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10. Side 綻びの始まり
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アイリスがアースサンド家の養子になった時から遡ること数時間。
ザーベッシュ邸では、ジュリアが侍女に向かって声を荒げていた。
「どういうこと!? 私が寝ていると思って、手入れの手を抜いているの!?」
「申し訳ございません……」
頭を下げる以外の行動が許されていない侍女は、ただそう口にすることしか出来ない。
けれども、ジュリアの言うような行動は一切していなかった。
今まで手入れを殆どせずとも、ジュリアの肌は艶を保ち続けていたのだ。
そのせいで侍女達は手入れの方法を殆ど知らず、いくらジュリア達が文句を言っても改善されることは無い。
「手を抜いていたのね! 今すぐやり直しなさい!」
「畏まりました」
やり直しを命じたところで意味は無いが、侍女のせいだと考えているジュリアが気付くことはない。
今まで綺麗な姿でいられたのは、全てアイリスの力のお陰なのだから。
もっとも、アイリスが大量に作り置きしてある水はまだ残っていて、それを使うことで二回目を終えた後のジュリアは最初よりも艶を取り戻していた。
「……いかがでしょうか?」
やり直しの手入れを終えた侍女が恐る恐る問いかけると、ジュリアは不満そうな表情を崩さずに口を開く。
「昨日のようにはならないのね……」
「申し訳ありません」
「まあいいわ。明日こそは元に戻しなさい」
あまり準備に時間をかけていては、聖女教育の時間に遅れることになる。
だからジュリアはこれ以上、侍女を問い詰めることはしなかった。
代わりにと、メイクは普段よりも濃く。そして派手に。
侍女にそう命じると、ジュリアは目を閉じるのだった。
そのメイクが肌荒れの原因になっていることなど知らずに――
◇
同じ頃。
ジュリアの実母である伯爵夫人の部屋で悲鳴が響いた。
「どうしてシワが……」
「奥様は他家の奥様方よりお若く見えますので、心配の必要は無いと思います」
今日初めて鏡を見て、彼女は絶望に染まった表情を浮かべている。
これまでシワやシミなどとは無縁だったところに、突然シワが出来てしまったのだ。
年齢を考えれば出来て当然だが、自らをまだ若いと勘違いしているせいで、現実を受け入れられない。
侍女がいくら言葉をかけても、全て反応は無かった。
「お前たち、このシワを何とかして消しなさい!」
「私達には無理です」
もっとも、シワを消す方法はある。
高位の治癒魔法をかければ、シワやシミはもちろんのこと、日焼けも綺麗に治せるのだ。
けれど、その治癒魔法を使える人は限られていて、今のところ聖女候補のジュリアが最有力とされている。
アイリスは聖女候補になったものの、治癒魔法はまだ扱えないという噂だ。
「誰なら出来るの!?」
「ジュリア様の治癒魔法で治せると思います」
「そう……今すぐジュリアを呼びなさい!」
「畏まりました」
そうしてメイクを終えたばかりのジュリアが部屋を訪れると、伯爵夫人はこう口にした。
「今すぐ私のシワを治癒魔法で治しなさい。聖女候補なら出来るわね?」
「はい」
ジュリアはそれだけ答え、自らの母に治癒魔法をかける。
けれど、シワは一切変わらず、ついに魔法の効果を示す光が消えた。
「シワ、消えたかしら?」
「いいえ、全く変わっておりません」
「ジュリア! どういうこと!?」
聖女候補の魔法で治せないなら、誰も治すことが出来ない。
そのことは伯爵夫人も知っている。
けれども、彼女は諦めようとしなかった。
「アイリス様も聖女候補になったようなので、頼られてはいかがですか?」
「今更、あの女の娘を頼るなんて出来ないわ!」
「聖女様になられてからでは遅いと思いますが……」
「ジュリアが聖女になるのだから関係無いわ」
この決断を後悔する日がいつになるのか。
答えは誰にも分からない。
ザーベッシュ邸では、ジュリアが侍女に向かって声を荒げていた。
「どういうこと!? 私が寝ていると思って、手入れの手を抜いているの!?」
「申し訳ございません……」
頭を下げる以外の行動が許されていない侍女は、ただそう口にすることしか出来ない。
けれども、ジュリアの言うような行動は一切していなかった。
今まで手入れを殆どせずとも、ジュリアの肌は艶を保ち続けていたのだ。
そのせいで侍女達は手入れの方法を殆ど知らず、いくらジュリア達が文句を言っても改善されることは無い。
「手を抜いていたのね! 今すぐやり直しなさい!」
「畏まりました」
やり直しを命じたところで意味は無いが、侍女のせいだと考えているジュリアが気付くことはない。
今まで綺麗な姿でいられたのは、全てアイリスの力のお陰なのだから。
もっとも、アイリスが大量に作り置きしてある水はまだ残っていて、それを使うことで二回目を終えた後のジュリアは最初よりも艶を取り戻していた。
「……いかがでしょうか?」
やり直しの手入れを終えた侍女が恐る恐る問いかけると、ジュリアは不満そうな表情を崩さずに口を開く。
「昨日のようにはならないのね……」
「申し訳ありません」
「まあいいわ。明日こそは元に戻しなさい」
あまり準備に時間をかけていては、聖女教育の時間に遅れることになる。
だからジュリアはこれ以上、侍女を問い詰めることはしなかった。
代わりにと、メイクは普段よりも濃く。そして派手に。
侍女にそう命じると、ジュリアは目を閉じるのだった。
そのメイクが肌荒れの原因になっていることなど知らずに――
◇
同じ頃。
ジュリアの実母である伯爵夫人の部屋で悲鳴が響いた。
「どうしてシワが……」
「奥様は他家の奥様方よりお若く見えますので、心配の必要は無いと思います」
今日初めて鏡を見て、彼女は絶望に染まった表情を浮かべている。
これまでシワやシミなどとは無縁だったところに、突然シワが出来てしまったのだ。
年齢を考えれば出来て当然だが、自らをまだ若いと勘違いしているせいで、現実を受け入れられない。
侍女がいくら言葉をかけても、全て反応は無かった。
「お前たち、このシワを何とかして消しなさい!」
「私達には無理です」
もっとも、シワを消す方法はある。
高位の治癒魔法をかければ、シワやシミはもちろんのこと、日焼けも綺麗に治せるのだ。
けれど、その治癒魔法を使える人は限られていて、今のところ聖女候補のジュリアが最有力とされている。
アイリスは聖女候補になったものの、治癒魔法はまだ扱えないという噂だ。
「誰なら出来るの!?」
「ジュリア様の治癒魔法で治せると思います」
「そう……今すぐジュリアを呼びなさい!」
「畏まりました」
そうしてメイクを終えたばかりのジュリアが部屋を訪れると、伯爵夫人はこう口にした。
「今すぐ私のシワを治癒魔法で治しなさい。聖女候補なら出来るわね?」
「はい」
ジュリアはそれだけ答え、自らの母に治癒魔法をかける。
けれど、シワは一切変わらず、ついに魔法の効果を示す光が消えた。
「シワ、消えたかしら?」
「いいえ、全く変わっておりません」
「ジュリア! どういうこと!?」
聖女候補の魔法で治せないなら、誰も治すことが出来ない。
そのことは伯爵夫人も知っている。
けれども、彼女は諦めようとしなかった。
「アイリス様も聖女候補になったようなので、頼られてはいかがですか?」
「今更、あの女の娘を頼るなんて出来ないわ!」
「聖女様になられてからでは遅いと思いますが……」
「ジュリアが聖女になるのだから関係無いわ」
この決断を後悔する日がいつになるのか。
答えは誰にも分からない。
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