僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々

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EPISODE1 幼い頃の約束

幼い頃の約束②

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「とりあえず、家の中に入れてよ」
 最終的には強引に扉を開けられてしまい、無遠慮に部屋へと上がり込まれてしまう。見ず知らずのイケメンに手を引かれ、リビングへと戻ってきた蒼汰は、その男の顔をまじまじと眺める。


 先程の話からして、きっと蒼汰とこの男は同じ年に違いない。でも、蒼汰は誰かと結婚の約束したことがあるのだろうか……。必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
 それに正直なところ、まだこの男のことを完全に信用したわけではない。何か犯罪に巻き込まれるのではないか……そんな恐怖心が拭いきれない。
 でもそんな蒼汰のことなどお構いなしに、突然の訪問者は人懐こい笑顔を蒼汰へと向けた。


「よかった、また蒼ちゃんに会えて」
「え?」
「俺、ずっとずっと蒼ちゃんに会いたいと思ってたんだ。だから、会えて嬉しいよ」
 ――あ、この人、もしかしたら……。
 そう照れくさそうに笑う笑顔に、蒼汰は見覚えがあった。


「二十歳になったら結婚しようね」


 記憶の片隅にある甘酸っぱい思い出。その芽がむくっと地上に顔を出したように感じた。


「君、もしかして、怜音れお君?
「ふふっ。やっと思い出した? そう俺は、[[rb:神木怜音 > かみきれお]]だよ」
「……本当だ、怜音君だ……。あんなに小さかった怜音君が、こんなイケメンに成長するなんて……」
「ふふっ。蒼ちゃんは、しばらく見ないうちに本当に可愛くなったね。さすが俺の番だ」
「つ、番だなんて……あんな子供の頃の約束を本気にしてるのか?」
 蒼汰は真ん丸な目を更に見開いて怜音を見上げる。
 だって、あの約束をしたのは本当に幼かった頃だ。その約束を律義に守るだなんて……馬鹿真面目にも程がある。


「蒼ちゃんはあんな約束忘れちゃったかもしれないけど、俺は本気だよ」
「……なんで?」
「だって、蒼ちゃんは俺の初恋の人だから」


 恥ずかしいのだろうか? 前髪を掻きむしる怜音。その姿は確かに昔の名残はあるけれど、すごくかっこよくて……心がざわざわと波打つ。
 こんなイケメンが自分の番になりたいだなんて、まるで夢をみているようだ。もしかしたら、恋人にふられた哀れなΩに、神様がプレゼントを贈ってくれたのだろうか。
 だって、それ以外は考えられない。
 今こうして怜音が自分に会いに来てくれたことが、嬉しくもあった。


「ありがとう。……俺、怜音くんのことをついさっきまで忘れてたくせに、会えて嬉しい。こんなの都合がいいよね? ごめん」
「そんなことないよ。俺は、俺のことを思い出してくれただけで十分嬉しいから」
「怜音君……」
 優しく笑いながら髪を撫でられると、蒼汰の心が熱く震える。こんな風に誰かに髪を撫でられたのなんて、久し振りだったから。
 大きくてゴツゴツした怜音の手が気持ちよくて、蒼汰はそっと目を閉じた。


「あのさ、すごく可愛いんだけど、少し離れてくれないかな?」
「あ、ご、ごめん」
 いつの間にか怜音の洋服を握り締めていた蒼汰は、ハッと我に返りその手を離した。久しぶりに会った怜音にこんなにもときめいてしまうなんて……あまりにも移り気な自分に嫌気がさしてしまった。
「いや、別にくっついてもらう分にはいいんだけど、蒼ちゃん今ヒート中でしょ? 微かにだけどフェロモンの香りがするから、今は少し距離を置いたほうがいいかも……」
「あ、怜音君ってαだったっけ?」
「うん。だから、俺たちは運命の番なんだよ」
「ひ、久し振りに再会していきなり番だなんて……怜音君は気が早すぎだよ。俺、正直どうしたらいいかわかんないんだけど……」
「ふふっ。悩んでる蒼ちゃんも可愛いなぁ」
「なんだよそれ、俺はこんなにも真剣に悩んでるのに……」
「そうだね、ごめんごめん」
 そう照れくさそうに笑う怜音を見ていると、不思議と元気になる自分がいる。蒼汰は、久しぶりに肩の力が抜けていることに気付いて、驚きを隠すことができなかった。


「蒼ちゃん夕飯まだ? いまから俺が何か作るよ。えっと、リビングの電気はこれかな?」
「あ、ちょっと待って! 怜音君、電気はつけないで!」
「え? なんで? 大体、蒼ちゃん部屋の電気もつけず真っ暗な中、何してたの?」
 リビングの電気をつけようとした怜音の腕にしがみついたけれど、あと一歩間に合わず……部屋に明かりが灯されてしまった。


 ――あぁ、もう終わりだ。


 蒼汰はガックリと肩を落とす。
 失恋してから約一カ月。家事もほとんどしていなかったリビングは荒れ放題で……イケメンへと成長した怜音を、招き入れられる状態ではないのだ。
 ごみ捨てにも行かないから室内にはごみが散乱し、脱ぎ散らかされた洋服はそのまま床に放り投げてある。カップラーメンの空き容器やお菓子の空き袋……もはや、足の踏み場もないほどにリビングは荒れ果てていた。


「蒼ちゃん、この部屋は……」
「ごめん、ずっと掃除してなくて……」
「とりあえず窓を開けてもいい? ちょっと匂うから」
「あ、カーテンだけは開けないで!」
 蒼汰が大声を出せば、カーテンを開けようとした怜音の手が止まる。びっくりしたような顔で、蒼汰を見つめていた。
「お願い……カーテンだけは開けないで……」
「どうした? 蒼ちゃん。顔が真っ青だよ? もしかして何かあったのか?」
 怜音の手が、そっと蒼汰の頬に触れられる。
「蒼ちゃん、震えてる」
 何も言わず俯く蒼汰の様子を窺いながら、怜音が遠慮がちに抱き締めてくれた。


 大きくて逞しい怜音の腕の中で、どんどん感情が高ぶってく。今までずっと耐え忍んできた、苦しさや寂しさ……そういった感情が津波のように押し寄せてくるのを感じる。
 蒼汰の心の中で、プツンと何かが切れた瞬間だった。


「怜音君……ふぇ……俺、俺……」
「よしよし、何か辛いことがあったんだね? 可哀そうに」
「俺、俺……苦しいし、寂しい……」
「うん。わかった。泣いてもいいよ。ずっとここにいるから」
 怜音の腕の中は温かくて心地いい。
 蒼汰はようやく息をすることができたような気がする。優しく背中を擦ってくれる怜音の手が、とても心地よかった。


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