天使と悪魔が恋に堕ちて

舞々

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第七章 暴かれた真実?

暴かれた真実?⑦

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「誰だ、そこにいるのは?」
 瑞稀が暗闇のほうに向かい、静かに声を掛けた。
 少し離れた所から、ギュッギュッと雪を踏む音が聞こえてくる。その足音は、ゆっくりと羽音達に向かって近付いてきた。


「あーあ……結局これか……」
「何だと?」
「あんな写真まで貼り出したのに、結局あんた達は別れてはくれなかった」
「あんな、写真?」
「そう、あんた達が、今みたいにキスしてる写真だよ」


 少しずつ浮かび上がってくるそのシルエットに、羽音は血の気が引いていくのを感じる。あんなに温かかった体が、再びカタカタと震え出した。


「奏……。どうして、あいつがここに……?」


 羽音と瑞稀の前に現れたのは、あの仮面の男だった。仮面の隙間から覗く瞳が、ゆっくりと三日月のように細められていくのがわかる。
 そんな仮面の男が、瑞稀に向かってそっと歩を進めた。


「久しぶりだな、九条君」
「……誰だよ、お前」
 そう声を掛けられた瑞稀が、怪訝そうに眉を顰める。


「忘れるはずなんてないだろう? だって、俺は、お前の初めての相手なんだから」
「…………」 
 瑞稀は奏を前にしてもなお、相手の言うことにいまいちピンときていないようだった。
 怪訝そうな表情を崩さない。


「相変わらずいい男だな」
 瑞稀の反応など構わず、そう言いながら、奏が仮面の中でクスクスと笑った。


「お前が、あの写真を?」
「そうだよ。お前達の仲を引き裂くために」
 瑞稀の言葉に、奏が冷たく言い放つ。


「だって、瑞稀は俺の物だろう?」
「は? お前、何言ってやがる」
「本当にわからないの? 俺はさ……」


 奏が少しずつ羽音達の方に近付いてくるのを見て、瑞稀は咄嗟に自分の後ろに羽音を隠した。その様子を見て、奏が眉を顰める。


「思い出してよ。俺は、あの時お前を犯したインキュバスだよ」
「……は? 何言ってんだよ……意味がわかんねぇ」
「覚えてない訳ないだろう? あんなに激しく抱き合ったんだから」


 怒りからか、瑞稀の顔が一気に強張り全身がガタガタと震え出す。奥歯を噛み締めて、奏を真正面から睨み付けた。


「お前と契った後、お前のじいさんの企みのせいで、ミセス・サラに捕らえられた。それで、無理矢理人間にさせられたんだ」
「人間に……?」
「そうだ。ミセス・サラ程、力があるシスターなら、俺達悪魔を封じることくらい、わけないだろうから」


 奏が悔しそうに舌打ちをする。仮面で覆われて顔を見ることはできないが、その場に立っているだけで妙に扇状的で魅力に満ちている……そんな雰囲気を奏は持っていた。
 元はインキュバスだという話を、簡単に信じてしまうほどに。


「あの夜……お前は俺との口付けを拒絶した。それなのに、羽音とはあんなに熱い口付けをして……」
 奏が、苦々しく羽音を睨み付ける。それを察知した瑞稀が、羽音を庇うように抱き寄せた。そんな瑞稀に羽音は必死にしがみつく。


「瑞稀、お前は俺の物だ」
「何をふざけたことを……俺はお前の物なんかじゃない!」
 瑞稀が大声を出せば、奏はひるむどころか楽しそうな声で笑う。


「ふふっ。俺はふざけてなんかいないよ。でも、忘れらんないんだ。逞しい腕も、蕩けそうな程甘い精液も……今思い出すだけで、体が疼く……」
「やめろ、いい加減にしてくれ!」
「なぁ? もう一回、俺を抱いてくれないか?」
「お前、いい加減にしろよ?」


 羽音を抱く腕が、怒りからブルブル震えている。整った顔には血管が浮かび上がり、瑞稀が怒り狂っているのが伝わってきた。


「お前みたいな悪魔を、誰が抱くか……」
 その言葉に羽音は反応し、瑞稀の顔を見上げた。


「瑞稀は、インキュバスが嫌いなの?」
 おかしそうにしながら、嫌にゆっくりとした口調で奏は瑞稀に問いかける。


「当たり前だろ? 誰がお前みたいな悪魔を……」
 それを聞いた奏が嬉しそうに微笑む。きっと、この言葉を待っていたのだろう。


「でもこの学園には、もう一人インキュバスがいるんだよ?」
「なんだって? インキュバスがもう一人?」


 その言葉に、羽音の心臓がバクバクと鳴り響く。呼吸がどんどん浅くなり、体が小刻みに震え出した。
 この場から逃げ出したいのに、体が凍り付いてしまったように動かない。


「そう。そのもう一人のインキュバスは、人間の皮を被って、お前たちを欺いて生きているんだ」
「…………」
「案外、お前のすぐ傍にいるかもよ?」
「お前、何言って……」
 瑞稀の声が、震えているのがわかる。


「ね? 羽音。ううん。もう一人のインキュバス」
「何だって……」
「もう一人のインキュバスは、来栖羽音だよ」
「ぅ、嘘だ……そんなの信じられるわけがない」


 瑞稀が恐る恐る羽音を振り返る。その顔は真っ青で、今にも泣き出しそうだ。
 

 羽音の心が鷲掴みにされたかのように痛んだ。


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