僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々

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EPISODE5 新しい第一歩

新しい第一歩③

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「あった……」


 勢いで来たものの、蒼汰は早くも後悔してしまう。
 突然大学に押しかけてきた自分を、怜音はどう思うだろうか。緊張してしまい、手先が急に冷たく感じられる。 
「せめて、連絡してから来ればよかった……」


 大体、怜音が今大学にいるのかもわからない状況だ。もうとっくに帰ってしまっているかもしれない。勢いでここまで来てしまったことを、少しだけ後悔してしまった。
「ここが怜音君の通っている大学……」
 怜音は、将来小学校の先生になりたいと話してくれたことある。蒼汰がその話を聞いたとき、怜音は教師に向いている……そう素直に感じたのだった。


 恐る恐る大学の敷地内に足を踏み入れてみる。時々すれ違う学生が、蒼汰には別世界に住む人間のように輝いて見えた。つい先程まで引き籠っていた蒼汰には、何もかもが刺激的に見えてしまう。
「やっぱり帰ろうかな」
 そう思ったとき、遠くのほうから大勢の笑い声が近付いてくる。その中に聞き慣れた声を覚えた蒼汰は、そちらに視線を向けた。


 ふわりと、怜音の香りが蒼汰の鼻腔をくすぐる。
 もしかして……蒼汰の鼓動が少しずつ速くなった。


「あ、見つけた。怜音君」


 蒼汰の視線の先には五、六人の学生たちが楽しそうに話しながらこちらに向かって歩いてくる。一瞬見ただけでわかる、美男美女のグループ。明らかにカースト上位に君臨するα達だ。
 その集団の中で一際目を引く存在。怜音の周りにいる学生たちは、みんな顔立ちが整っていて、スタイルもいい。そんな中にいても、怜音の美しい容姿は目を引く存在だ。
 蒼汰は怜音を一目見ただけで、胸が熱くときめいた。


「怜音君……」


 それと同時に悲しくなってしまう。
 自分は信じていた恋人に捨てられて、つい先程まで引き籠っていたちっぽけなΩ。怜音とは住んでいる世界が違う……そう感じられた。
 今蒼汰の目の前にいる怜音は、綺麗な女の子達に囲まれている。
 あんなに立派なαが、自分と番になりたいだなんて、そんはずがない。あれは夢だったのかもしれない……。そう思えてしまうくらいだ。今、怜音の隣で笑っている女の子たちの方が、はるかに彼と釣り合っている。


 ――やっぱり、俺は怜音君には不釣り合いだ。


 怜音に気付かれる前に引き返そうと、慌てて踵を返そうとした蒼汰。でもそれは叶わなかった。


「あれ? もしかして蒼ちゃん? やっぱり蒼ちゃんだ。どうしたの? こんな所で」
「あ、あの……あの……」
 なんと返事したらよいのかがわからず、思わず俯いてしまう。だって、よくよく考えてみたら、一歩間違えればストーカーではないか? 突然冷静さを取り戻した蒼汰は、血の気が引いていくのを感じた。
 そんな蒼汰の元に、嬉しそうな顔をしながら怜音が走り寄ってくる。逃げ出したい衝動に駆られたが、怜音があまりにも嬉しそうな顔をしているものだから、必死に堪えた。


「もしかして、俺のことを迎えに来てくれたの?」
「……えっと、あ、うん……。ごめんね、突然来ちゃって。友達がいるのに、迷惑だったよね」
「全然そんなことないよ。超嬉しい」
「わッ!」
 いきなり怜音に抱きつかれた蒼汰は、バランスを崩してよろめいてしまった。それでも、数日ぶりに感じる怜音の匂いと温もり……蒼汰の心は怜音でいっぱいになってしまう。思いきり、怜音を抱き締め返した。


「蒼ちゃん。もしかして、カーテン開けられたの?」
「……うん。カーテンも開けたし、外にも出られたよ」
「凄いね、蒼ちゃん。偉いよ」
「うん。ありがとう」
「蒼ちゃん、めちゃくちゃ頑張ったね」
「だって、だって……俺、怜音君に会いたかったら。直接会って謝りたいって思ったら、居ても立っても居られなくて……」
「そっかぁ。嬉しいなぁ」
 そう言いながら、怜音が優しく頭を撫でてくれる。久しぶりに怜音に頭を撫でられた蒼汰の心が満たされていく。勇気を振り絞ってよかった……そう思えた瞬間だった。
 ここは怜音が通っている大学の構内……そんなことはすっかり頭の中から抜け落ちてしまい、夢中で怜音にしがみついた。


「ちょっと怜音、その子誰?」
 突然聞こえてくる不機嫌そうな声に、一瞬で我に返る。蒼汰は慌てて怜音から体を離した。
「その子、Ω? 怜音、Ωにそんなに親しい知り合いなんていたんだ?」
 グループの中にいた女の子たちが、明らかに「不愉快だ」と言った顔をしている。αに見下されるのなんて慣れてはいるけれど、それとはまた違った感情が混ざっているように蒼汰は感じた。


 ――あぁ、この女の子たちは怜音君のことが……。


 蒼汰は咄嗟にそう思った。


 先程までの満たされた感情は、一瞬で劣等感に変わっていく。やっぱり、こんな綺麗なαに勝てるはずなんてない。
 怜音はモテるだろうと思ってはいたけれど、自分の知らない一面を垣間見てしまったことに、蒼汰の胸はズキズキと痛んだ。


「あ、この子? 蒼ちゃんはね、将来俺の番になる子なんだ」
「え? ちょ、ちょっと怜音君……」
 蒼汰は目を見開きながら怜音を見上げる。これでは火に油を注いでいるだけではないか。蒼汰は気が気でない。
 しかし、そんな蒼汰など気にする様子もなく、そこには満面の笑みを浮かべた怜音がいた。女の子たちの表情が、より一層険しいものとなる。
 ――怜音君、俺との関係を隠さないんだ。
 蒼汰は驚きを隠せない。まさか、自分のような冴えないΩと番になるのだと、友人たちの前で言ってもらえるとは想像もしていなかったのだ。


「ちょっとどういうこと? あたしが告ったときに言ってた好きな子って、もしかしてそのΩなの?」
「あぁ、そうだけど」
「なにそれ? じゃああたしは、そんな冴えないΩに負けたっていうの? 超気分が悪いんだけど!」
「はぁ? お前何言ってんの?」


 怜音の表情に徐々に怒りの表情が滲んでいくのが見て取れた。普段怜音は温厚な性格をしているのに、蒼汰のこととなると、途端に凶暴な感情を剝き出しにすることがある。
 それはまるで、本能的にαがΩを守ろうとする姿にも見えて……蒼汰の胸が熱くなる。まるでヒートしているときのように、体が徐々に熱を持っていった。


「俺にとって、この人はすごく大事な人なんだ。お前たちと比べ物にならないくらいな。この人を馬鹿にするような奴と、一緒になんかいたくない。行こう、蒼ちゃん」
「で、でも……あの子たちいいの? 友達なんでしょ? すごく怒ってるみたいだけど」
「別にいいよ。俺の蒼ちゃんを侮辱する奴なんて、俺には必要ないから」
「でも……」
「俺には蒼ちゃんがいればいい。他の奴なんてどうでもいいよ」
 怜音に向かって怒声を浴びせる女の子のことなど気にする様子もなく、怜音は蒼汰の手を引いて歩き出した。

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