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41. 前を向いて

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「お疲れさま。鎧、重くなかった?」
「ええ。すっかり慣れてしまったみたいですわ」

 裁判が終わり、王宮に戻る私達。
 王城では他人の目に触れる機会がたくさんあるから、移動の最中も鎧は着たまま。

 傍から見たら私は護衛にしか見えないと思うのだけど、少し距離が近すぎる気がするのよね……。

「……そうか。判決に不満は?」
「大丈夫ですわ。十年間の鉱山での労働に耐えられるとは思えませんから、十分だと思っています。
 それに、王都からの永久追放があれば二度と顔を合わせることもありませんので」

 少し心配そうに問いかけてくるアルバート様だったけれど、私の答えを聞いて安心したのか頬を緩めていた。
 王宮に入ってからは、いつも通りのエスコートになったけれど、鎧の上からだからエスコートされている感覚がしなくて残念だった。

 それから部屋で着替えるために一度別れたのだけど……。



 着替え終えた時、誰かに部屋の扉がノックされた。

「シルフィーナ様、ミモザです。すぐにお話ししたいことがありますので、入れて頂けないでしょうか?」
「何かあったのかしら?」

 私の専属に戻った侍女の声だったから、そのまま扉を開ける私。
 慌てているみたいだったから、何が起きていてもいいように身構える。

「申し上げにくいのですが、アルバート殿下が騎士様をエスコートされていました。
 もしかしたら、殿下は小柄な男性がお好きなのかもしれません」
「それって……」

 深刻そうに口にするミモザ。でも、私はその騎士にすごく覚えがあったから、少し申し訳ない気持ちになってしまった。
 同時に、ショックも受けてしまった。

「私って、そんなに殿方に見えるのかしら……?」
「可愛らしいご令嬢にしか見えませんが……」

 失言に気付いたみたいで、慌てて口を塞ぐミモザ。

「もしかして、あの騎士様はシルフィーナ様だったのですか?」
「そうよ……」
「申し訳ありませんでした」

 深々と頭をさげられても、殿方と間違えられたことがショックで泣きたかった。
 鎧を着ていても、出るところは出るはずなのに……。

 何がとは言わないけれど、私は周りのご令嬢と比べると出てないのよね……。
 もしかして、私は殿方の筋肉にも負けているのかしら?

「シルフィーナ、入っても良いか?」
「ええ」

 返事をして扉を開ける私。
 その直後、アルバート様がこんな言葉をかけてくれた。

「何かあったのか? 辛いことがあったら相談に乗るが……」
「私の身体ってやっぱり女性らしくないのでしょうか? 鎧を着ていたとはいえ、ミモザに殿方と勘違いされてしまって……」
「普通だと思うよ。引かないで聞いて欲しいんだけど、シルフィーナの容姿も内面も全部好きなんだから、そんなに悲しまないで欲しい。
 一応言っておくと、その鎧は男に見えるように作らせたもので体のラインが分からないから、勘違いするのも仕方ないと思う」
「そうでしたのね……」

 今回の変装のために用意したものだと聞いて少し驚いた。
 それに、気持ちを伝えてくれたことが嬉しかった。

 気恥ずかしさもあるけれど、嬉しいものは嬉しい。

「……レベッカと話しに行くと言っていたが、今は止めておくか?」
「いえ、早めに伝えた方がいいと思っているので、すぐに行きますわ」

 アルバート様の問いかけに、そう答える私。

 着替えは済んでいるから、そのままレベッカの部屋に向かった。



「シルフィーナよ。入ってもいいかしら?」
「はい。今開けますね」

 扉の向こうから返事が聞こえてくる。
 それからすぐに扉が開けられて、私はレベッカの部屋に入った。

 アルバート様は私とレベッカから少し離れたところで待ってくれている。

「今日は貴女に伝えないといけないことがあってきたの。驚かないで聞いて欲しいわ」
「そんなに大事なことなの……?」
「ええ。貴女の今後の人生にも関わることよ」

 そんな前置きをしながらレベッカの様子を伺う私。

「教えてください。すごく気になります」
「私達、血の繋がった姉妹だったみたいなの」
「私と、シルフィーナお義姉様が、ですか……?」
「そうよ」

 困惑しながらの問いかけに頷く私。
 そんな時、レベッカが涙を零したことに気付いた。

「そんな……。私は、血の繋がったお姉様に……。
 他人だったら何をしてもいいと思っていたから……本当にごめんさない」
「そう教えられてきたのね。反省しているなら、まだ間違いを正せるわ。
 公爵家の娘としての教育、受ける覚悟はあるかしら?」

 他人だからって、嫉妬から嫌がらせをしていいことにはならない。
 でも、レベッカは正しいことだと思っている様子だったから、正しい知識を教える必要があると考えた。

 嫌がらせのお返しに厳しい教育を受けさせたいというよこしまな気持ちは少しあるけれど、これはレベッカの将来を一番に考えてのこと。
 彼女に公爵家の評判を落とされることもあってはならないから、一年半後の成人――十六歳になる前までには公爵家の令嬢としての振る舞いを身に着けてもらわないといけない。

「はい。公爵令嬢になるための教育を受けさせてください」
「分かったわ。音を上げたら許さないけれど、それでもいいかしら?」
「やっぱり、怒っているの……?」
「五年近くも嫌がらせされたのだから当然よ。公爵家の娘としての振る舞いを身に着けたら、嫌がらせのことは忘れて家族として認めるわ」
「分かりました。どんなに大変でも、私はお姉様の家族として認められたいです」

 絶対に赦さないだなんて酷いことは言えないから、教育をしっかりとこなしたら赦すと伝える私。
 他人が苦しむ様子を見て愉悦に浸れるような心は持ち合わせていないから、これから始まる王妃教育の合間に手助けもしようと思っている。

 本心を言うと、嫌がらせのことはもう気にしていない。

 それに……レベッカが前を向いてくれたから、嬉くて目頭が熱くなりそうだった。
 
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