鬱病、参る!

舞々

文字の大きさ
12 / 23
Episode3 突然ですが……明日調停に行ってきます

突然ですが……明日調停に行ってきます③

しおりを挟む
 恐らくブルちゃんに私の申し立て書(裁判所からの呼び出し状付き)が届いたのが、昨年の十二月の半ば頃。
 私が想像するに、ブルちゃんはすぐに所長(私が在籍していた訪問看護ステーションで一番偉い人)にチクったらしく、申立書が届いた翌日に私は恐怖に襲われた。


 なんと、所長から絵本が届いたのだ。
 しかも郵送ではなく、直接自宅のポストに投函されていた。
 私はそのあまりに早い対応に、恐怖すら感じたのだ。


 何しろ所長は私が退職する際に「お疲れ様」「ありがとう」の一言もなかった人だ。
 それなのに突然届けられた絵本……。
 私は恐る恐る絵本を開いた。
 そして、その内容に言葉を失ってしまう。


 その絵本を簡単に説明すると「過去に囚われて生きていても幸せにはなれないよ」というものだった。
 つまりは、過去を振り返らずに未来を向け。すなわち「調停を取り消せ」と言いたいのだろうか?
 更に絵本には「笑って笑って、幸せが逃げちゃうよ」とも書かれている。
 お金がなく、その日暮らしの無職の女がどう笑えばいいのだろうか?
 私は鬱病になってから笑うということがなくなった。だから顔の筋肉が硬直してしまい「笑う」ということができなくなってしまっていたのだ。
 そんな私に笑えと?
 引き攣った笑いしかできませんけど?


 恐怖と怒りを感じた私は、所長のプライベートのLINEに、今自分が鬱でどれほど苦しい思いをしているか。
 鬱で苦しむ人に、絵本のような綺麗ごとの言葉は届かない。返って励ましの言葉は辛くなること。
 そして、今更なんなの? キモイんですけど?(ここまでは書いていない)
 と、書いて送り付けてやった。その後は勿論、即ブロックだ。
 絵本は一応証拠にもなると思い、ごみ屋敷のような長男の部屋に放り投げておいた。


 でもこのことから、裁判所からの通知にブルちゃんが相当焦っていることが伝わってくる。
 ブルちゃんは意外と気が小さいので、私にこの絵本を読ませ、心を穏やかにし、調停を取り下げさせたかったのだろう。
 しかし、その絵本に私は恐怖心を抱き、ブルちゃんが恐れおののく姿を想像し、喜んでいるのだ。
 残念だが、今の私の心に、絵本などというものは届かない。


 もし鬱病の知人に、そういった絵本をプレゼントしようとしている人がいたら、やめることをお勧めする。
 きっと、逆に落ち込ませてしまうだろう。
 鬱病とは、そんな綺麗な言葉ではどうにもならない、辛い病気なのだ。


 しかし、私の申立書が届いたのが昨年の十二月の半ば。
 そして私に回答書が届いたのが今月の十九日。
 一体ブルちゃんは、回答書を作成するのに、どれほどの時間を要したのだろうか……。
 そして、そんなタイムリーな絵本を、一瞬でどうやって準備したのだろうか……。


 私は不思議で仕方がない。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...