天使と悪魔が恋に堕ちて

舞々

文字の大きさ
52 / 61
第十二章 羽音とハノン

羽音とハノン②

しおりを挟む
「嫌だ!」
「そんなことを言ったって、俺とのキス好きでしょう? ほら、もう蕩けてる」
「ちが、違う……そんなんじゃない……」
 もう、絶対瑞稀には抱かれないと誓ったはずなのに、どこまでも淫乱なこの体を呪ってしまう。
 瑞稀の輝かしい神父としての未来を、自分が奪ってしまうわけにはいかない……それは、今の羽音が瑞稀にしてあげられる、最大限の愛情表現だった。


 ──だから……抱かれるわけにはいかない……。


「羽音……ん、羽音……」
 愛おしそうに自分の唇に吸い付いている瑞稀の唇に、カリッと歯を立てる。その瞬間、弾かれたように瑞稀が羽音から体を離した。
 唇からうっすら血が滲む瑞稀を、羽音は真正面から見つめた。


「瑞稀……お願い……僕は星屑になってもいい。でも、絶対に君に抱かれるわけにいかない……」
「なんで? なんでなんだよ⁉」
「瑞稀、お願い待って、お願いだから……」
「待てるわけねぇだろうが⁉」


 突然の大声に羽音は言葉を失ってしまった。こんな瑞稀は見たことがない……その隙を突かれ、羽音はベッドに押し倒されてしまう。羽音は必死に体を捩りながらながら、何とか瑞稀の腕から逃れようと全身に力を込めた。


「嫌だ! 止めて! お願い!」
「暴れんなよ! 大人しく抱かれてくれ!」


「嫌だ! 嫌だぁ!」 
 羽音が藻掻く度に、背中の真っ黒な羽がバサバサと揺れ、部屋の中に飛び散った。自分を抱き寄せようとする瑞稀の腕に爪を立て、体を固くして抵抗し続ける。


「大人しくしろ、羽音。怪我するぞ」
「だめぇぇ‼ やめて‼」
「嫌だ。俺は絶対に羽音を抱く」
「嫌だぁぁぁぁ‼」


 羽音の悲痛な叫びが、静かな室内に響き渡った。


「お願い、瑞稀……僕を愛しているなら、最後まで来栖羽音でいさせてください」
「羽音……」
「例え、見た目がインキュバスになってしまったとしても……僕は、人間のまま死にたい……」


 羽音の瞳から、宝石みたいに綺麗な涙がハラハラと零れ落ちる。


「それに、君は将来立派な神父になるべき人だ。僕みたいなインキュバスを抱いてはいけない。僕は、愛する人の腕の中で星屑になって消えて行った、ハクの気持ちがよくわかるんです」
「羽音、俺は……」
 何か言いかけた瑞稀の口を、羽音は両手で塞いでしまう。
「お願いだから……もう、何も言わないで……」 
 そのまま、力なく俯いた。
 

 ──これでいい。これでいいんだ……。
 羽音は天秤のように揺れ動く自分自身に、何度も何度も繰り返し言い聞かせ続けてきた。


「もし、君が本当に僕を愛しているならば……」


 羽音はそっと顔を上げ、瑞稀に向かって微笑んだ。その笑顔は、まるで天使のように透き通っていて……瑞稀が苦痛に顔を歪める。
 それと同時に、最後まで瑞稀を支え続けていた何かが、音をたてて崩れていった瞬間だった。


「僕を愛しているなら、このまま星屑にならせてください」
「羽音……」
「僕は、例えインキュバスだとしても、誰かを心から愛し、愛されたいと願ってきました。
 でもその夢を、君が叶えてくれた。僕は、本当に幸せなインキュバスです」
 そのまま、羽音はそっと瑞稀の胸に顔を埋めた。


「ありがとうございます。瑞稀。愛しています」
 窓際には、カナデが置いて行った白百合の大輪が、夜露に濡れてキラキラと輝いている。


「ありがとう」
 羽音は、とても幸せそうに微笑んだ。
 これが、瑞稀に見せた、羽音の最後の笑顔だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

処理中です...