時を転じて陰陽師は恋をする

舞々

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第七章 新たな出会い

新たな出会い①

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「また、夜が来る……」


 寺全体を真っ赤な夕日が包み込んでいる。また妖怪が騒ぎ出す時間……恐怖もあるが、黒羽を封印するチャンスでもある。
 我鷲丸との練習で、少しずつ自信もついてきた。


「都の陰陽師も黒羽を退治しようと躍起になっているようだが、そうそう武尊程の力を持った陰陽師はいないからな」
「今日も黒羽は来るのかな……」
「あぁ、恐らくな。ほら、低級の妖怪共が騒ぎ出した」


 智晴は大きく息を吐きながら烏帽子を頭に乗せ、紐を顎の所でギュッと結んだ。


「我鷲丸…本音を言うと、俺、怖くて仕方ないよ…練習すればするほど、武尊には及ばないんだって自分で分かる」
 腕組みをしながら我鷲丸が見つめてくる。そんな我鷲丸の顔を見ることができずに思わず俯いた。


「でも俺は強くなりたい。我鷲丸に迷惑をかけないくらいに……律さんを守れるくらいに……」
 気を抜くと溢れそうになる恐怖心を抑え、ぐっと我鷲丸を見つめる 。


「気持ちは分かるが……まぁ無理だろうな。お前は武尊じゃない」
 最近は我鷲丸の口から武尊の名前を聞くだけで、腹立たしくなってしまう。それはただ単に「武尊には負けたくない」という競争心だけではない。これはきっと、嫉妬だ……。


 そう思えば、今度は照れくさくなってしまい再び俯いた。我鷲丸が傍にいると泣いたり笑ったり、気持ちが忙しくて仕方がない。そんな智晴をみた我鷲丸がふと微笑み、目を細めた。


 我鷲丸にしては珍しく、優しく頬を撫でてくれる。そのあまりにも繊細な触れ方に、胸が甘く締め付けられた。


「前にも言ったが、お前はお前でいい。心配するな、俺が守ってやる。それが式神の役目だ。だから、心配しなくていい」
「うん、わかった。でも俺だって我鷲丸を守るから」
「ふっ、言ってろ」


 そんなことできるかなんて分からないが、それでもやるしかない。決意を新たに、今夜も黒羽に向かっていく。
 隣にいる我鷲丸の存在が、どんどん心の中で大きくなっているのを感じていた。


「来た……」
 身なりを整えて寺の境内へ行くと、そこには我鷲丸と神楽がいた。


「黒羽が動き出したね」
「あぁ。神楽はここにいろ」
「嫌だよ。あたしも行く」
「今のお前の妖力では無理だ。大人しくここで待ってろ」


 明らかに不満そうな顔をする神楽の肩を、我鷲丸がそっと叩く。神楽だけではなく、我鷲丸だって妖力は戻りきっていないはずだ。それでも黒羽の元へと向かおうとするその姿に、神楽はなんとも言えない顔をする 。


「大丈夫だよ神楽。俺だって、たくさん練習してきたんだ」
 智晴は自分の胸を鷲掴みにして、自分の中に眠っているだろうもう一人の自分に向かい囁いた。
 自分にとって仲間であると同時に、ライバルでもある、そんな存在。


「武尊……俺に力を貸してください。大切な人を守れる強さを……」
 智晴は目を閉じ、深い呼吸を繰り返す。


「我鷲丸よ! 助けてくれ!」
 するとそこに、数人の陰陽師が血相を変えて蓮香寺に駆け込んでくる。


「やはり黒羽は我々が束になっても敵いそうにない…! あの伝説の陰陽師の式神であるお前なら、何とかなるのでないか?」
「それに黒羽は元々……」
「ったく、どいつもこいつも役にたたねぇなぁ」


 そんな陰陽師達の言葉を遮り、我鷲丸が苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている。
 大体、こんなに立派に見える陰陽師が数人がかりでどうにもならない黒羽を、我鷲丸一人でどうにかできるはずなんてない。智晴の体を緊張が走り抜けた。


「仕方ねぇな、行くぞ、智晴」
「うん。待っててね、神楽」


 そう頷いた瞬間体がフワリと浮かび上がり、我鷲丸に抱えられ夜の空へと飛び立った。

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