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第1章
57. 帰ってきました
「レイラ、大丈夫か……?」
「何でもありません」
「そうか」
私が消え入るような声で答えると、グレン様はそれ以上問いかけてくることは無かった。
お陰で少しすれば恥ずかしい気持ちも消えてくれた。
だから……今はグレン様と色々なことをお話しながら、空の旅を楽しんでいる。
ほとんど私がお屋敷での出来事を話していただけなのに、グレン様はずっと楽しそうにしていた。
「もうすぐ着くよ」
「分かったわ。ありがとう」
その時間もあっという間に過ぎていたみたいで、すっかり日は雲の向こうに沈んでいる。
でも、雲の下に出ると、まばゆい光が私達を照らした。
下を見ると、使用人らしき点がお屋敷の中に入っていく様子が見える。
「人が点にしか見えないのだな」
「ええ。誰かなんて分かりませんわ」
けれど、そう口にした直後。
いくつもの点が庭に飛び出してきた。
ゆっくり地面に向かっているからまだ見えないけれど、きっとみんなが出迎えに来てくれたのね。
「この距離で見つけられますのね……」
「竜の大きさになれば目立つから、すぐに分かる」
そんなことをお話している間に、人影が誰なのか分かるくらいまで近付いた。
みんなと目が合っているような気がするけれど、まだ表情までは見えないのよね。
少しして無事に地面の上に降りると、使用人さん達は揃って頭を下げていた。
今回はグレン様も一緒だから、この対応は当然よね。
……だなんて思っていたのだけど。
「奥様、旦那様。お帰りなさいませ」
「「お帰りなさいませ」」
どうやら私の方が優先度が高くなっているみたいで、先に私が呼ばれていた。
「俺が居ない間にますます中を深めたのか……。
嬉しいが、素直に喜べないな」
そのことに気付いたグレン様は誰かを咎めることは無くて、曖昧な笑みを浮かべている。
前から使用人さん達には深く関わろうとしていなかった自覚があるみたいで、すぐに反省の色も見えた。
「みんな心配させてごめんなさい。ただいま戻りました」
「遅くなって済まなかった。出迎えありがとう」
私に続けて、そう口にするグレン様。
お父様は居心地悪そうに、軽く頭を下げていた。
「アルタイス伯爵様、いらっしゃいませ。
ご無事に帰還されたこと、大変喜ばしく思います」
お父様はお客様扱いだから、数人の侍従によって応接室に促されている。
「レイラ、帰りが明日になると家に手紙を飛ばしておいて欲しい。
済まないが、便箋とペンをお借りしたい」
「畏まりました。
こちらでは書き難いと思いますので、先に部屋の方へご案内致します」
お父様が先にお屋敷の中に入ったところで、私達も玄関に入る。
すると、カチーナが駆け寄ってきた。
「奥様、ご無事でよかったです! 荷物、お持ちしますね」
「ありがとう。みんなも元気そうで良かったわ」
治癒魔法をかけても魔力が全く減らなかったから、みんな健康そのものみたい。
「グレン様、また夕食でお会いしましょう」
「分かった。ゆっくり休むように」
「ええ、ありがとうございます」
軽く挨拶を交わして、私室に戻る私。
外はすっかり薄暗くなっているけれど、部屋の中はランプで照らされていた。
「デザートを用意してきますね」
「今日は大丈夫よ。
この時間に食べたら、夕食を食べられなくなってしまうから」
「畏まりました」
今日はアンナも私の近くに控えてくれているから、雑談にも華が咲くというもの。
荷解きをしながら、私はしばらくカチーナとアンナとの会話を楽しんだ。
私が質問攻めに遭っていただけでも、悪くない気分だった。
けれども、ふとした時。
「奥様、夕食の前に湯浴みをされた方が良いかもしれません」
「私、そんなに臭いかしら?」
気が抜けてすっかり油断していたけれど、帰路に着くまで慌ただしく動いていたから、汗をかいても浄化魔法で汚れを落とすくらいしか出来なかったのよね。
自分の身体に浄化魔法をかけるのは大変なのに、効果が無かっただなんて……。
うん、これは令嬢……じゃなくて。奥様失格だわ。
「いえ、臭くは無いですが、お疲れのようですので。
湯浴みは疲労回復に良いですから、是非!」
「疲れなら治癒魔法で……」
「治癒魔法で治せない気疲れも回復しますから。
上がってからはマッサージもしましょう」
アンナの言葉通り、治癒魔法は気疲れまでは癒せない。
だからといって今入ったら、夕食の時間に間に合わない気がするのよね。
「そんな時間あるかしら?」
「一時間あるので余裕です。十分間お湯に浸かるだけでも効果はあるはずです」
「それなら……お願いするわ」
私の抵抗は何も起こさなくて、そのまま湯浴みをしてからマッサージを受けることになった。
アンナもカチーナも上手だから、心地良い。
心地良さと一緒に眠気が襲ってきたけれど、疲れは綺麗に無くなっていて、夕食に向かう時は身体が軽くなった気がした。
「何でもありません」
「そうか」
私が消え入るような声で答えると、グレン様はそれ以上問いかけてくることは無かった。
お陰で少しすれば恥ずかしい気持ちも消えてくれた。
だから……今はグレン様と色々なことをお話しながら、空の旅を楽しんでいる。
ほとんど私がお屋敷での出来事を話していただけなのに、グレン様はずっと楽しそうにしていた。
「もうすぐ着くよ」
「分かったわ。ありがとう」
その時間もあっという間に過ぎていたみたいで、すっかり日は雲の向こうに沈んでいる。
でも、雲の下に出ると、まばゆい光が私達を照らした。
下を見ると、使用人らしき点がお屋敷の中に入っていく様子が見える。
「人が点にしか見えないのだな」
「ええ。誰かなんて分かりませんわ」
けれど、そう口にした直後。
いくつもの点が庭に飛び出してきた。
ゆっくり地面に向かっているからまだ見えないけれど、きっとみんなが出迎えに来てくれたのね。
「この距離で見つけられますのね……」
「竜の大きさになれば目立つから、すぐに分かる」
そんなことをお話している間に、人影が誰なのか分かるくらいまで近付いた。
みんなと目が合っているような気がするけれど、まだ表情までは見えないのよね。
少しして無事に地面の上に降りると、使用人さん達は揃って頭を下げていた。
今回はグレン様も一緒だから、この対応は当然よね。
……だなんて思っていたのだけど。
「奥様、旦那様。お帰りなさいませ」
「「お帰りなさいませ」」
どうやら私の方が優先度が高くなっているみたいで、先に私が呼ばれていた。
「俺が居ない間にますます中を深めたのか……。
嬉しいが、素直に喜べないな」
そのことに気付いたグレン様は誰かを咎めることは無くて、曖昧な笑みを浮かべている。
前から使用人さん達には深く関わろうとしていなかった自覚があるみたいで、すぐに反省の色も見えた。
「みんな心配させてごめんなさい。ただいま戻りました」
「遅くなって済まなかった。出迎えありがとう」
私に続けて、そう口にするグレン様。
お父様は居心地悪そうに、軽く頭を下げていた。
「アルタイス伯爵様、いらっしゃいませ。
ご無事に帰還されたこと、大変喜ばしく思います」
お父様はお客様扱いだから、数人の侍従によって応接室に促されている。
「レイラ、帰りが明日になると家に手紙を飛ばしておいて欲しい。
済まないが、便箋とペンをお借りしたい」
「畏まりました。
こちらでは書き難いと思いますので、先に部屋の方へご案内致します」
お父様が先にお屋敷の中に入ったところで、私達も玄関に入る。
すると、カチーナが駆け寄ってきた。
「奥様、ご無事でよかったです! 荷物、お持ちしますね」
「ありがとう。みんなも元気そうで良かったわ」
治癒魔法をかけても魔力が全く減らなかったから、みんな健康そのものみたい。
「グレン様、また夕食でお会いしましょう」
「分かった。ゆっくり休むように」
「ええ、ありがとうございます」
軽く挨拶を交わして、私室に戻る私。
外はすっかり薄暗くなっているけれど、部屋の中はランプで照らされていた。
「デザートを用意してきますね」
「今日は大丈夫よ。
この時間に食べたら、夕食を食べられなくなってしまうから」
「畏まりました」
今日はアンナも私の近くに控えてくれているから、雑談にも華が咲くというもの。
荷解きをしながら、私はしばらくカチーナとアンナとの会話を楽しんだ。
私が質問攻めに遭っていただけでも、悪くない気分だった。
けれども、ふとした時。
「奥様、夕食の前に湯浴みをされた方が良いかもしれません」
「私、そんなに臭いかしら?」
気が抜けてすっかり油断していたけれど、帰路に着くまで慌ただしく動いていたから、汗をかいても浄化魔法で汚れを落とすくらいしか出来なかったのよね。
自分の身体に浄化魔法をかけるのは大変なのに、効果が無かっただなんて……。
うん、これは令嬢……じゃなくて。奥様失格だわ。
「いえ、臭くは無いですが、お疲れのようですので。
湯浴みは疲労回復に良いですから、是非!」
「疲れなら治癒魔法で……」
「治癒魔法で治せない気疲れも回復しますから。
上がってからはマッサージもしましょう」
アンナの言葉通り、治癒魔法は気疲れまでは癒せない。
だからといって今入ったら、夕食の時間に間に合わない気がするのよね。
「そんな時間あるかしら?」
「一時間あるので余裕です。十分間お湯に浸かるだけでも効果はあるはずです」
「それなら……お願いするわ」
私の抵抗は何も起こさなくて、そのまま湯浴みをしてからマッサージを受けることになった。
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