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第十二章 羽音とハノン
羽音とハノン②
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「嫌だ!」
「そんなことを言ったって、俺とのキス好きでしょう? ほら、もう蕩けてる」
「ちが、違う……そんなんじゃない……」
もう、絶対瑞稀には抱かれないと誓ったはずなのに、どこまでも淫乱なこの体を呪ってしまう。
瑞稀の輝かしい神父としての未来を、自分が奪ってしまうわけにはいかない……それは、今の羽音が瑞稀にしてあげられる、最大限の愛情表現だった。
──だから……抱かれるわけにはいかない……。
「羽音……ん、羽音……」
愛おしそうに自分の唇に吸い付いている瑞稀の唇に、カリッと歯を立てる。その瞬間、弾かれたように瑞稀が羽音から体を離した。
唇からうっすら血が滲む瑞稀を、羽音は真正面から見つめた。
「瑞稀……お願い……僕は星屑になってもいい。でも、絶対に君に抱かれるわけにいかない……」
「なんで? なんでなんだよ⁉」
「瑞稀、お願い待って、お願いだから……」
「待てるわけねぇだろうが⁉」
突然の大声に羽音は言葉を失ってしまった。こんな瑞稀は見たことがない……その隙を突かれ、羽音はベッドに押し倒されてしまう。羽音は必死に体を捩りながらながら、何とか瑞稀の腕から逃れようと全身に力を込めた。
「嫌だ! 止めて! お願い!」
「暴れんなよ! 大人しく抱かれてくれ!」
「嫌だ! 嫌だぁ!」
羽音が藻掻く度に、背中の真っ黒な羽がバサバサと揺れ、部屋の中に飛び散った。自分を抱き寄せようとする瑞稀の腕に爪を立て、体を固くして抵抗し続ける。
「大人しくしろ、羽音。怪我するぞ」
「だめぇぇ‼ やめて‼」
「嫌だ。俺は絶対に羽音を抱く」
「嫌だぁぁぁぁ‼」
羽音の悲痛な叫びが、静かな室内に響き渡った。
「お願い、瑞稀……僕を愛しているなら、最後まで来栖羽音でいさせてください」
「羽音……」
「例え、見た目がインキュバスになってしまったとしても……僕は、人間のまま死にたい……」
羽音の瞳から、宝石みたいに綺麗な涙がハラハラと零れ落ちる。
「それに、君は将来立派な神父になるべき人だ。僕みたいなインキュバスを抱いてはいけない。僕は、愛する人の腕の中で星屑になって消えて行った、ハクの気持ちがよくわかるんです」
「羽音、俺は……」
何か言いかけた瑞稀の口を、羽音は両手で塞いでしまう。
「お願いだから……もう、何も言わないで……」
そのまま、力なく俯いた。
──これでいい。これでいいんだ……。
羽音は天秤のように揺れ動く自分自身に、何度も何度も繰り返し言い聞かせ続けてきた。
「もし、君が本当に僕を愛しているならば……」
羽音はそっと顔を上げ、瑞稀に向かって微笑んだ。その笑顔は、まるで天使のように透き通っていて……瑞稀が苦痛に顔を歪める。
それと同時に、最後まで瑞稀を支え続けていた何かが、音をたてて崩れていった瞬間だった。
「僕を愛しているなら、このまま星屑にならせてください」
「羽音……」
「僕は、例えインキュバスだとしても、誰かを心から愛し、愛されたいと願ってきました。
でもその夢を、君が叶えてくれた。僕は、本当に幸せなインキュバスです」
そのまま、羽音はそっと瑞稀の胸に顔を埋めた。
「ありがとうございます。瑞稀。愛しています」
窓際には、カナデが置いて行った白百合の大輪が、夜露に濡れてキラキラと輝いている。
「ありがとう」
羽音は、とても幸せそうに微笑んだ。
これが、瑞稀に見せた、羽音の最後の笑顔だった。
「そんなことを言ったって、俺とのキス好きでしょう? ほら、もう蕩けてる」
「ちが、違う……そんなんじゃない……」
もう、絶対瑞稀には抱かれないと誓ったはずなのに、どこまでも淫乱なこの体を呪ってしまう。
瑞稀の輝かしい神父としての未来を、自分が奪ってしまうわけにはいかない……それは、今の羽音が瑞稀にしてあげられる、最大限の愛情表現だった。
──だから……抱かれるわけにはいかない……。
「羽音……ん、羽音……」
愛おしそうに自分の唇に吸い付いている瑞稀の唇に、カリッと歯を立てる。その瞬間、弾かれたように瑞稀が羽音から体を離した。
唇からうっすら血が滲む瑞稀を、羽音は真正面から見つめた。
「瑞稀……お願い……僕は星屑になってもいい。でも、絶対に君に抱かれるわけにいかない……」
「なんで? なんでなんだよ⁉」
「瑞稀、お願い待って、お願いだから……」
「待てるわけねぇだろうが⁉」
突然の大声に羽音は言葉を失ってしまった。こんな瑞稀は見たことがない……その隙を突かれ、羽音はベッドに押し倒されてしまう。羽音は必死に体を捩りながらながら、何とか瑞稀の腕から逃れようと全身に力を込めた。
「嫌だ! 止めて! お願い!」
「暴れんなよ! 大人しく抱かれてくれ!」
「嫌だ! 嫌だぁ!」
羽音が藻掻く度に、背中の真っ黒な羽がバサバサと揺れ、部屋の中に飛び散った。自分を抱き寄せようとする瑞稀の腕に爪を立て、体を固くして抵抗し続ける。
「大人しくしろ、羽音。怪我するぞ」
「だめぇぇ‼ やめて‼」
「嫌だ。俺は絶対に羽音を抱く」
「嫌だぁぁぁぁ‼」
羽音の悲痛な叫びが、静かな室内に響き渡った。
「お願い、瑞稀……僕を愛しているなら、最後まで来栖羽音でいさせてください」
「羽音……」
「例え、見た目がインキュバスになってしまったとしても……僕は、人間のまま死にたい……」
羽音の瞳から、宝石みたいに綺麗な涙がハラハラと零れ落ちる。
「それに、君は将来立派な神父になるべき人だ。僕みたいなインキュバスを抱いてはいけない。僕は、愛する人の腕の中で星屑になって消えて行った、ハクの気持ちがよくわかるんです」
「羽音、俺は……」
何か言いかけた瑞稀の口を、羽音は両手で塞いでしまう。
「お願いだから……もう、何も言わないで……」
そのまま、力なく俯いた。
──これでいい。これでいいんだ……。
羽音は天秤のように揺れ動く自分自身に、何度も何度も繰り返し言い聞かせ続けてきた。
「もし、君が本当に僕を愛しているならば……」
羽音はそっと顔を上げ、瑞稀に向かって微笑んだ。その笑顔は、まるで天使のように透き通っていて……瑞稀が苦痛に顔を歪める。
それと同時に、最後まで瑞稀を支え続けていた何かが、音をたてて崩れていった瞬間だった。
「僕を愛しているなら、このまま星屑にならせてください」
「羽音……」
「僕は、例えインキュバスだとしても、誰かを心から愛し、愛されたいと願ってきました。
でもその夢を、君が叶えてくれた。僕は、本当に幸せなインキュバスです」
そのまま、羽音はそっと瑞稀の胸に顔を埋めた。
「ありがとうございます。瑞稀。愛しています」
窓際には、カナデが置いて行った白百合の大輪が、夜露に濡れてキラキラと輝いている。
「ありがとう」
羽音は、とても幸せそうに微笑んだ。
これが、瑞稀に見せた、羽音の最後の笑顔だった。
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