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Episode20 バニラの香りに包まれて
バニラの香りに包まれて②
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仕事を猛スピードで終わらせて家路へと向かう。
先に帰って用事を済ませないと……成宮先生と上手くすれ違えるよう、最善の努力をしていたのだ。
そんな中、予想より早く成宮先生が帰宅してしまった。
最近、成宮先生の帰りが遅かったから、さっさと風呂に入って先に寝てしまっていた。そして、成宮先生が目を覚ます前に家を出て……喫茶店で時間を潰してから出勤していたのだ。
想像もしていなかった成宮先生との遭遇に、俺の心臓がバクバクと高鳴り出した。
なぜ避けるんだ? と責められたら、なんて返せばいいのかが全くわからない。
頭のキレるあの男をかわすなんて、余程こちらが上手でない限りできるはずなんかない。
「どうしよう…どうしたらいいんだぁ」
頭を抱えて悶絶していれば、カチャリとドアノブが動く音が静かな室内に鳴り響き、ドアが開くと同時に外の冷たい風が吹き込んでくる。
ヤバい……思わず逃げ出したくなるけど、もう完全に手遅れだ。
きっと俺に無視されたことに、怒り狂っていることだろう。
でも仕方ないじゃん。あんなに成宮先生と橘先生に食ってかかっておいて、一体どの面下げて顔を合わせればいいんだよ……。
「よぉ、久しぶりじゃん」
いつもみたいに屈託なく笑いながら、成宮先生が室内に入ってくる。
『久しぶりじゃん』
ほぼ毎日職場では顔を合わせている俺に向かって、成宮先生が言った言葉に、少なからず俺は罪悪感を感じてしまう。
俺が避けてるの、やっぱり気付いてんだ。
どこまでもアホな自分が、情けなくなる。
もう、早く文句を言うだけ言って終わりにしてほしい。そしたら俺は、あなたの気が済むまで「ごめんなさい」って謝るから。
お願いだから、一秒でも俺の前から立ち去って?
俺、あなたといるのがしんどいんだ。
これ以上、橘先生に嫉妬して拗ねて……こんな惨めな姿をあなたに見られたくないから。
そんな俺の葛藤など露知らず、
「おでん買ってきた。一緒に食おう? 葵の好きな卵とちくわぶもあるよ」
と、俺に気を遣うことなどなく、どんどん部屋に上がり込んでくる。
会いたくないけど、やっぱりすごく会いたかった。シーソーみたいに揺れ動く思いを、俺は持て余してしまっている。
結局俺は、成宮先生と仲良くおでんを平らげてしまった。
体がポカポカと温かいなぁ。
「よし、腹も一杯になったし。ほら、こっちに来い」
「え? あ、あの!」
突然成宮先生に強く腕を引かれ、俺はバランスを崩してソファに倒れ込んだ。
「千歳さん、ねぇ、千歳さん!」
思い切り腕を振り払おうとしたけど、俺より力のある成宮先生に俺が勝てるはずなどなかった。
「待って、い、意味わからない……」
「いいから、おいで」
「え?」
「俺が膝枕してやろうって言ってんだ。大人しくされろよ」
「…………」
「お前、また橘にヤキモチ妬いてんだろう? だから、特別に膝枕してやるよ」
愛しそうな顔をしながら顔を覗き込まれたから、泣きたくなった。
フワリと体に温かな存在を感じたと思った瞬間、俺は成宮先生の腕の中に優しく引き寄せられる。
「悪いな、女の子みたいに柔らかい膝じゃなくて。でもお前の気がすむまでこうしててやるから……ありがたくゆっくりしろ?」
そう言いながら、少し窮屈そうな大勢で俺をギュッと抱き締めてくれる。
「ごめんな、あの時は眠すぎて、橘に膝枕されてるのなんてわからなかったんだ」
成宮先生は恋愛経験が豊富だから、膝枕なんて慣れっこなのかもしれない。でも俺は、こんなシチュエーションは本当に久しぶり過ぎて、心臓がバクバクと拍動を打つ。
こんなんじゃ、ゆっくりできるはずなんかない。
逆に酸欠で死んでしまいそうになる。
「目が覚めて腹が空いてたら、夜食作ってやるから」
「え? 何を作ってくれるんですか?」
「そうだなぁ。雑炊かなぁ」
「本当ですか?」
「あぁ。だから、ゆっくり休め」
母親が子供を寝かしつけるみたいに、ポンポンと優しく体を叩いてくれる。それが凄く心地いい。
「葵、おやすみ」
優しく髪を撫でられれば、成宮先生の子供みたいな体温が段々心地好くなってきて……意識が少しずつ遠退いていく。
ごめんなさい、成宮先生。
あなたは純粋に俺を大切にしてくれているだけなのに、俺はやましい思いを拭い去ることができない。
今だって、切ないのに、こんなにも嬉しくて幸せなんだ。
それなに嫉妬なんて、本当に情けない……。
「ありがとうございます。千歳さん」
遠慮がちに手を握れば、
「いいよ、手、繋ごう」
指を絡ませてギュッと握り返してくれる。俺が眠りにつくまで頭を撫でていてくれた。
夢現《ゆめうつつ》の中、俺は夢を見た。
と言うより、少し前にハロウィンについて調べてた時に見かけた記事を思い出したのだ。
ハロウィンは魔力の扉が開く日でもあり、未来が見えたり、普段は見えないものが見えるようになったり、占いや呪いが効力を発揮しやすい日とも言われている。
いつもなら、占いとか呪いとか信じる可愛らしい玉じゃないけど、今は信じてみたいって思う自分もいた。
だって、何かにすがり付かなきゃ、辛くて苦しくて仕方ない。こんなにも、成宮先生のことが好きだから。
「おはよう、葵」
「お、おはようございます」
「良く寝れたか?」
「はい。千歳さんが温かいから湯たんぽみたいでした」
「ふふっ。良かったな。じゃあ、夜食にするか」
そう言いながら、俺をまた優しく抱き締め直してくれる成宮先生。
顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに、心が甘く締め付けらる。幸せが、俺の心の中にあるマグカップから溢れ出してしまう。
今なら信じることができそうだ。
ハロウィンの神秘に包まれた魔力を。
先に帰って用事を済ませないと……成宮先生と上手くすれ違えるよう、最善の努力をしていたのだ。
そんな中、予想より早く成宮先生が帰宅してしまった。
最近、成宮先生の帰りが遅かったから、さっさと風呂に入って先に寝てしまっていた。そして、成宮先生が目を覚ます前に家を出て……喫茶店で時間を潰してから出勤していたのだ。
想像もしていなかった成宮先生との遭遇に、俺の心臓がバクバクと高鳴り出した。
なぜ避けるんだ? と責められたら、なんて返せばいいのかが全くわからない。
頭のキレるあの男をかわすなんて、余程こちらが上手でない限りできるはずなんかない。
「どうしよう…どうしたらいいんだぁ」
頭を抱えて悶絶していれば、カチャリとドアノブが動く音が静かな室内に鳴り響き、ドアが開くと同時に外の冷たい風が吹き込んでくる。
ヤバい……思わず逃げ出したくなるけど、もう完全に手遅れだ。
きっと俺に無視されたことに、怒り狂っていることだろう。
でも仕方ないじゃん。あんなに成宮先生と橘先生に食ってかかっておいて、一体どの面下げて顔を合わせればいいんだよ……。
「よぉ、久しぶりじゃん」
いつもみたいに屈託なく笑いながら、成宮先生が室内に入ってくる。
『久しぶりじゃん』
ほぼ毎日職場では顔を合わせている俺に向かって、成宮先生が言った言葉に、少なからず俺は罪悪感を感じてしまう。
俺が避けてるの、やっぱり気付いてんだ。
どこまでもアホな自分が、情けなくなる。
もう、早く文句を言うだけ言って終わりにしてほしい。そしたら俺は、あなたの気が済むまで「ごめんなさい」って謝るから。
お願いだから、一秒でも俺の前から立ち去って?
俺、あなたといるのがしんどいんだ。
これ以上、橘先生に嫉妬して拗ねて……こんな惨めな姿をあなたに見られたくないから。
そんな俺の葛藤など露知らず、
「おでん買ってきた。一緒に食おう? 葵の好きな卵とちくわぶもあるよ」
と、俺に気を遣うことなどなく、どんどん部屋に上がり込んでくる。
会いたくないけど、やっぱりすごく会いたかった。シーソーみたいに揺れ動く思いを、俺は持て余してしまっている。
結局俺は、成宮先生と仲良くおでんを平らげてしまった。
体がポカポカと温かいなぁ。
「よし、腹も一杯になったし。ほら、こっちに来い」
「え? あ、あの!」
突然成宮先生に強く腕を引かれ、俺はバランスを崩してソファに倒れ込んだ。
「千歳さん、ねぇ、千歳さん!」
思い切り腕を振り払おうとしたけど、俺より力のある成宮先生に俺が勝てるはずなどなかった。
「待って、い、意味わからない……」
「いいから、おいで」
「え?」
「俺が膝枕してやろうって言ってんだ。大人しくされろよ」
「…………」
「お前、また橘にヤキモチ妬いてんだろう? だから、特別に膝枕してやるよ」
愛しそうな顔をしながら顔を覗き込まれたから、泣きたくなった。
フワリと体に温かな存在を感じたと思った瞬間、俺は成宮先生の腕の中に優しく引き寄せられる。
「悪いな、女の子みたいに柔らかい膝じゃなくて。でもお前の気がすむまでこうしててやるから……ありがたくゆっくりしろ?」
そう言いながら、少し窮屈そうな大勢で俺をギュッと抱き締めてくれる。
「ごめんな、あの時は眠すぎて、橘に膝枕されてるのなんてわからなかったんだ」
成宮先生は恋愛経験が豊富だから、膝枕なんて慣れっこなのかもしれない。でも俺は、こんなシチュエーションは本当に久しぶり過ぎて、心臓がバクバクと拍動を打つ。
こんなんじゃ、ゆっくりできるはずなんかない。
逆に酸欠で死んでしまいそうになる。
「目が覚めて腹が空いてたら、夜食作ってやるから」
「え? 何を作ってくれるんですか?」
「そうだなぁ。雑炊かなぁ」
「本当ですか?」
「あぁ。だから、ゆっくり休め」
母親が子供を寝かしつけるみたいに、ポンポンと優しく体を叩いてくれる。それが凄く心地いい。
「葵、おやすみ」
優しく髪を撫でられれば、成宮先生の子供みたいな体温が段々心地好くなってきて……意識が少しずつ遠退いていく。
ごめんなさい、成宮先生。
あなたは純粋に俺を大切にしてくれているだけなのに、俺はやましい思いを拭い去ることができない。
今だって、切ないのに、こんなにも嬉しくて幸せなんだ。
それなに嫉妬なんて、本当に情けない……。
「ありがとうございます。千歳さん」
遠慮がちに手を握れば、
「いいよ、手、繋ごう」
指を絡ませてギュッと握り返してくれる。俺が眠りにつくまで頭を撫でていてくれた。
夢現《ゆめうつつ》の中、俺は夢を見た。
と言うより、少し前にハロウィンについて調べてた時に見かけた記事を思い出したのだ。
ハロウィンは魔力の扉が開く日でもあり、未来が見えたり、普段は見えないものが見えるようになったり、占いや呪いが効力を発揮しやすい日とも言われている。
いつもなら、占いとか呪いとか信じる可愛らしい玉じゃないけど、今は信じてみたいって思う自分もいた。
だって、何かにすがり付かなきゃ、辛くて苦しくて仕方ない。こんなにも、成宮先生のことが好きだから。
「おはよう、葵」
「お、おはようございます」
「良く寝れたか?」
「はい。千歳さんが温かいから湯たんぽみたいでした」
「ふふっ。良かったな。じゃあ、夜食にするか」
そう言いながら、俺をまた優しく抱き締め直してくれる成宮先生。
顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに、心が甘く締め付けらる。幸せが、俺の心の中にあるマグカップから溢れ出してしまう。
今なら信じることができそうだ。
ハロウィンの神秘に包まれた魔力を。
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