あなたのお気に召すままに

舞々

文字の大きさ
117 / 149
第二章 貴方へと向かう新しい一歩

貴方へと向かう新しい一歩②

しおりを挟む
「おはようございます。悠斗はると君、調子はどうかな?」
「先生、今日ね、朝ご飯全部食べたよ!」
「本当に? それは凄いね」
「えへへへ」


 成宮先生に頭を撫でられて嬉しそうな悠斗君。その横から感じるキラキラとした眼差し。俺は、その熱過ぎる視線に恐怖さえ感じた。


「悠斗君ママ、おはようございます。ママは疲れてないですか?」
「はい! 成宮先生! おかげさまで」
 熱い視線の正体は、悠斗君の横にいる女性から感じられるものだった。


 小児科は、家族が二十四時間付き添うことが多い。そんな付き添いの母親達にとって、成宮先生はまさに白衣を着た王子様なのだろう。彼を見た母親達はうっとりしながら溜息をついている。


「では水瀬君。隣の部屋に行きましょう」
「はい」
 悠斗君とそのママに一礼してから、くるりと踵を返し病室を後にする成宮先生の後を追いかけたのだった。


 隣の部屋は、比較的軽症な女の子たちが入院している部屋だ。
 その部屋の廊下側にいる女の子のベッドの脇に成宮先生がしゃがみ込むと、その女の子は目を輝かせながら体を乗り出した。


「おはよう、心愛ここあちゃん。今日の体調はどうですか?」
「先生、おはよう。あのね、心愛、元気だよ」
「本当? それはよかった」
 成宮先生がにっこり微笑むと、心愛ちゃんの頬が赤く染まる。心愛ちゃんはまだ小学二年生なのに、明らかに恋をしているのがわかってしまうほど、熱い視線を成宮先生に向けていた。


「あのね、先生。心愛、先生にラブレター書いたの」
「僕に、ラブレターを書いてくれたの?」
「うん。心愛、ずっと先生のことが好きだったの。ねぇ、先生。心愛が大きくなったら結婚してくれる?」


 え? 結婚……?


 俺はその言葉を聞いて驚愕してしまう。今時の女の子は、小学校低学年なのに、こんなにもませているんだ。それでも成宮先生に手紙を差し出す心愛ちゃんの表情は真剣そのものだから、本気なんだということも伝わってくる。


「心愛ちゃん、気持ちは嬉しいんだけど、先生はね……」
「ちょっと、心愛ちゃん! 自分だけ抜け駆けして、先生に告白するなんてひどいじゃない!」
「そうよ! みんなで成宮先生には告白しない同盟を結んだばっかじゃん!」
「別にいいでしょ! だって心愛は先生と結婚したいんだもん!」


 恐らく成宮先生が心愛ちゃんの告白をやんわり断ろうとした瞬間、同室の女の子たちが一斉に大声をあげる。成宮先生に抜け駆けをして告白しない。そんな約束を交わさなければならないほど、みんな成宮先生のことが好きなのだろうか。
 小学生と言えど、熱い女同士の戦いに思わず息を呑んだ。 


「心愛ちゃん、それは抜け駆けだよ」
「別にいいでしょ? だって心愛が一番可愛いんだから、先生にお似合いなんだから」
「なにそれ! ムカつくんだけど」


 そんな光景を目の当たりにしても、「まぁまぁ、みんな落ち着いて」なんて、当の成宮先生は変わらず優しい笑みを浮かべている。もしかしたら、こんな出来事は慣れっこなのかもしれない。
 この激しい成宮先生の争奪戦は、それぞれの母親が止めに入るまで繰り広げられたのだった。


 成宮先生に憧れを抱くのは、患者さんばかりではない。
「あ、お母さん。成宮先生の隠し撮りはやめてくださいね!」
 看護師さんが母親を注意する声が度々聞こえてくる。成宮先生の異常な程の人気ぶりにびっくりしてしまった。


「ふふっ。まぁまぁ看護師さん、僕は写真くらい大丈夫ですから」
「もう、本当に成宮先生は優しいですね」
 文句を言いながらも、看護師さんも林檎みたいな頬をしていたことを、俺は見逃さなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...