天使と悪魔が恋に堕ちて

舞々

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第一章 謎の転校生

謎の転校生②

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「相変わらず、生徒達にモテてるんだな?」
「わっ! え? ミスター・レン。な、何かご用でしょうか?」
「ふふっ。驚かせてしまったようだな。すまんすまん」
 突然の背後からの声に、羽音は跳び上がる程びっくりしてしまう。振り返れば、世界史担当の教師、ミスター・レンが立っていた。


 クスクスと悪戯っぽく笑うミスター・レンは羽音から見たら大人の男性だ。彼の目の前に立つと若造の自分のことなんて、なんでも見透かされてしまっているような心地がして、嫌でもドキドキしてしまう。色素の薄い長い髪を一つに緩く束ねて、銀のフレームの眼鏡をクイッと上げる仕草をするミスター・レンは、妙に色っぽい。モデルのようにスラッとした体型は、彼の整った顔立ちを更に引き立てた。


「ただ、いただけないな。神父の卵が男色なんて……」
「それは、わかっています」
 同性愛を良しとしない宗教は意外と多い。
 この由緒正しい、伝統校でもあるセイント・アクシオ学園で同性愛なんて……世間にバレたら社会的な問題として取り上げられることだろう。しかし、この多感な時期の青年達が大勢集まれば、例え同性同士だとしても色恋沙汰に発展してしまうという問題は防ぎきれないのかもしれない。
 現に、例え教員に見つかったとしても厳重注意を受ける程度で、何らかの罰を受けた生徒は今まで誰もいなかった。


「もし恋人が欲しいのなら……」
 突然、耳元に熱い吐息を感じた瞬間、羽音はミスター・レンに腰を抱き寄せられ、その腕の中に囚われてしまう。
「恋人が欲しいのなら、俺にしておけ。俺は教師であり、神父ではないから」
 そっと耳打ちされれば、全身を甘い電流が駆け抜けていくのを感じた。
「それに、教師と生徒の禁断の恋なんて燃えるじゃないか?」
「ちょ、ちょっとミスター・レン……こんなところ、誰かに見られたら……」
 羽音は、耳がどんどん熱くなっていくのを感じ、思わずギュッと目を閉じた。
「可愛い可愛い来栖君……」
 このミスター・レンは、なぜかことある事に羽音にちょっかいを出してきては、「恋人になろう」と誘惑してくるのだ。自分にはない、大人の色香を持ったミスター・レンに言い寄られてしまえば、羽音も無意識に体が熱くなってしまう。


「しかし……残念ながら、今日は君を口説きに来たわけじゃない」
 名残惜しそうな顔をしながら、ミスター・レンが羽音から体を離した。
「実は一週間後に、転校生がやって来ることになったんだ」
「転校生?」
「ああ。とある事情があり、このセイント・アクシオ学園に編入してくる事になった」
 もうすぐ、クリスマスだという中途半端な時期に編入してくるなんて。よっぽどの事情があるのだろう……羽音はそう感じていた。


「その生徒は、君より二つ年下の日本人だ。その子のお爺様が神父をやっていて、ゆくゆくは彼がそれを引き継ぐ予定だった」
「お爺様が神父様を……それは由緒正しい良家のご子息なんでしょうね」
「そう。素晴らしい神父のお孫さんだ。しかし……」
「しかし?」
 ミスター・レンが珍しく真面目な顔をしたから羽音は無意識に眉を顰めた。早く先が知りたいという好奇心が生まれる。


「ある事件に巻き込まれ、心に深い傷を負ってしまったそうなんだ。そんな孫を心配したお爺様が、彼の為を思い、この学園に編入させることを決めたらしい」
「そうですか……心に傷を負って転入だなんて、余程怖い思いをしたのかな」
 その人は、どれ程怖い思いをしたのだろうか。どれ程心の傷を負ったのだろうか。転校生のことを思えば、羽音の胸は締めつけられる。明らかに寂しそうな顔をしながら俯く羽音を、ミスター・レンはそっと抱き寄せた。


「君にそんな顔をさせる為に、この話をしたわけではないぞ? 本当に、馬鹿が付く位お人好しだな」
「わかってます。でも、誰かが辛い思いをしていることが、僕は嫌なんです」
「本当に優しいんだな? そんな来栖君を、今からベッドの中で慰めてやろうか?」
「はぁ? 貴方という人は……こんな時まで冗談を言うのですか?」
「よかった。いつも通りになったな」


 いつの間にか、夕焼けが校舎を真っ赤に染め上げていた。羽音が大好きな教会も、夕日に照らされている。冬は太陽が出る時間が短い。もうすぐ、悪魔が活動を始める夜がやって来る。そんな寂しそうな景色を眺めながら、羽音はまだ見ぬ転校生を思い、また密かに胸を痛めた。
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