僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々

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EPISODE5 新しい第一歩

新しい第一歩②

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 それ以来、明らかに怜音の態度が変わったように感じられる。自分と怜音との間に、見えない壁が立ちはだかっているようだ。
 前みたいに親しく話しかけてきてはくれないし、笑ってもくれない。その原因を作ったのが自分自身だということはわかってはいるけれど……蒼汰は強い孤独感に襲われた。


「怜音君、まだ怒ってるの?」
 何度もそう問いかけようとしたけど、寂しそうな顔をする怜音に、声をかけることなんてできない。


 ――俺は、怜音君を傷つけてしまったんだ……。


 きっと怜音は怒っているのではなくて、傷ついたのだ。それがひしひしと伝わってくる。
 恋人と別れてボロボロになった自分に優しくしてくれた怜音を、最低な方法で傷つけてしまった……。蒼汰の心は引き裂かれんばかりに痛む。
 それなのに、怜音に謝る勇気さえない自分が腹立たしかった。
「俺は本当に最低だ……」
 溢れ出した涙を手の甲で拭う。
 怜音の温もりが、ひどく恋しかった。


「蒼ちゃん、おにぎり作っておいたから食べてね。俺、大学に行ってくるから」
「怜音君……」
「今日は帰ってから、蒼ちゃんの好きなオムライス作るから待っててね」
 まだ布団の中にいる蒼汰の頭を、怜音が優しく撫でてくれる。
 関係がギクシャクしても、自分を気遣ってくれる優しさが逆に辛くて。蒼汰は頭から布団を被った。
「行ってらっしゃい」
「うん。行ってくるね」
 寂しそうな怜音の声が聞こえた。


 怜音が居なくなった部屋からは生活音が消え、静けさに包まれる。この部屋は、こんなにも静かだったのか……と思い知らされた。
 最近のこの部屋には、怜音の笑い声が響き渡っていた。食事を作る音がキッチンから聞こえてくるし、洗濯機が回る音もする。
 そんな音が心地よかった。
 いつもカーテンの締め切られたこの部屋が、明るくなったように感じられて……蒼汰はいつの間にか、寂しさを感じることがなくなっていた。


「今すぐ、怜音君に謝りたい」
 衝動的にスマホを握り締めたけど、そっとベッドの上に置く。時計に視線を移せば、夕方の四時だ。
 怜音が出掛けてから、ずっとベッドから出ることができなかった自分にガッカリしてしまう。蒼汰は失恋したあの日から、全然成長なんてしていない。
 ましてや、怜音に会う前の生活に戻りつつあることが情けなくて、目頭が熱くなる。蒼汰はグッと奥歯を噛み締めた。
 でも……。


「……変わりたいな……」


 ポツリと呟く。
 それは嘘偽りのない、蒼汰の本心だった。
 失恋をしてから家に引き籠もり、全てのものから目を背け続けてきた日々。でも怜音に出会って、心の底から変わりたいと思った。


「行こう」
 蒼汰は意を決して布団から抜け出す。
「大丈夫、怖くなんかない。前の生活に戻るだけだ」
 大きく息を吐いて呼吸を整えながら、自分に言い聞かせる。それから、ずっと閉じられていたカーテンを一気に開いた。
「俺は、変わるんだ」


◇◆◇◆


「よし、行くぞ」


 気合を入れて玄関の扉を開けた。ヒンヤリとした空気に包まれた蒼汰は、ブルッと震える。
 外の世界がこんなにも寒かったなんて、今の今まで知らなかった。
 引き籠っていた蒼汰は、洋服なんていうものに気遣ってこなかった。そんな蒼汰がクローゼットの中からよそ行きの洋服を引っ張り出した。
 大学に通っていたときによく着ていた青いパーカーに、お気に入りだった白いパンツ。照れくさく感じたから、黒いニット帽を目深に被った。
 たったそれだけで、心臓が張り裂けそうな程緊張してしまう。今の蒼汰にとって外に出るということは、とても勇気のいることだった。でも、これが新しい一歩を踏み出すために必要なことだと感じられる。


「俺は昔の自分を取り戻すんだ」
 そう心に決めて、蒼汰はアパートの階段を駆け下りた。


 怜音が通っている大学は、蒼汰の住んでいる街から電車に乗らなければならない所にあった。久しぶりに乗る電車に、否応なしにも緊張してしまう。
「わぁ……久しぶりだなぁ」
 大学に通うために毎日来ていた駅が、ひどく懐かしく感じられた。


 駅にはたくさんの店が並んでいて、今はハロウィン一色に染まっている。大勢の人が急ぎ足で歩いている姿は、きっといつもと変わらない光景なのだろう。
 それでも、ずっと薄暗い部屋に閉じこもっていた蒼汰の瞳には、ハロウィンで飾られた店も、家路を急ぐ人々も、全てがキラキラと輝いて見えた。


「懐かしい」
 思わず涙が出そうになる。高鳴る心臓がうるさいくらいだ。
「でも大丈夫。行けそうだ」
 蒼汰は拳をギュッと握り締めて、ホームへと続く階段を、一歩ずつ上がっていった。


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