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Season1 探偵・暗狩 四折

凍り付いて1

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◇暗狩 四折

「僕の友達の誕生日パーティーに、来てみない?」
 翔太にそう言われた瞬間、ボーっとしていた私の脳は活性化した。
「……気まずくない?友達の姉なんて」
「許可は取ってるし、天音ちゃんはフレンドリーだから」
 私の顔は勝手ににやけていた。
「ふーん、『ちゃん』ねぇ」
「……彼女じゃないよ?」
 その言葉を聞いても、私の顔は真顔には戻らなかった。
「で、私をなんで連れていきたいの?」
「姉ちゃんが好きそうなものがあるから。以上」
「私が、好きなもの?」
 家にあるもので私が好きそうなもの……もしかしたらあれか?
「醬油瓶でもあるの?」
「なんでそんなもの好きなの姉ちゃん?!」
 なんでと言われても、あのフォルムが愛らしいから好きなんだが。
 私が口を開けたまま硬直していると、翔太が口を開いた。
「もっと好きものあるじゃん。謎だよ謎!」
「……謎?」
 その言葉が耳に入った瞬間、私の意識は引っ張られた。
「それはどういう謎なの?翔太」
「天音ちゃんに何か花をあげると、その花が凍って帰ってくるんだ」
 凍った花。中々魅力的な謎だ。
「どれくらいで凍って帰ってくるの?」
「短かったら1分くらい、かな」
 心臓の鼓動が早まる。
 自分の心が、段々と踊っていった。
「そのマジックのタネを暴けばいいわけ?」
「そういうことだね」
 私の心は完全に掌握されていた。
 会ったこともない、その少女に。
「誕生日パーティーはいつ?」
「夏休み3日前だから、7月19日か」
 私は腕時計を見る。現在、7月18日。
「つまり、明日ね」
「そういうことだね。姉ちゃん」
 早速新しい楽しみができた。
 とりあえず明日の床屋の予約はキャンセルだ。
 少しくらい髪が長くてもいいだろう。
「それじゃ、私も何か準備するね」
「変な物送り付けないでよ?姉ちゃん」
 私は首を縦に振った。
 ありがとう。翔太。極上の謎だ。

◇暗狩 翔太

「こんにちわー」
「翔太くん!いらっしゃい!」
 天音ちゃんの家に入ると、明るそうな人が出迎えてくれた。
 天音ちゃんの母親だ。
「あら!お姉さん?」
「はい。姉の四折です」
 そう言うと、姉は元気そうに手を上げた。
 天音母もそれに合わせて手を上げる。
 いい人だな。この姉に合わせてあげるなんて。
「それじゃ、部屋に案内するわね」
「お願いします」
 姉はペコリと頭を下げ、靴を脱いで揃えた。
 変なところで礼儀正しいんだよな。この姉。
 僕も青い靴を脱いで玄関に揃え、天音母について行った。
「こっちよ」
 彼女に案内されて行く内に、僕はバッグに突っ込んだ花のことを思い出していた。
 姉ちゃんはカーネーションを一本だけ近くの花屋で買った。もちろん、凍らせるためだ。
「それじゃ、私はこれで」
 天音ちゃんの部屋の前。彼女はどこかへ去っていった。
「姉ちゃん。くれぐれも失礼のないようにね」
「わかってるよ」
 僕はドアノブを掴み、それを捻った。

◇暗狩 四折

 桃色を中心に、統一感のある家具が集まったいい部屋だ。
 素人の自分でも、この子かこの子の親のセンスの良さがわかる。
「天音ちゃん、他のみんなは?」
「もうすぐ来るよっ!」
 かわいらしい声で、天音という少女は言った。
「……それで、天音さん」
「何ですか?お姉さん」
 私は翔太にアイコンタクトした。
 翔太はバッグからカーネーションを取り出し、私に差し出した。
「これ、凍らせてくれますか?」
 天音さんが一瞬微笑んだ気がした。
「わかりました。翔太くんは、何かお花持ってる?」
「いや。僕は何も」
 翔太は首を横に振った。
 私は期待と少しの興奮を抱きながら、天音さんに花を渡した。
「それじゃあ、凍らせてきます!」
 屈託のない笑顔だった。
 天音さんが部屋を出てからしばらく後、翔太は話し始めた。
「……でも、花を凍らせるなんでどうやってるんだろうね?」
「さぁ?それを今から調べるんじゃないの?」
 私は目の前に置かれた紅茶に手を伸ばした。
 まだ湯気が立っていて、美味しそうに見えた。
「出来ました!お姉さん!」
「……えっ?」
 部屋に入った彼女が持っていたのは、小さな花だった。
 その花は少しテカテカしていて、確かに凍っているように見える。
「あの、このお花砕いてもいいですか?」
「……いいですよ」
 彼女は花に手を近づけた。
 その花弁を握ると、カーネーションは粉々になってしまった。
「どう?すごいでしょ姉ちゃん」
「……確かにすごいね」
 普通花を握っても、花がぐしゃぐしゃになるだけで砕けたりはしない。
 それが、こうだ。
「誰かがリクエストすると思って、事前に準備しておいたんです」
「そ、そうですか」
 私は立ち上がり、花の破片を一つ持った。
 冷たいその破片は、到底花だったものとは思えない。
 ドアの開く音が、混乱している私の耳に響いた。
「天音?他のお客さん来てるわよ?」
「あ!はいはーい!」
 天音さんはまた屈託のない笑顔を見せた。
 部屋から出る直前、彼女は言った。
「部屋狭いかもしれませんけど、ゆっくりしていってくださいね!」
「あ、はい」
 ドアが閉まり、部屋には私と翔太二人きりになった。
 翔太はこちらを笑いながら見つめていた。
「……何?」
「どう?姉ちゃんこういうの好きでしょ?」
「もちろん」
 私の脳は情報を処理し終えた。
 そして、私の心臓のビートは早まった。
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