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Season1 探偵・暗狩 四折
凍り付いて3
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◇暗狩 四折
「で、翔太。パーティーは楽しい?」
「もちろん」
翔太の声は少し明るかった。
「で、姉ちゃんは何か見つけられた?」
「何も。ただクレープ食べただけになっちゃった」
私はショッピングモールのソファに座り、もう一度頭を回した。
ヒントは今のところまったくない。
となると、翔太からヒントを聞き出すしかない。
「翔太は何か、ヒントっぽい物知らない?」
「知ってるわけ……あ」
「何か知ってるの?翔太」
「知ってる、っていうか」
思わせぶりな口調に、私は不思議な感覚になった。
「どうしたの?翔太?」
「いや、天音ちゃんが不思議なこと言ってたから」
その言葉に、私は不意にテンションが上がった。
まさか、何かのヒントだろうか。
「確か、消毒液を自分で作ってるって」
「自分で作ってる?」
「うん。だけどその後、なんか口を滑らせたみたいになってて」
「ん?どゆこと翔太」
私は言いようのない不安感を抱えた。
口を滑らせた……まさか、消毒液がヒントになるのか?
「でも、消毒液にどんな意味があるんだろう」
「私に聞かれても」
消毒液を使って低温を作る、もしくはそのまま凍らせる。
難しそうな気がする。
第一、消毒液を自分で作るなんて聞いたことがない。
「みんなっ!アイス持ってきたよっ!」
「あ、切るね」
そう言うと、翔太は電話をブチっと切った。
「急に切らないでよ」
相手に聞こえない文句を述べつつ、私は一度情報を整理することにした。
まず、天音さんは消毒液を自分で作っている。
そして、消毒液を自作しているという情報は何かのヒント、かもしれない。
ひょっとしたら他に事情があるのかもしれないが、それはわからないな。
「アイスかぁ」
電話を切る直前、天音さんはアイスを持ってきた。
その言葉を不意に聞いたせいで、私も少しアイスが食べたくなっちゃった。
私はソファから立って、アイス屋に向かって歩き出した。
誰も並んでいないアイス屋は、不思議と不健康そうに見えた。
「えーっと、チョコレートのレギュラーをカップでください」
「わかりました」
私はアイスを受け取りに、レジの方向へ向かった。
その時、不意にドライアイスの料金表が目に入った。
「……ドライアイス?」
ドライアイスは確かに低温を作れるが、花を凍らせるほどではない。
ただ、何かが、何かが心に引っかかった。
「チョコレートです。どうぞ」
「ありがとうございます」
私はスタッフにお金を払うと、てくてくとショッピングモールを徘徊し始めた。
確か、このショッピングモールには消毒液が置いてあったはず。
それを見れば、何かわかるかもしれない。
入り口の方に向かい、そこに置かれている消毒液を見た。
「……普通の消毒液ね」
当然だが、そこにあったのは特別でも何でもない、ただの消毒液だった。
その消毒液を見つめても、特に何かがわかったわけでもない。
「ん?」
私の頭に何かが来る。
さっき感じた心のひっかかりと似たような、なにかが。
私はその場で固まり、静かに考え始めた。
その引っかかりの正体が、不意に露見した。
「なるほどね」
私は邪魔にならない隅に移動し、翔太に電話をかける。
「……もうパーティー終わりかけだけど。どうしたの?」
「翔太。私、わかっちゃった」
自分の声は不思議と自慢げだった。
◇暗狩 翔太
「それで、姉ちゃん」
姉は天音ちゃんの部屋で、アイスが運ばれてくるのを待っていた。
「どしたの?翔太」
「トリックがわかったの?」
「もちろん」
相変わらず勘のいい人だ。
そんなことを思いつつ、僕は姉とその時を待った。
「持ってきましたっ!」
天音ちゃんがアイスを持ってきてくれた。
抹茶といちごの二種類だ。
「それで翔太くん。方法わかったのっ?」
「……翔太がどうしたんです?」
何か、嫌な予感がする。
「いや、翔太くんが『自分で考えて方法を当ててもいい?』って聞いてきたから」
僕は恐怖しながら、姉の方を見た。
目を瞑って嬉しそうにする姉が見えた。
「そっか~、翔太も当てたくなったか」
「いいや?姉ちゃんが調べると思ったから聞いてあげただけだけど」
「ふーん。そうなのね」
目を薄く開け、姉は僕を見つめた。
怪しげなその目に、僕は震えそうになった。
大丈夫、まだ姉と同類じゃない。今のところは。
「……お姉さんは、わかったんですか?」
「えぇ。わかりましたよ」
天音ちゃんは笑って姉と対峙する。
今度はさっきまでの明るい笑顔ではない。
姉と同じ、怪しいにやけだ。
「どうやるんですか?お姉さん」
「寒剤って知ってますか?」
「はい。氷に対する塩みたいな、混ぜて低温を得られる物質のことですよね?」
姉はうんうん頷いた。
「あなたはそれを使ったんですね。消毒液を利用して」
「……何と何を混ぜるんですか?」
姉は右手でアイスを、左手で消毒液を持った。
「ドライアイスとエタノール。この二つを混ぜると、マイナス72度まで到達できるんです」
「……すごい人だね。翔太くんのお姉さんは」
天音ちゃんの顔は、いつもの輝かしい笑顔に戻った。
「それほどでも。このマジックのためですか?大量のアイスは」
「逆ですね。アイスをよく食べてるから、このマジックができたんです」
準備、というのはこのことだったのかもしれない。
アイスを買って、ドライアイスをもらい、エタノールと混ぜる。
中々すごいトリックだな。
「そういや、翔太くん」
「……何?天音ちゃん」
僕と天音ちゃんの目線があった。
「お姉さんのやることがわかるなんて、以心伝心だねっ!」
「……えっ、ちょっとまっ」
僕は目に見えて動揺してしまう。
そんな僕を、姉は愛くるしそうに見つめた。
「で、翔太。パーティーは楽しい?」
「もちろん」
翔太の声は少し明るかった。
「で、姉ちゃんは何か見つけられた?」
「何も。ただクレープ食べただけになっちゃった」
私はショッピングモールのソファに座り、もう一度頭を回した。
ヒントは今のところまったくない。
となると、翔太からヒントを聞き出すしかない。
「翔太は何か、ヒントっぽい物知らない?」
「知ってるわけ……あ」
「何か知ってるの?翔太」
「知ってる、っていうか」
思わせぶりな口調に、私は不思議な感覚になった。
「どうしたの?翔太?」
「いや、天音ちゃんが不思議なこと言ってたから」
その言葉に、私は不意にテンションが上がった。
まさか、何かのヒントだろうか。
「確か、消毒液を自分で作ってるって」
「自分で作ってる?」
「うん。だけどその後、なんか口を滑らせたみたいになってて」
「ん?どゆこと翔太」
私は言いようのない不安感を抱えた。
口を滑らせた……まさか、消毒液がヒントになるのか?
「でも、消毒液にどんな意味があるんだろう」
「私に聞かれても」
消毒液を使って低温を作る、もしくはそのまま凍らせる。
難しそうな気がする。
第一、消毒液を自分で作るなんて聞いたことがない。
「みんなっ!アイス持ってきたよっ!」
「あ、切るね」
そう言うと、翔太は電話をブチっと切った。
「急に切らないでよ」
相手に聞こえない文句を述べつつ、私は一度情報を整理することにした。
まず、天音さんは消毒液を自分で作っている。
そして、消毒液を自作しているという情報は何かのヒント、かもしれない。
ひょっとしたら他に事情があるのかもしれないが、それはわからないな。
「アイスかぁ」
電話を切る直前、天音さんはアイスを持ってきた。
その言葉を不意に聞いたせいで、私も少しアイスが食べたくなっちゃった。
私はソファから立って、アイス屋に向かって歩き出した。
誰も並んでいないアイス屋は、不思議と不健康そうに見えた。
「えーっと、チョコレートのレギュラーをカップでください」
「わかりました」
私はアイスを受け取りに、レジの方向へ向かった。
その時、不意にドライアイスの料金表が目に入った。
「……ドライアイス?」
ドライアイスは確かに低温を作れるが、花を凍らせるほどではない。
ただ、何かが、何かが心に引っかかった。
「チョコレートです。どうぞ」
「ありがとうございます」
私はスタッフにお金を払うと、てくてくとショッピングモールを徘徊し始めた。
確か、このショッピングモールには消毒液が置いてあったはず。
それを見れば、何かわかるかもしれない。
入り口の方に向かい、そこに置かれている消毒液を見た。
「……普通の消毒液ね」
当然だが、そこにあったのは特別でも何でもない、ただの消毒液だった。
その消毒液を見つめても、特に何かがわかったわけでもない。
「ん?」
私の頭に何かが来る。
さっき感じた心のひっかかりと似たような、なにかが。
私はその場で固まり、静かに考え始めた。
その引っかかりの正体が、不意に露見した。
「なるほどね」
私は邪魔にならない隅に移動し、翔太に電話をかける。
「……もうパーティー終わりかけだけど。どうしたの?」
「翔太。私、わかっちゃった」
自分の声は不思議と自慢げだった。
◇暗狩 翔太
「それで、姉ちゃん」
姉は天音ちゃんの部屋で、アイスが運ばれてくるのを待っていた。
「どしたの?翔太」
「トリックがわかったの?」
「もちろん」
相変わらず勘のいい人だ。
そんなことを思いつつ、僕は姉とその時を待った。
「持ってきましたっ!」
天音ちゃんがアイスを持ってきてくれた。
抹茶といちごの二種類だ。
「それで翔太くん。方法わかったのっ?」
「……翔太がどうしたんです?」
何か、嫌な予感がする。
「いや、翔太くんが『自分で考えて方法を当ててもいい?』って聞いてきたから」
僕は恐怖しながら、姉の方を見た。
目を瞑って嬉しそうにする姉が見えた。
「そっか~、翔太も当てたくなったか」
「いいや?姉ちゃんが調べると思ったから聞いてあげただけだけど」
「ふーん。そうなのね」
目を薄く開け、姉は僕を見つめた。
怪しげなその目に、僕は震えそうになった。
大丈夫、まだ姉と同類じゃない。今のところは。
「……お姉さんは、わかったんですか?」
「えぇ。わかりましたよ」
天音ちゃんは笑って姉と対峙する。
今度はさっきまでの明るい笑顔ではない。
姉と同じ、怪しいにやけだ。
「どうやるんですか?お姉さん」
「寒剤って知ってますか?」
「はい。氷に対する塩みたいな、混ぜて低温を得られる物質のことですよね?」
姉はうんうん頷いた。
「あなたはそれを使ったんですね。消毒液を利用して」
「……何と何を混ぜるんですか?」
姉は右手でアイスを、左手で消毒液を持った。
「ドライアイスとエタノール。この二つを混ぜると、マイナス72度まで到達できるんです」
「……すごい人だね。翔太くんのお姉さんは」
天音ちゃんの顔は、いつもの輝かしい笑顔に戻った。
「それほどでも。このマジックのためですか?大量のアイスは」
「逆ですね。アイスをよく食べてるから、このマジックができたんです」
準備、というのはこのことだったのかもしれない。
アイスを買って、ドライアイスをもらい、エタノールと混ぜる。
中々すごいトリックだな。
「そういや、翔太くん」
「……何?天音ちゃん」
僕と天音ちゃんの目線があった。
「お姉さんのやることがわかるなんて、以心伝心だねっ!」
「……えっ、ちょっとまっ」
僕は目に見えて動揺してしまう。
そんな僕を、姉は愛くるしそうに見つめた。
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