 そもそもレイの方もフィオナを避けているのだ。学園にユイトという影武者を通わせるほどにだ。

「いいか」
 ミユの言葉で、一応手は離してくれたリリエッタ。
「わたしだっているんだからな。フィオナに指一本でも触れたら、ぶっ殺してやるからな」
 それだけ言って、彼女は先に教室へと向かって行った。

「わりと、真面目に、どういう事?」
 とりあえず疑問を放つユイト。
「わりと真面目にわかりません」
 ミユは即座に答えた。

 だが、特にフィオナはいつもと変わらないように思えた。
 偽物と知らないレイに近づく事はせず、目も合わせようとしない。
 まったくもっていつも通りであった。

ーー

「おいユイト」
 授業を終え、麗寧館に帰宅すると、今度は本物のレイに詰め寄られるユイト。
「おまえ、いったい何したんだよ。フィオナに」
 レイの言葉に、ユイトとミユは顔を見合わせる
「何の話なの?」
「説明して」
 同時に言った。

 リリエッタの態度と、レイの驚きの、真相。それは単にパーティーへの招待状であった。
 フィオナの家であるアルデラント家が主宰するパーティーが近々あるのだが、なんとフィオナからレイ宛に招待状が届いていたのである。
 リリエッタはフィオナの親友なので、彼女がレイを招待した情報をいち早く知れたのだろう。

「ユイト、フィオナ様に何かしたの?」
 事情を知るや、ミユまでもがユイトに聞いた。
「いや、全然何もしてないんだけど、はずだけど」
 ユイトにはそうとしか答えようがなかった。

ーー

 しかし何がどうなっているにせよ、呼ばれたからには、なんとかするしかない。
「いい、ユイト。前は従者のあなたとしてだったから問題なかった。けど今回は、仮にも貴族であるレイとして出席するのだから、気をつけないといけない部分は多いわよ」
 ユイトに対し、社交界における貴族の基本的な振る舞いを教授するミユ。

 そう、結局、レイはどうしても行きたくないという事で、ユイトが行く事になったのだった。

「いっそ出席を断れないの?」とユイトは聞いたが、それはどうしても無理なのだという。
 なぜならレイが、女の子からの招待を断るのはありえないから。もし断ってしまったら、身内はともかく、レイとフィオナの不仲を知らない、多くの者の注目を集めすぎてしまうのだという。
 もっとも、平時ならそんな事は問題ではない。しかしレイは今、学園に影武者を通わせているという状況で、大きな注目はそれがバレるきっかけになりかねない。
 そういうわけで、ミユはもちろん、レイ本人も今回はかなり協力してくれて、なんとかパーティー前日までに、ユイトは、最低限といえるくらいの貴族の作法は身につけることができた。

ーー

 そしてパーティー当日。

「今日はお集まりいただき、ありがとうございます」
 壇上に立ち、開会スピーチを行うアルデラント家の現当主。 フィオナの母であるイルミナ。
 とても綺麗な人だった。フィオナも将来はあんなふうになるのだろうか。というふうに想像し、顔を赤くしてしまうユイト。
「レイ」
 その演じる名を呼び、彼の頬をつねるミユ。
[「デレデレシスギデス」]
 その通りであると、ユイトはハッとして気を引き締めなおす。
 そう、いくらフィオナの母が美人だと言っても、本物のレイなら、彼女を見ただけでみっともなく動揺したりなどしないだろう。

「まったく、こっちの気も知らないで」
「何か言ったか?」
 あまりに小声だったから、何を言ったのかはわからなかったが、しかしその耳のよさにより、ミユが何か言った事はわかったユイト。
「なんでもない」と拗ねたようにミユは返した。

「レイ」
 これまた意外な事に、偽物レイの姿を見つけるや、すぐさま声をかけてきたフィオナ。
「正直来ると思ってなかったわ」
 そのセリフは、本物のレイが想定していたパターンのひとつそのままであった。
(ほんと凄いな、レイくん)
 また素直に感心するユイト。
「よくよく考えたら、ぼくが女の子の誘いを断るわけないだろ」
 それもあらかじめ用意していた返しの台詞。
「そういえばそうよね」
 呆れ顔を見せて、後は何も言わずその場を離れ、こちらを睨み付けていたリリエッタのところへとフィオナは向かった。
 
 そして次にはまた意外な展開。
 フィオナと少し話をしてから、偽物レイのところにひとりで来たリリエッタ。
「リリエッタ様?」
 ミユもかなり意外そうな様子だった。
「ミユ、ちょっと彼を借りるわね」
「は、はい」
 もはや驚きすぎて、ミユも頷く事しか出来なかった。
「サギ王子、ちょっとついてきなさい」

ーー

[「コレハ、イクシカナイデス」]というミユの指示もあり、リリエッタに連れられ、パーティー会場のドームから出てきたユイト。

「何かな?」
「サギ王子」
 周囲に人気がないのを確認してから、リリエッタは急に、偽物のレイである彼を、手で壁に押し付ける。
「リ、リリエッタ?」
「お願い、フィオナには、あの子にだけは何もしないで」
 そして顔を近づけてきて、
「わたしも、あなたのになってあげるからさ」
 ユイトにだってわかる。
 これはどう考えてもキスされる展開。

「それは駄目」
 もう演技など出来ず、とっさに彼女を押しのけたユイト。
「ごめん、で、も」
 そこで、疑わしげな目で自分を見ていたリリエッタに気づき、彼女もまた演技だった事を悟る。

「やっぱり、あなたサギ王子じゃないわね。いったい誰なの?」
 そう、つまりリリエッタの唐突な行動は、レイではありえない反応を、偽物であろうユイトに引き出させるための策略であった。
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