35 / 49
35. 堀に水を入れます
しおりを挟む
あの後、二つ目の塔の水を入れ替え終えた私は、三つ目の塔を登り切った。
「――これで最後ですね!」
「ああ。頼ってばかりで申し訳ない」
「私の意思ですから、イアン様は気にしないでください!」
彼が私のことを気にかけていることは嬉しい。でも、あまり心配されると申し訳ない気持ちになってしまう。
私の全力を見せたら安心して指示を出してくれると思うけれど、そういう機会は来そうになかった。
「今回も一瞬だったな……。次は堀に水を入れに行こう」
「分かりました」
そんな言葉を交わし、私達は馬車寄せへと向かう。
堀は昨日のうちに完成していて、今は王都を守る城壁のさらに外側にも防衛のための堀を作っているという。
しばらく馬車に揺られると、少しだけ周囲が暗くなる。城壁にある門をくぐったらしい。
外に視線を向けると、先週は無かったはずの橋を渡っているところで、その先には想像していたよりも深く広い堀があった。
「これが堀ですか……?」
「ああ。正直これだけでも魔物の足止めにはなると思う」
魔物から守るために堀を作る理由は一つだけ。
真っ直ぐ王都に入れないようにして、四つある入口のどれかから攻めにくるようにしている。
王都に近付けないことが理想だけれど、押されたときは入口のところで袋叩きにするという作戦だ。
空飛ぶ魔物が相手だと難しいけれど、大抵は地面の上しか移動できない魔物が現れるから、その対策が優先されているのだ。
「簡単には登れなさそうですものね。これを一週間で作るなんて、すごいです」
「土魔法の使い手を国中から集めたんだ。水が染み込まないように工夫しているから一週間かかったが、それが無ければ一日で終わるらしい」
「一日……すごいですね」
「アイリスも大概だよ」
そんな言葉を交わしながら、慎重に堀に水を入れていく。
一度に作っても良いのだけど、見えない場所に大量の水を作り出すのは危険だから、水かさを見ながら魔法を使い続ける。
うっかり大波を作って城壁を壊したら目も当てられないもの。
時間をかけてでも、慎重に作りたい。
「ただの水と違って、堀は形を作ってますから」
「三百人と一人では比べ物にならないが……」
イアン様がそう漏らした時、ようやく堀の半分ほどを満たすことが出来た。
「でも、私よりも魔力がある方はたくさん居ますよね?」
「おそらく、アイリスが王国で一番魔力を持っている」
「冗談……ですよね?」
私なんかが王国一だなんて、何かの間違いだと思う。
貴族は爵位で地位が決まっているけれど、魔力量の多さでも権威が変わってくるのよね……。
功績も権力も名声もない令嬢が王国一だなんて、嫉妬で何かされてもおかしくないから、こんな名誉はさっさと返上したい。
「本気で言っている」
「イアン様が一番ということになりませんか?」
「無理だと思う」
彼が一番なら色々と都合が良いのに、即答されてしまった。
今までずっと使用人以下の生活をしていた私が権威を持ったところで、何にもならないのに。
「ど、そうすれば良いのですか?」
「魔力量の多さは実力に直結するから、自慢して牽制に使うのはどうだ? 仮に俺よりアイリスの方が権威を持ったとしても、結婚すれば同じことだから遠慮は不要だ」
「私には難しいです……!」
そう声を上げ、水魔法を止める。
これ以上は雨が降った時に溢れてしまうから、まだ完全には満たせていないけれど丁度いいはずだ。
「権威を振るうことは無くても、持っていた方が良い。それだけで厄介事に巻き込まれることが減るんだ」
「よく分からないのですけど、お守りのようなものでしょうか?」
「ああ。とはいえ、このまま一番を明け渡すのは悔しいから、鍛錬してアイリスを超すよ」
悔しいと言いながら、イアン様の表情はすごく明るい。
私も一番になるのは遠慮したいから、彼に早く抜いてもらいたかった。
「魔力って増やせるのですね」
「そう簡単には増えないから、効率よく使えるように練習する」
私の言葉に、イアン様は首を振る。
簡単には増えないということは、増やせるという意味でもある。
一体どうすれば増えるのか気になるけれど、彼に突然抱き寄せられ、言葉が出なくなってしまった。
「……イアン様!?」
直後、大きな弧を描いて飛んでくる矢が見えた。
それをイアン様は素でで掴み取る。
「いきなりで済まなかった。
強い魔物が現れたらしい。王都に戻ろう」
「どういうことですか?」
矢が一瞬だけ見えたから、また暗殺されそうになったのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。
その証拠に、彼が握っている矢の鏃は丸くなっていて、本当に私達に危険を知らせるものだと理解した。
「――これで最後ですね!」
「ああ。頼ってばかりで申し訳ない」
「私の意思ですから、イアン様は気にしないでください!」
彼が私のことを気にかけていることは嬉しい。でも、あまり心配されると申し訳ない気持ちになってしまう。
私の全力を見せたら安心して指示を出してくれると思うけれど、そういう機会は来そうになかった。
「今回も一瞬だったな……。次は堀に水を入れに行こう」
「分かりました」
そんな言葉を交わし、私達は馬車寄せへと向かう。
堀は昨日のうちに完成していて、今は王都を守る城壁のさらに外側にも防衛のための堀を作っているという。
しばらく馬車に揺られると、少しだけ周囲が暗くなる。城壁にある門をくぐったらしい。
外に視線を向けると、先週は無かったはずの橋を渡っているところで、その先には想像していたよりも深く広い堀があった。
「これが堀ですか……?」
「ああ。正直これだけでも魔物の足止めにはなると思う」
魔物から守るために堀を作る理由は一つだけ。
真っ直ぐ王都に入れないようにして、四つある入口のどれかから攻めにくるようにしている。
王都に近付けないことが理想だけれど、押されたときは入口のところで袋叩きにするという作戦だ。
空飛ぶ魔物が相手だと難しいけれど、大抵は地面の上しか移動できない魔物が現れるから、その対策が優先されているのだ。
「簡単には登れなさそうですものね。これを一週間で作るなんて、すごいです」
「土魔法の使い手を国中から集めたんだ。水が染み込まないように工夫しているから一週間かかったが、それが無ければ一日で終わるらしい」
「一日……すごいですね」
「アイリスも大概だよ」
そんな言葉を交わしながら、慎重に堀に水を入れていく。
一度に作っても良いのだけど、見えない場所に大量の水を作り出すのは危険だから、水かさを見ながら魔法を使い続ける。
うっかり大波を作って城壁を壊したら目も当てられないもの。
時間をかけてでも、慎重に作りたい。
「ただの水と違って、堀は形を作ってますから」
「三百人と一人では比べ物にならないが……」
イアン様がそう漏らした時、ようやく堀の半分ほどを満たすことが出来た。
「でも、私よりも魔力がある方はたくさん居ますよね?」
「おそらく、アイリスが王国で一番魔力を持っている」
「冗談……ですよね?」
私なんかが王国一だなんて、何かの間違いだと思う。
貴族は爵位で地位が決まっているけれど、魔力量の多さでも権威が変わってくるのよね……。
功績も権力も名声もない令嬢が王国一だなんて、嫉妬で何かされてもおかしくないから、こんな名誉はさっさと返上したい。
「本気で言っている」
「イアン様が一番ということになりませんか?」
「無理だと思う」
彼が一番なら色々と都合が良いのに、即答されてしまった。
今までずっと使用人以下の生活をしていた私が権威を持ったところで、何にもならないのに。
「ど、そうすれば良いのですか?」
「魔力量の多さは実力に直結するから、自慢して牽制に使うのはどうだ? 仮に俺よりアイリスの方が権威を持ったとしても、結婚すれば同じことだから遠慮は不要だ」
「私には難しいです……!」
そう声を上げ、水魔法を止める。
これ以上は雨が降った時に溢れてしまうから、まだ完全には満たせていないけれど丁度いいはずだ。
「権威を振るうことは無くても、持っていた方が良い。それだけで厄介事に巻き込まれることが減るんだ」
「よく分からないのですけど、お守りのようなものでしょうか?」
「ああ。とはいえ、このまま一番を明け渡すのは悔しいから、鍛錬してアイリスを超すよ」
悔しいと言いながら、イアン様の表情はすごく明るい。
私も一番になるのは遠慮したいから、彼に早く抜いてもらいたかった。
「魔力って増やせるのですね」
「そう簡単には増えないから、効率よく使えるように練習する」
私の言葉に、イアン様は首を振る。
簡単には増えないということは、増やせるという意味でもある。
一体どうすれば増えるのか気になるけれど、彼に突然抱き寄せられ、言葉が出なくなってしまった。
「……イアン様!?」
直後、大きな弧を描いて飛んでくる矢が見えた。
それをイアン様は素でで掴み取る。
「いきなりで済まなかった。
強い魔物が現れたらしい。王都に戻ろう」
「どういうことですか?」
矢が一瞬だけ見えたから、また暗殺されそうになったのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。
その証拠に、彼が握っている矢の鏃は丸くなっていて、本当に私達に危険を知らせるものだと理解した。
777
あなたにおすすめの小説
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる