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Episode20 バニラの香りに包まれて
バニラの香りに包まれて①
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今宵、伝説が真実ならば、すべての魂が戻ってくる。
真夜中の鐘が優しく鳴り響き、暖炉が赤く燃えるとき、草生い茂る墓場や骨壷から、何やら言いたげな先祖も甦る。
古代ケルト民族に語り継がれている、古い古い物語。
ハロウィン当日は、魔女や精霊がその力を発揮し、世界は最大の魔力で包まれるのだ。
本来ハロウィンとは、ご先祖様が戻ってくる日本でいうとこのお盆みたいなもので、仮装がメインのパーティーではない。
古くから、ハロウィンは見えない世界からお化けや魔女、妖精などがやってくると言われている。
そのため、この時期におまじないをかけるといつもより効果が高くなるとも信じられてきた。
そもそもハロウィンは古代ケルト人のお祭りが起源とされる行事で、とくに十月三十一日は死者や亡霊がこの世に訪ねてくるらしい。
◇◆◇◆
本当に久し振りに成宮先生と喧嘩をした。
久し振り……というか、二回目かもしれない。
だって、あの『天上天下唯我独尊』状態である成宮大先生に、一般庶民の俺が言い返すことなどできるはずがない。いくら心の中で「NO」だと思っても、最終的には「YES」と言う他は残されていない。そういった状況に上手く追い込まれてしまう。
「ごめんなさい」
と俯けば、「可愛い」って頭を撫でてくれる。
気が付けば俺もそれで満足してしまっていた。それが、あの超我儘男をパワーアップさせてしまっているなんて……わかりきっているのに。神に歯向かうことで逆鱗に触れることのほうが怖いのだ。
そんな俺の広い心も、ついに限界がきた。
朝出勤してから医局に顔を出せば、ソファーに座った橘先生の膝枕で、自分の彼氏が眠っていた。その瞬間、俺の中で時が止まった。
「なんだ、これ……」
思わず口から出た呻き声。
成宮先生は当直明けだったから疲れているのはわかる。きっと急患がたくさん来て、仮眠をとる時間さえなかったんだろう。「お疲れ様でした」って敬意を払いたくなる。
でも、でもさ……元恋人の膝枕ってないだろう?
「あ、水瀬君おはよう」
橘先生は橘先生で悪びれる素振りすらなく、優雅にコーヒーを楽しみながら挨拶をしてくる。
「おはよう、じゃないでしょ!?」
俺は背負っていたリュックサックを成宮先生に勢いよくぶつけた。
「痛ッ! あ、葵、何すんだよ!?」
「『何すんだよ』じゃないですよ! 誰に膝枕してんですか!」
「誰にって……た、橘いつの間に……」
「だって、成宮首が痛そうな格好で寝てたから気を利かせてやったんだよ」
そのやり取りとみていると更にイライラが募ってくる。握り締めた拳がワナワナと震えた。
「もう勝手にしてください! 橘先生、成宮先生をあげます。俺もういらないですから!」
そう吐き捨てて、医局を飛び出した。
あの日から、自然と成宮先生を避けるようになり、今に至っている。
あくまでも自然に避けてるつもりだった。本人には勿論のこと、他のスタッフにもバレないように。上手く成宮先生とすれ違うように努力してるつもりだったんだ。
……なのに。
「なぁ、何で水瀬は成宮先生を避けてるの? また喧嘩でもした?」
「はい?」
いとも簡単に親友である柏木にに見破られてしまった。よりによって、全然働いている病棟が違う柏木に……。
「な、なんでそんなこと知ってるの?」
「あー、うちの病棟の看護師さん達が噂してたんだ。水瀬先生が成宮先生に冷たくて、成宮先生がかわいそう! って」
昼食の蕎麦をすすりながら、柏木があまり興味なさそうに話す。
そんなことより、他の病棟にまで俺と成宮先生とのことが知れ渡っているなんて……成宮千歳、恐るべし。しかも、彼は完全に被害者側だ。
「あんまりいがみ合ってないで、仲良くしろよ」
「あ、うん。そうだね」
俺は無理矢理笑顔を作って、かつ丼に食らいついた。
真夜中の鐘が優しく鳴り響き、暖炉が赤く燃えるとき、草生い茂る墓場や骨壷から、何やら言いたげな先祖も甦る。
古代ケルト民族に語り継がれている、古い古い物語。
ハロウィン当日は、魔女や精霊がその力を発揮し、世界は最大の魔力で包まれるのだ。
本来ハロウィンとは、ご先祖様が戻ってくる日本でいうとこのお盆みたいなもので、仮装がメインのパーティーではない。
古くから、ハロウィンは見えない世界からお化けや魔女、妖精などがやってくると言われている。
そのため、この時期におまじないをかけるといつもより効果が高くなるとも信じられてきた。
そもそもハロウィンは古代ケルト人のお祭りが起源とされる行事で、とくに十月三十一日は死者や亡霊がこの世に訪ねてくるらしい。
◇◆◇◆
本当に久し振りに成宮先生と喧嘩をした。
久し振り……というか、二回目かもしれない。
だって、あの『天上天下唯我独尊』状態である成宮大先生に、一般庶民の俺が言い返すことなどできるはずがない。いくら心の中で「NO」だと思っても、最終的には「YES」と言う他は残されていない。そういった状況に上手く追い込まれてしまう。
「ごめんなさい」
と俯けば、「可愛い」って頭を撫でてくれる。
気が付けば俺もそれで満足してしまっていた。それが、あの超我儘男をパワーアップさせてしまっているなんて……わかりきっているのに。神に歯向かうことで逆鱗に触れることのほうが怖いのだ。
そんな俺の広い心も、ついに限界がきた。
朝出勤してから医局に顔を出せば、ソファーに座った橘先生の膝枕で、自分の彼氏が眠っていた。その瞬間、俺の中で時が止まった。
「なんだ、これ……」
思わず口から出た呻き声。
成宮先生は当直明けだったから疲れているのはわかる。きっと急患がたくさん来て、仮眠をとる時間さえなかったんだろう。「お疲れ様でした」って敬意を払いたくなる。
でも、でもさ……元恋人の膝枕ってないだろう?
「あ、水瀬君おはよう」
橘先生は橘先生で悪びれる素振りすらなく、優雅にコーヒーを楽しみながら挨拶をしてくる。
「おはよう、じゃないでしょ!?」
俺は背負っていたリュックサックを成宮先生に勢いよくぶつけた。
「痛ッ! あ、葵、何すんだよ!?」
「『何すんだよ』じゃないですよ! 誰に膝枕してんですか!」
「誰にって……た、橘いつの間に……」
「だって、成宮首が痛そうな格好で寝てたから気を利かせてやったんだよ」
そのやり取りとみていると更にイライラが募ってくる。握り締めた拳がワナワナと震えた。
「もう勝手にしてください! 橘先生、成宮先生をあげます。俺もういらないですから!」
そう吐き捨てて、医局を飛び出した。
あの日から、自然と成宮先生を避けるようになり、今に至っている。
あくまでも自然に避けてるつもりだった。本人には勿論のこと、他のスタッフにもバレないように。上手く成宮先生とすれ違うように努力してるつもりだったんだ。
……なのに。
「なぁ、何で水瀬は成宮先生を避けてるの? また喧嘩でもした?」
「はい?」
いとも簡単に親友である柏木にに見破られてしまった。よりによって、全然働いている病棟が違う柏木に……。
「な、なんでそんなこと知ってるの?」
「あー、うちの病棟の看護師さん達が噂してたんだ。水瀬先生が成宮先生に冷たくて、成宮先生がかわいそう! って」
昼食の蕎麦をすすりながら、柏木があまり興味なさそうに話す。
そんなことより、他の病棟にまで俺と成宮先生とのことが知れ渡っているなんて……成宮千歳、恐るべし。しかも、彼は完全に被害者側だ。
「あんまりいがみ合ってないで、仲良くしろよ」
「あ、うん。そうだね」
俺は無理矢理笑顔を作って、かつ丼に食らいついた。
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