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38. 違えたら

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「見ての通り、大罪人はこの世を去った! これによって、パレッツ王国が悪魔に襲われる危険も無くなった!」

 執行官の声が響き渡ると、民の方から次々と暴言が飛び出してきた。
 どれもエレノアが処刑されたことを喜ぶ内容だけれど、私にはその気持ちは分からなかった。

「シルフィーナ、大丈夫か? やっぱり、父上を止めるべきだった……」
「少し気分が悪くなっただけですわ……。それに、処刑を見届けることを選んだのは私ですから……」

 やっぱり、処刑なんて見るものでは無いわ……。
 あんな残酷なこと、見ていても気分が良くなったりはしないもの。

 でも、これは私だけの話。
 処刑を見ることを生きがいにしていて、命を救われる人もいるのよね……。

 だから公開処刑を止めさせることは出来ない。

「責務をこなそうとしてくれるのは嬉しいが、辛かったら逃げても良い」
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですわ」

 朝食を普段通りにとっていたら危なかったけれど、今日はかなり量を抑えてもらったから最悪の事態にはならなかった。

「本当に辛かったらすぐに言って欲しい」
「ええ」

 私達の耳には、今も変わらず興奮する民の声が入ってきている。
 その声を聞きたくなかったから、私は王城の奥に行くことに決めた。

 アルバート様も私の気持ちを察してくれたみたいで、いつも通りのエスコートをしてくれた。
 そのお陰で少しだけ気分が和らいだから、私は笑顔を見せながらお礼を口にした。


    ☆


「シルフィーナ嬢、貴女には少々刺激が強すぎるものだったと思うが、体調は大丈夫か?」
「ええ、この通り大丈夫ですわ」

 陛下の執務室に呼び出された私は、問いかけにそう返した。
 処刑を目にした直後の気分は最悪だったけれど、気にしないで魔法の練習をしていたらすっかり治っていた。

 今この場にいるのは、私とアルバート様と陛下夫妻の四人。
 護衛が同席していないというのは、私がそれだけ信用されていることにもなる。

「そうか」
「最初は辛いと思うけれど、何回か見ていたら慣れてしまうものだから、気にしないことが一番よ。
 それに、万が一襲われた時は、襲撃者を殺すことも覚悟しないといけないわ。その時に体調を崩していたら逃げられなくなってしまうから、慣れも必要なの」

 残酷なことだけれど、王妃様の言っていることも一理あるように思える。
 王家が襲撃されたら、襲撃者側にも騎士団側にも死人が出るはず。

 その時には嫌でも人が殺されるところを目にしてしまうことになるから、簡単に気分を悪くして動けなくなっていたら、私の命が危なくなってしまう。
 精霊の加護があっても、それは私の身体に危害を加えられないだけで、誘拐は出来てしまうのだから。

 陛下が私に処刑を見るように言ってきた理由が分かった気がした。
 でも、人の死に慣れるなんて、すごく残酷だと思う。

「王妃様のおっしゃることは理解できますわ」
「無理強いは出来ないけれど、万が一の時に人を殺められるだけの覚悟は持っておいた方がいいわ」
「分かりましたわ」

 王族に入ってから、反感を向けられないように振る舞えば、きっと処刑を見る機会は減るはず。
 だから、民からも貴族からも、好かれていなくても反感を買わないように、アルバート様を支えていきたい。

 だから、彼が道を違えそうな時は全力で止める。
 その方が人を殺めるよりもずっと幸せになれるはずだから。

 口にはしないけれど、このことを胸に決めた。



「ここからが本題になる。
 シルフィーナ嬢を攫ったガークレオンの処遇についてだ」

 少し間をおいてから口にする陛下。
 ガークレオン様は今は貴人用の牢に入れられているのだけど、エレノアの処刑を最優先にするために後回しにされていた。

 ちなみに、ガークレオン様が私を誘拐したことはまだ公にされていない。
 でも、包み隠すことなんて出来ないから、明日には公になるらしい。

「シルフィーナ嬢、かの者への罰として望むものはあるか?」

 ガークレオン様にかけられた罪は、私を拉致したことだけ。
 エレノアを協力させていたことは明らかになっているけれど、これはエレノアの罪が増えただけでガークレオン様には何の関係もない。

 人攫いという行為は重い罪になることが多いけれど、それは身体に危害を加えているから。
 でも、私はただ眠らされていただけだから、それほど重い罰には出来ないはずなのよね……。

 厄介なのは、攫われた私が精霊の愛し子だということ。
 本来なら法に基づいた裁判で裁くことになるけれど、今回は私の意思が優先されることになっている。

 過去に精霊の愛し子の反感を買ってしまって、その人から協力を得られなくなったことを教訓にしているそうなのだけど……。

「法の下に正しく裁くことを望みます。公爵家の嫡男だからと優遇することは許しませんわ」
「分かった。身分によって減刑されることが無いように、私が裁判長を務めよう」
「ありがとうございます」

 理不尽なほど重い罪にすることなんて求めないから、身分や裁判長の買収によって罪が軽くならないようにお願いした。
 絶対に罪から逃げることは出来ないようにする。それが私の風聞を悪くしたガークレオン様への復讐にもなると思ったから。
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