黄泉の探偵〜魂魄が導く事件簿〜

ディスマン

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第一章 透明人間殺人事件

第五話 逃げた無実の男

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 池袋五丁目は、商業地帯が近いとは思えないくらいに閑静だった。庭の草垣やソーラーパネルの反射も相まって、静けさの中に人の手垢がついた不定形さがあった。
 メモした住所を元に倉本の家へ向かうと、二階建てで一階がガレージになっている青い屋根の家を見つけた。窓は全て閉め切っていて、家主の精神状態を物語っている。

「ここがあいつらのハウスね」
「ふざけてる場合?」
「すんません」

 悪ふざけの出鼻を挫かれた夜見は、しおらしくなって普通にインターホンを押した。しかし、何回押しても返答はない。これは恐らく、相手が警察関係者だと警戒している。
 開けてもらわなければ埒があかないので、僕はちょっとした説得を試みた。

「倉本さーん。別に逮捕とかで来たんじゃなくて、貴方以外の真犯人について聞きたいんですよ」

 その一言の後、ゆっくりと玄関が開いた。中からは、警戒と期待が半分ずつの表情をした倉本が顔を覗かせた。あまりにも負のオーラを放っているせいで、来ているパジャマの色まで落ち込んでいる気がした。

「・・・・・・その話ホントですか?」
「うん」
「口調が軽い軽い」




 ひとまず倉本の家に上がり込んで、塞ぎ込んだ中学生並みに荒れた部屋に座った。服はそこら辺に脱ぎ捨てられ、小さなビニール袋にはゴミが溜まっている。
 しかしクローゼットの服は綺麗に整頓されていることから、余程外に出るのが怖かったのだろう。少し位置の高い棚の上には、趣味である釣りや友人の写真が置かれていた。
 夜見たちは、彼がなぜここまで殻に閉じこもっていたのかは大体見当がついていた。しかし、自分らが話すよりも本人の口から言わせた方が気分もスッキリして情報を喋りやすくなってくれる。対話における心理学の基本の一つだ。

「午前三時に何があった?」
「あの日、俺とアイツ・・・小森こもりは休暇を数日同じ日に取ったから深夜に遊んでみようって池袋で夜まで飲んで、あのビルをたまたま見かけたから入ったんだ」
「小森? 今回の事件で死んだ被害者の名前?」
「あぁ。小森隼こもりしゅん、それがアイツの、俺の友達の名前だ」
『俺は・・・小森、隼』

 蓮、いや小森は自分の本名を何度か口ずさんだ。違和感なく呼べている様子からして、本当に本名だったようである。

「なんでビルに入った? 気まぐれとかじゃねえんだろ?」
「あそこは学生時代にイタズラで入ったことがあるんだ。屋上は鍵が掛かってるけど、老朽化で三回くらいガタガタ揺らせば鍵は開く」
「・・・つまり、あのビルの屋上に入れる人間は犯人じゃないってことだな」
「え?」
「屋上に被害者と行けるならそこで殺せばいい。なのに真犯人は向かいのビルから暗闇の中、頭を狙い撃ちにしている」

 そう話していると、僕のポケットの携帯が震えた。画面を見ると、送信元は西原だ。

「もしもーし」
『夜見、被害者の襟首に細い貴方と引っ張られたようなシワがあることが分かったぞ』
「やっぱりね。じゃあこっちも一つ、当時小森くんとそのビルに入った倉本くんは犯人じゃないから、向かいのビルの捜索よろしくねー。んじゃ」
『は? え、おいちょっとーーー』

 言いたいことと聞きたいことだけ得た僕は、西原の制止も聞かずに電話を切った。携帯をポケットに戻し、何事もなかったかのように白々しく話を回す。

「犯人に心当たりありません? 例えば、最近小森の周辺でトラブルがあったりとか」
「いや、そういった話は一切・・・」

 一向に殺される動機が見えてこない。もしかしたらと、邪推というか、最悪な答えが導きされそうになる。まさかではあるが、これは言わぬが華な気がしたので黙っておいた。

 もしや、小森は勘違いで殺されたのではないか。どれだけ犯人が計画してても、暗闇でどこに人がいるかは分かっても、誰なのか判別はできないのじゃなかろうか。
 そんな疑問が巡る。そもそも近距離ならまだしも、向かいのビルという遠距離から夜の標的など区別できようがないのだ。だがこれはあくまで仮説であって、断言できる証拠はまだない。

「その小森の自宅って知ってますか?」

 朔弥がちょっと可愛げに聞く。この手のことは朔弥の方が事がスムーズに運ぶ。異性と容姿を利用してる時点で軽いハニートラップな気がしなくもないが、事件だから仕方ない。

巣鴨新田すがもしんでんです。都電荒川線でここから二駅北にあります」
「ご協力ありがとうございました。警察には貴方の無実は知らせてあるので、もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございました。どうか、犯人を捕まえてください」

 被害者の本名と住所、そして事件当時に何があったかという大きな情報を得たところで、僕たちは小森の家がある巣鴨新田へ向かうことにした。西原も僕が被害者を特定しているのを知っているから、警察に余計な指示を出したりはしないだろう。短くない関係だからこその信頼がそこにあった。

「・・・いやぁ、言わないで正解だったね」
「『何がですか?』」
「霊とハモんなよ、面白いだろうが。あの岸本には酷な話だけど・・・・・・


小森、アンタは犯人に岸本と間違えられて殺された可能性があるぞ」

『ーーーーーーー何だって?』
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