時を転じて陰陽師は恋をする

舞々

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第六章 一夜の過ち

一夜の過ち⑤

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「ん、んん……朝か……」


 眩しい朝日に薄目を開けるが、まだ寝足りない智晴はもう一度目を閉じる。すぐ近くには温かくて抱き心地のいい枕があったから、それに顔を埋める。


「気持ちいい……」


 再び夢の世界に戻ろうとした智晴は、一瞬で現実世界に引き戻された。勢いよく飛び起き、自分の身に起きていることを確認した智晴から、サッと血の気が引いていく。
 飛び起きた瞬間、腰に鈍い痛みを感じ思わず顔を顰めた。


 自分が抱き枕だと思っていたものの正体は我鷲丸だった。今までも我鷲丸となんやかんやで一緒に寝ていたこともあり、それは許容範囲ではあったのだが……問題は、自分も我鷲丸も一糸纏わぬ姿で抱き合って眠っていたということだ。


 唇は腫れぼったいし、泣き腫らしたかのように目元が熱を帯びている。先程感じた鈍い腰の痛みと異常な気怠さ……明らかに、二人の間で何かが行われたことは確かだった。


「昨日俺は、影千代の術にかかって……」


 少しずつ昨夜の記憶が蘇ってくる。それと同時に、顔から火が出そうになった。
「抱いて」
 そう我鷲丸にせがんだことを思い出した智晴は、気を失ってしまいそうになる。


 ――俺は一体何をしたんだ……。


 いくら影千代の術にかかっていたとはいえ、あんな風に乱れてしまった自分が腹立たしい。よりによって我鷲丸と……。
 想像していた以上に呆気なく陰陽師と式神という境界線を越えてしまったことに、驚きを隠しきれない。


 そして、普段はあんなにぶっきらぼうで素っ気なくて、意地が悪いくせに、まるで蝶を扱うように大切に抱いてくれた。


 その時のことを思い出すと、恥ずかくて消えたくなってしまう。少し頭を冷やそうと、そっと布団を抜け出そうとしたとき、ギュッと腰を抱き抱えられてしまう。


「おい、やることだけやっておいて逃げ出す気か?」
「我鷲丸……起きてたの?」
「昨夜はあんなに可愛らしく乱れたくせに、それはねぇんじゃないの?」
「な、なななな……何言ってんだよ……」
「今更照れたって仕方ねぇだろうが? お前は俺に抱かれたんだよ」


 そう言いながら大きな欠伸をする我鷲丸。智晴の腰に顔を埋めて再び目を閉じた。


「すまん、またお前の初めてを奪っちまったな」
「…………」
「でも、お前の抱き心地……最高だったぜ?」
「離せ、この変態!! もう忘れてくれ、頼むから!!」
「馬鹿が。一生忘れるもんか」


 あまりにも恥ずかしくて涙が溢れてきてしまう。
 そんな智晴のことを、愛おしいといった顔で我鷲丸が見つめていたなんて……智晴には気付く余裕もなかった。


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