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第1章
21. 手抜きは必要です
「レイラ、大丈夫か!?」
「は、はい!」
私の前に飛び込んできて、魔物の牙を剣で受け止めるグレン様。
……うん、今は考え事をしている場合じゃなかったわ。
「僕がいるから焦らなくても大丈夫だよ」
声がして視線を向けると、空から魔物に飛び掛かっているブランの姿が見えた。
その一瞬だけで魔物が動きを止める。
尻尾で薙ぎ払われた魔物は宙を舞う前に潰れて消えていく。
どれも軽々しい動きなのに、ものすごい音が聞こえてくるのよね……。
なんとなく察しは付いていたけれど、ブランと戦っても勝てる気が全くしない。
けれども数が多いから、私も魔法で援護する。
「もう全滅か」
「あの数の魔物が数分で……」
「奥様が強すぎる……」
そんなことをしていたら、あっという間に魔物の姿が見えなくなって、褒めているのか馬鹿にしているのか分からない言葉が聞こえてくる。
「奥様、怖いです」
「一騎当千よりも、一騎当国ですね」
「旦那様も負けないでくださいね」
このままだと、私のイメージが悪くなってしまうわ。
だから、普通の令嬢をアピール出来る方法を必死に考えてみる。
魔法を放つところは見られていて、油断から噛まれそうにもなったのに……。
……そうだわ。ブランのお陰ということにすれば、私の評価は少しは下がるはずよ。
「ブランの支援が無かったら、私はここまで戦えないわ」
「竜は自分の二倍以上強い人にしか懐かない」
「そうでしたの!?」
「ああ。そして、白竜は低く見積もっても黒竜の五倍の強さがある。
要するに、レイラ一人だけで、国を滅ぼせるってことだ」
私の魔法って、そんなに強いものなのね……。
グレン様がこのことを知っているなら、国王陛下も当然知っているはず。
それなのに私のことを貶めようとしているのは、一体どういうつもりなのかしら?
私が表立って怒ったことが無いから、何をしても良いと思っているの?
それとも、そもそも私の実力を知らないのかしら?
「グレン様、陛下は私の力を知っているのでしょうか?」
「いや、恐らく知らない。
レイラが本気を出す機会なんて無かったからな」
「そうでしたのね……」
流石にどこかの誰かみたいに、私は他人が困るようなことをしようとは思えない。
だから、この力を誰かを痛めつけるためには使いたくない。
出来ることなら、みんなを笑顔にするために使いたいのよね。
みんな笑っていられる方が幸せな気持ちになれるから。
◇
あれから少しして、私達は屋敷に戻って昼食を取ることになった。
帰りはグレン様も一緒に空の旅をすることになったのだけど……。
「うわああぁぁぁぁ」
空に舞い上がる時に叫んだと思ったら、少しすると風を受けるようにして手を広げたり、横に身を乗り出したりして下の方を見ている。
この高さから真下を見ると、私は足がすくんでしまうのに、グレン様は平気らしい。
さっきの叫びは何だったのか、少し気になるわ。
「グレン様、落ちないでくださいね」
「大丈夫だ」
「大丈夫だよ。落ちても僕が捕まえるから」
ブランの力があれば大丈夫だと納得はしたけれど、心臓には良くない光景だわ。
でも、この光景も数十秒で終わって、屋敷の前に降り立った。
「空の旅は楽しいな。白竜様、また乗せて頂けますか?」
「レイラが大丈夫なら、いくらでも乗せるよ!」
「そうですか。ありがとうございます」
グレン様とブランの会話を見守りながら、ダイニングに向かって足を進める私。
流石にあの状況だったから、料理はまだ出来ていないみたい。
「申し訳ありません。すぐにお作りします」
「急がなくても大丈夫よ」
口ではそう言ったのだけど、あれだけ魔法を使った後だとお腹が空いてしまうのよね。
私のお腹から音が鳴ってしまって、恥ずかしさと気まずさに襲われてしまう。
「いえ、お辛いでしょうから急ぎます」
「手を抜いても大丈夫だから、怪我をしないようにお願いね」
「旦那様、奥様はこうおっしゃられていますが……」
そういえば、グレン様もいるのだったわ……。
慌てて口を閉じたけれど手遅れで、料理長さんがそんな問いかけをしていた。
「レイラの意見が優先だ。基本はそうするように」
グレン様を怒らせてしまうかもしれないと思ったけれど、杞憂で済んだみたいで、優しい口調で指示をしている。
私の意見を優先するように指示を出しているのは謎だけれど、とりあえずは安心出来そうだ。
「承知しました。では、少しだけ手を抜かせていただきます。
多少焦げてしまうかもしれませんが、宜しいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。
それくらい気にしないわ」
「では、三分で完成しますので、お座りになってお待ちください」
そう言って、一気に火力を増やしていく料理長さん。
本当は作っているところを見たかったのだけど、油が跳ねて危ないと言われて、大人しく座って待つことになってしまった。
多少の火傷くらい、一瞬で治せるのに……。
少し残念だったけれど、心配されているのは嬉しい気もした。
けれども、こんな連絡が私の家から届いてしまった。
『レイラの資産がジャスパーに引き出されていたことが分かった』
私が個人的に貴族と取引して得たお金が、ジャスパー様に勝手に使われているらしい。
このことを聞いて怒りを覚えない人は、この世の中に居るのかしら?
「は、はい!」
私の前に飛び込んできて、魔物の牙を剣で受け止めるグレン様。
……うん、今は考え事をしている場合じゃなかったわ。
「僕がいるから焦らなくても大丈夫だよ」
声がして視線を向けると、空から魔物に飛び掛かっているブランの姿が見えた。
その一瞬だけで魔物が動きを止める。
尻尾で薙ぎ払われた魔物は宙を舞う前に潰れて消えていく。
どれも軽々しい動きなのに、ものすごい音が聞こえてくるのよね……。
なんとなく察しは付いていたけれど、ブランと戦っても勝てる気が全くしない。
けれども数が多いから、私も魔法で援護する。
「もう全滅か」
「あの数の魔物が数分で……」
「奥様が強すぎる……」
そんなことをしていたら、あっという間に魔物の姿が見えなくなって、褒めているのか馬鹿にしているのか分からない言葉が聞こえてくる。
「奥様、怖いです」
「一騎当千よりも、一騎当国ですね」
「旦那様も負けないでくださいね」
このままだと、私のイメージが悪くなってしまうわ。
だから、普通の令嬢をアピール出来る方法を必死に考えてみる。
魔法を放つところは見られていて、油断から噛まれそうにもなったのに……。
……そうだわ。ブランのお陰ということにすれば、私の評価は少しは下がるはずよ。
「ブランの支援が無かったら、私はここまで戦えないわ」
「竜は自分の二倍以上強い人にしか懐かない」
「そうでしたの!?」
「ああ。そして、白竜は低く見積もっても黒竜の五倍の強さがある。
要するに、レイラ一人だけで、国を滅ぼせるってことだ」
私の魔法って、そんなに強いものなのね……。
グレン様がこのことを知っているなら、国王陛下も当然知っているはず。
それなのに私のことを貶めようとしているのは、一体どういうつもりなのかしら?
私が表立って怒ったことが無いから、何をしても良いと思っているの?
それとも、そもそも私の実力を知らないのかしら?
「グレン様、陛下は私の力を知っているのでしょうか?」
「いや、恐らく知らない。
レイラが本気を出す機会なんて無かったからな」
「そうでしたのね……」
流石にどこかの誰かみたいに、私は他人が困るようなことをしようとは思えない。
だから、この力を誰かを痛めつけるためには使いたくない。
出来ることなら、みんなを笑顔にするために使いたいのよね。
みんな笑っていられる方が幸せな気持ちになれるから。
◇
あれから少しして、私達は屋敷に戻って昼食を取ることになった。
帰りはグレン様も一緒に空の旅をすることになったのだけど……。
「うわああぁぁぁぁ」
空に舞い上がる時に叫んだと思ったら、少しすると風を受けるようにして手を広げたり、横に身を乗り出したりして下の方を見ている。
この高さから真下を見ると、私は足がすくんでしまうのに、グレン様は平気らしい。
さっきの叫びは何だったのか、少し気になるわ。
「グレン様、落ちないでくださいね」
「大丈夫だ」
「大丈夫だよ。落ちても僕が捕まえるから」
ブランの力があれば大丈夫だと納得はしたけれど、心臓には良くない光景だわ。
でも、この光景も数十秒で終わって、屋敷の前に降り立った。
「空の旅は楽しいな。白竜様、また乗せて頂けますか?」
「レイラが大丈夫なら、いくらでも乗せるよ!」
「そうですか。ありがとうございます」
グレン様とブランの会話を見守りながら、ダイニングに向かって足を進める私。
流石にあの状況だったから、料理はまだ出来ていないみたい。
「申し訳ありません。すぐにお作りします」
「急がなくても大丈夫よ」
口ではそう言ったのだけど、あれだけ魔法を使った後だとお腹が空いてしまうのよね。
私のお腹から音が鳴ってしまって、恥ずかしさと気まずさに襲われてしまう。
「いえ、お辛いでしょうから急ぎます」
「手を抜いても大丈夫だから、怪我をしないようにお願いね」
「旦那様、奥様はこうおっしゃられていますが……」
そういえば、グレン様もいるのだったわ……。
慌てて口を閉じたけれど手遅れで、料理長さんがそんな問いかけをしていた。
「レイラの意見が優先だ。基本はそうするように」
グレン様を怒らせてしまうかもしれないと思ったけれど、杞憂で済んだみたいで、優しい口調で指示をしている。
私の意見を優先するように指示を出しているのは謎だけれど、とりあえずは安心出来そうだ。
「承知しました。では、少しだけ手を抜かせていただきます。
多少焦げてしまうかもしれませんが、宜しいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。
それくらい気にしないわ」
「では、三分で完成しますので、お座りになってお待ちください」
そう言って、一気に火力を増やしていく料理長さん。
本当は作っているところを見たかったのだけど、油が跳ねて危ないと言われて、大人しく座って待つことになってしまった。
多少の火傷くらい、一瞬で治せるのに……。
少し残念だったけれど、心配されているのは嬉しい気もした。
けれども、こんな連絡が私の家から届いてしまった。
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このことを聞いて怒りを覚えない人は、この世の中に居るのかしら?
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