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第四章 狼と兎が流れ星に祈る時
狼視点①
しおりを挟む夢を見たんだ。
狼と兎が仲良く丸まって眠っている夢を。
狼はその力強さで兎を包み込み、兎はその温かさと柔らかさで狼を癒していた。
ずっとずっとこんな穏やかな時間が続くことを夢に見ながら、丸まって、ぴったりくっついて、眠っていた。
そして満天の星空の下、流れ星に祈るんだ。
ずっとずっと離れることがありませんように……って。
◇◆◇◆◇◆
「寛太……死ぬ程の苦しみが来たかも知れない……」
苦しそうに、でも心配かけまいと精一杯笑顔を作る航。
その顔を見て、俺の気持ちは奮い立つ。
「絶対に負けねぇ」
心に誓うように呟いた。
「もしだよ、寛太の手に負えなくなったら、その時は……」
「馬鹿が!んなこと考えてる暇があったら、俺にしがみついてろ!」
色々難しいことを考えてる航を、力任せに抱き締めた。
「ゴチャゴチャ考えなくても大丈夫だから。何があっても傍にいる。絶対に見捨てるもんか!」
思わず力が入る俺を見て、航が笑った。
「うん。俺も頑張るね。寛太、大好きだ」
その笑顔があまりにも儚くて綺麗で、消えてしまいそうに見えた。
悲しい運命を生まれながらに担い、それでも幸せになりたいと願う健気なΩ 。
心から愛しいと思う。
そっと口付けたら、幸せそうにはにかんだ。
それが俺の見た、最後の航の笑顔だった。
そう。この先、予想以上の試練が俺達を待ち構えていたから……。
呼吸が上手にできなくて、苦しそうに布団のシーツを掴む。浮き出る血管が、今にも破裂しそうな程に拍動を打つ。
目を閉じて、苦しみから逃れようとしても上手く行かず、目を見開いて蹲った。
時々仰向けになり、胸を掻きむしり悶える。
押さえきれないほどの、強い性への情動。
それに支配されないように、必死に抗い続ける。
発情より必死に番を求めるのに、その番はもういない。
たった一人で耐えるしかないのだ。
なぜならΩはαに簡単に見捨てられてしまう、そんな 哀れな存在だから……。
地獄のような苦しみが三日三晩続き、それに耐えきれず自ら死を選ぶΩすらいる。
そうだろうな、って今の航を見て思う。
まるで、何かの中毒者を目の当たりにしているようだ。
目を見開き、口から涎を垂らし、獣のように唸り続ける。
「死んだほうがマシかもしれない……」
それくらい辛そうに見えた。
莉久が、また番になってくれたら、この苦しみは終わるのだろうか。
そもそも、一度番に見捨てられたΩが、再び番を持つことができるのかも、寛太にはわからなかった。
「航……航、大丈夫だよ。ずっと傍にいる」
辛くて苦しくて、涙を流し続ける航を抱き締めることしかできない。
このまま死んじゃうんじゃないかって、不安にすらなる。
ヒートが僅かに弱まる隙を見て、トイレに連れて行ったり飯を食わせる。
「ごめん、ごめんね……」
涙を大きな瞳にいっぱい溜めて謝る航を見て、胸が張り裂けそうになる。
「馬鹿野郎が、謝るなよな」
優しく頭を小突いた。
でも俺は幸せだった。
例えどんな状況でも、どんな姿でも……航が傍にいてくれるっていう、現実が。
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