科学魔法学園のニセ王子

猫隼

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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー22・友達

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「任せたわよ。後始末は」
 パーティー会場の外に来ていたガーディに、すれ違いざまアイテレーゼは言った。
「ああ」
 頷き、彼は会場へと入っていった。

ーー

「派手にやられたな」
 自ら刺さったフォークやナイフを抜き、血だらけで痛々しいユイトの前に立ったガーディ。
「フィオナちゃんが連れてかれた」
 痛みをこらえユイトは叫ぶ。
「アイ」
 そして問う。
「アイテレーゼ・クレザード・ルルシアは、どこ行った?」

 ガーディは問いには答えず、ただ一粒のカプセルを用意した。
「ユイト、今はおれを信じて、おとなしくしててくれ」
 そしてカプセルを飲み、一瞬苦しそうに顔を歪ませるガーディ。
「かなり、久しぶりなんで、失敗しないように」
 彼は手をユイトに向ける。
「あっ」
 いったいどういう事なのかはわからない。ただ、ガーディの手から放たれた光に当てられたユイトの傷口は、塞がれていった。
 痛みもひいていく。

「おれの特殊技能は、傷を治す、治癒ヒーリング
 ユイトの体を完全に治療しきってから、息切れ気味にガーディは言う。
「きみは、無能力者じゃないの?」
「ああ、けど、コアには誰でも、コード能力の性質が刻まれてる。おれたちみたいな無能力者は、自力ではアクセスできない、だけだ」
「さっきのカプセル?」
「直接に神経回路を活性化させて、一時的に、コアとアクセスを強制的にするドーピング剤だ。慣れてないから、こんなふうに余計に疲れるけどな」
 そして大きく息を吐き、その場にへたりこむガーディ。

「ユイト、大丈夫」
 ちょうど意識を取り戻したらしいミユ。
「フィオナは?」とリリエッタ。
「そうだ、ガーディくん、フィオナちゃんはどこに?」
「おれは知らない、けど」
 通信機を出して、起動させるガーディ。
「追ってもらってる」
「誰に?」
 問うユイト。
 答はすぐにわかった。

[「ミユ、ユイト、大丈夫か?」]
「レイくん」
「レイ」
 通信機から聞こえてきた声の主の名を、ユイトとミユは同時に口にする。
[「まったく、よその組織のエージェントからの依頼なんて前代未聞よ」]
「おれの立場上な。おまえたちに頼むしかなかった」
 仏頂面で、通信機の向こうのニーシャに返すガーディ。
[「ユイト、ミユ。フィオナちゃんたちは追ってるから。わたしたちの位置も、ガーディがわかるはずだよ」]
「エミィちゃん」
[「ユイト、感謝は早いからね。それに、友達でしょ、わたしたちも」]
 通信ごしでも、照れくさそうにしてるのが伝わってくるエミィの声。

「それじゃ、おまえたちはこっちへ」
 そしてユイトたちを外に連れていくガーディ。

ーー

 ちょうど外に出てきたところで、上空から現れたのは、黒い飛行船。
「おれの仲間だ。おれとアイテレーゼの関わりのせいで、戦いには手は貸せないけど、エミィたちが追ってるアイテレーゼの所までは連れていってくれるから」
 そこまでガーディが言った所で、着陸した飛行船。

「久しぶり、ガーディ」
 飛行船のドアを開けて、姿を見せた緑色のハンチング帽の少女。
 彼女はまずガーディを見て、そして、彼が連れてきていた他の3人を順に見ていく。
「ツキシロのサギ王子のお付きちゃんに、アルデラントのお嬢様の番犬ちゃん」
 ユイトを見たのは最後。
「そしてあなたがユイトくんね。ガーディのおともだ」
「余計な事は言うな」
 あくまでもクールに、しかし凄まじい早口で、ガーディは少女の事を遮った。
「さあ、おまえたち、さっさと乗れ。フィオナ・アルデラントを助けたいんだろ」
 ガーディの言葉に頷き、リリエッタもミユも飛行船に乗り込む。

「ガーディ、おまえは行かないのか?」
 開いたドアから顔を出してきた、スーツの男。
「ああ、多分行っても役に立てないだろうしな。むしろ感づかれる危険が高くなるだけだ。あの女の勘のよさは異常だから」
 その事をガーディは誰よりよく知っている。
 ただひとつ、彼にもわからなかった。

「ユイト」
 ユイトが飛行船内部に片足を入れた所で、その名を呼ぶガーディ。
「これは口止めされてるから、本人には絶対に言うな」
 そう念を押してから続ける。
「アイテレーゼが頼んできたんだ。どうかおまえを死なせないでくれって。あんなあいつ、おれは初めて見たよ。ほんとに一生のお願いって感じだった」
「アイちゃんが?」
 振り変えるユイト。
「ちょっとわけわかんないだろ。おれもそうだ」
 そう、少なくともガーディには、アイテレーゼの考えはまるで読めなかった。
 どう考えても彼女は、ユイトと敵対する事を本当は望んでいない。それなのになぜ、実際こうして彼と敵対したのか。
 いったい彼女は何をしようとしているのか。

「ガーディくん」
 ユイトはそして、恥ずかしげもなく告げた。
「おれ、きみが友達でよかったよ。アイちゃんの事、教えてくれてありがとう」
 それからドアは閉められ、飛行船は発った。

「友達、か」
 すぐに見えなくなってしまった飛行船が、最後に見えていた方を見ながら、ガーディは呟いた。
「おまえはどうなんだよ、クロ姫」

ーー

 飛行船に乗っていたガーディの仲間は3人だった。当然の事ながら、3人ともガーディが所属する組織フェイリスの構成員。
 緑帽子の少女がエージェントとしてのガーディのサポート係らしいナタリー。
 スーツの男が、ガーディの直属の上司ダリウス。
 それに飛行船のパイロットの男性がスクテロ。

「ガーディの奴、やっぱりさ、学校でもすましてるの?」
 自己紹介をすませるや、すぐに笑顔で問うナタリー。
「まあ、かなり物静かでクールな感じかな」
 ユイトが答える。
「でも、きみらは話とかするんだよな」
 今度はダリウスの問い。
「わりと最低限ですけど」とミユ。
「いや十分、それって、別に避けられたりしてるってわけではないんでしょ? あまり話しかけてこないから話す機会がないってだけで」
「それは、もちろんそうだよ。別に機会がある時は、会話が続かないとかそういう事もないし」
「うんうん」
 ユイトの返しに、かなり満足げなナタリー。

 どうやらガーディと同じくフェイリスで、かつ近しいナタリーたちは、彼の事を家族のように思っている。そしてアイテレーゼに雇われてからは、ほとんど連絡を取ってこない彼をわりと心配していたらしかった。

「ユイトくん、これはわたしたちの口から詳しく言える事ではないが、ひとつだけ」
 ダリウスはひとつだけ、ガーディの事をユイトたちに話した。
「あの子もきみと同じ、地上世界出身なんだ。だからきっと親近感を抱いてもいるはずだ」
 ユイト以上に、ミユとリリエッタの方が、その事実に驚かされた。ユイトとしては、少し戦った時、学園での模擬戦闘や、エミィたちと一緒に戦った時などと比べて、地上での戦いに近い感じを受けていたから、実はそこまで驚きはしなかった。
「お互いに立場もあるだろうが、どうか仲良くしてあげてほしい」
「はい」
 力強くユイトは頷いた。

 そしてそうこう会話している内に、アイテレーゼたちの乗った黒い自動車。
 そのアイテレーゼたちを追っていたレイたちを乗せたSIAシアの飛行船に、ユイトたちを乗せた飛行船は、追いついた。
 それはちょうど、アイテレーゼたちの自動車が、彼女らのアジトらしきビルのガレージに入って行ったくらいの時。


──

"治癒ヒーリング"(コード能力事典・特殊技能10)

 細胞を復元、修復する事で、傷などを治療する特殊技能。
 最も古くから知られている能力とされる。
 しかし対象に動きがあればあるほど、上手く治癒させるのが難しくなるので、戦闘中などにはほとんど使えない。
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