あなたのお気に召すままに

舞々

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第一章 僕たちの始まり

僕たちの始まり⑥

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 翌日、産婦人科の医局で課題の資料を整理していると、突然成宮先生がやってきた。成宮先生を見た瞬間、藤堂先生の顔色が変わったのが見てとれる。


 自分の立場上、若きスーパードクターに嫌われたら後々不利になる、という理由でだろうか。わかりやすい愛想笑いを浮かべ、成宮先生のご機嫌取りがはじまった。


「これはこれは成宮先生。お久しぶりです。引っ張りだこの先生が、産婦人科に何か御用でしょうか?」
「それが昨日、水瀬君に凛ちゃんのレポートを見せてもらいましてね。本当によく書けていたのでびっくりしました。やはり藤堂先生のご指導は素晴らしいですね」
「い、いやぁ、それ程でも……」


 あの藤堂先生がこんなに慌てているなんて。やっぱり成宮先生って凄い先生なんだ……。二人のやり取りを見て、そう感じた。


「全部書き直すようにご指導があったとのことで、水瀬君が困っているところにたまたま出くわしまして。差し出がましいこととは思いつつ、私からアドバイスをさせていただきました」
「な、成宮先生がですか! それはお手数をおかけして申し訳ありませんでした」
「いえいえ。先生の若手への熱いご指導には、本当に頭が下がります。彼とは個人的にゆかりがありまして。なので、これからも水瀬君をよろしくお願い致します」
「勿論ですよ! あはははは!」


 ニコニコと聖母のような笑みを浮かべる成宮先生の正面で、藤堂先生が冷汗をびっしょりかきながら愛想笑いをしていた。その後、成宮先生のアドバイスを取り入れたレポートは、呆気なく一発で合格となる。


「成宮先生の知り合いだかなんだか知らないが、いい気になるなよ」 
 そんな藤堂先生の捨て台詞を最後に、産婦人科病棟の研修は終わりを迎えたのだった。


「成宮先生!」
「あぁん? お前か……」
「先生のおかげで、無事に産婦人科の研修が終わりました。ありがとうございます!」


 小児科の医局へ向かう途中の成宮先生を呼び止めて、深々と頭を下げる。そんな俺をびっくりしたような顔で見つめた成宮先生が、クスクスと笑い出した。


「小児科病棟へ研修に来る前から、迷惑掛けてんじゃねぇよ。バーカ!」


 六年前には見せなかった子供みたいに無邪気な笑顔を浮かべながら、俺の頭を乱暴に撫でてくれる。


 その笑顔を見た俺は、またこれからも研修医として頑張っていける。そう感じた。
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