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第九話
王都防衛戦 ⑶ 温泉に入りたい男
しおりを挟むオーストベルク海軍の猛将タンガ・ロウはガレオン軍艦の物見台からズール城の南の断崖を望遠鏡で観察していた。
褐色の肌に上半身裸で、顔までタトゥーが刻まれており、筋骨隆々の肩に海軍の制服を羽織っただけの姿は海賊から成り上がった彼のここまでの人生を物語っている。
「なんだぁ、ありゃあ」
断崖絶壁に横にくり抜かれた大きな三つ縦に並んでいる。
上段は窓枠があってガラス張り、その向こうに何やら器具が並んでいる。
中段は遮るものは無く、湯気の様なものが立っている。
「あれは……風呂、か?」
3段目は真っ白い扉が閉まっている。中に何があるか、今はわからないが……。白い塗料は城壁などの設備ではあまり使用されない。遠目から目立つからだが、それも新鮮な見た目で彼をワクワクさせた。
(なんだ、あの設備は……すげぇ快適そうじゃねぇか!!ほ、欲しいぞ、あの城!)
(だが、我々はただの援軍、落城寸前だが落ちたところで……いや、落城のどさくさでなんか持って帰るか。物でも女でも……しかし、魔族が溢れ返る城内での掠奪は容易では無い……)
三十隻からなるガレオン軍艦は横陣二列で砲撃可能な船側を王城に向け、彼の旗艦『マタ・ウエンガ』は後列中央に位置していた。
後ろに控えていた副官が声をかける。
「将軍、そろそろ鼓舞の鬨です」
「わかってる」
「お前らぁ!、鼓舞の鬨だぁーー!!」
タンガ・ロウの声は激しい波音に負けず鳴り響いた。
各艦から鳴り響く太鼓の音と共に、砲兵以外の全ての兵士が、待っていたかの様に猛獣の様な唸り声を上げながら甲板に出てきた。いずれもまともに制服は着ておらず、やはり全身にタトゥーが刻まれている。
「戦の刻だ!目を覚ませ海神よ!」
「おう!!!」
タンガ・ロウの声に、全兵士がドンっと足を踏み鳴らして呼応した。
「我らは死を恐れない獣だ!目の前の敵を殺して殺して喰らい尽くす!」
「おう!!!」
「海神よ!」
「ご照覧あれ!!!」
「我らの!」
「生き様を!!!」
「我らの!」
「死に様を!!!」
鼓舞の鬨が終わり、太鼓の乱打と共に開戦の勇壮なラッパが吹かれる。
タンガ・ロウは砲撃指示の為に再び望遠鏡を覗いた。
その時、閉まっていた最下段の白い扉がゆっくりと開き始めた。
「何か出て来るぞ!あの扉が開いたら第一陣は一斉に撃ち込め!」
タンガ・ロウの指示が旗艦の前から横に広がって行く。
各ガレオン軍艦の船側に並んだ十二門二列、計二十四門の大砲が次々と狙いを定めていく。
白い扉が完全に開いた!轟音と共に大砲が撃ち出されていく。
「あっ!!!」
タンガ・ロウは確かに見た。
大砲が撃ち出されて視界が煙る直前、扉の開いた空間から、巨大な黒龍が飛び立つのを。
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