12 / 46
第2章 公爵令嬢、料理人になりました
12. 最初の賄い②
しおりを挟む
ハンバーグを口に運ぶと、程よい塩味が一気に広がる。
流石は王宮仕えの料理人と思える味だ。
けれども、食材の質が良くないせいで、食感はボソボソとし口の中の水分を奪われるもの。
味付けのお陰で難なく食べられるものの、決して美味しいとは言えなかった。
一方、スープは王家に出した余りということもあり、具の野菜からは程よい歯応えを感じられる。お肉はとても柔らかく、味付けも相まってとても美味しい。
けれど味付けは塩味が基本なため、毎回これでは飽きてしまいそうだ。
「マリエットさん、最初の賄いはどうかしら?」
「正直に答えて良いのでしょうか?」
ひと口ずつ運ぶとアンナに問いかけられ、マリエットは答えに困ってしまう。
「ええ、もちろん」
「分かりました。スープは美味しいと思いますが、ハンバーグはそう思えませんでした。味付けは良いのですけれど、食材が駄目です」
「味付けや調理方法を変えても駄目かしら?」
「お肉だと難しいと思います」
痛んだ食材を使って料理をしたこともあるものの、痛んだ肉を使った時は上手く出来なかった。
料理スキルのお陰で食中りは起さずに済んだものの、とても人に出せるものではないとマリエットは思っている。
「マリエットさんでも難しいなら、本当に無理なのかもしれないわね……」
「狩りをすれば安くて良いお肉が手に入るので、アンナさんも試してみますか?」
「命がいくらあっても足りないわ」
「練習すれば大丈夫です。
……ごちそうさまでした」
言葉を交わしている間に完食し、マリエット達は食器を片付けに向かう。
王族や貴族は食器の片付けを使用人に任せているが、使用人になると自分が使った食器は自分で綺麗にして干す決まりだ。
だから、マリエットは流し場で汚れを軽く落としてからスキルで綺麗にし、アンナは石鹸を使って洗っていく。
それが終わると、残りの休憩時間は自由に過ごせる。
「マリエットさん。私は部屋で休むけれど、大丈夫かしら?」
「私も部屋で休憩するので大丈夫です」
休憩場所の説明は受けていないため、休むなら私室なのだろう。マリエットはそう考え、アンナと同じ方向に足を向ける。
部屋はすぐ近くだったようで、お互いに会釈をしてから部屋に入った。
それからしばらくして。
休憩を終え厨房に戻ったマリエットは、アンナと手分けして賄いを作ることになった。
賄い担当の仕事は、王宮暮らしをしている使用人の夕食を作ることだ。
昼食の使用人全員分より量は少ないものの、大変なことに変わりはない。
「まずはオニオンとピーマンはこの切り方で、ベーコンはこんな感じでお願いします」
「分かったわ」
だから、マリエットは早めに調理を始めて、夕食時に備えることに決めている。
麺は伸びてしまうためまだ手を付けていないものの、具の方は料理スキルで美味しく温め直せるのだ。
けれど、オニオンを切るときに目が痛くなることは防げず、マリエットは何度か涙を拭う。
ちなみに、今回は余っていた食材も使っているものの、どれも状態は悪くない。だから、マリエットは美味く作れる自信を持っていた。
「アンナさんは大丈夫なのですね……」
「慣れだと思うわ。マリエットさんも、すぐ大丈夫になるはずよ」
食材を切り終えたら、大きなフライパンで炒めていき、頃合いを見てケチャップから作ったソースと和えていく。
そして、大抵の使用人が夜の休憩に入る時間を見計らって麺を茹で、最後に具と混ぜ合わせ軽く炒めたら完成だ。
「――いよいよ完成かしら?」
「はい。早すぎましたか?」
「丁度良い時間だから驚いたわ。マリエットさんの料理スキル、未来も見えるのかしら?」
「そんな力はありません。ただ、夜の休憩時間から計算して動いただけです」
言葉を交わしながら盛り付けをすると、休憩に来た使用人が次々と姿を見せる。
「美味しそうな匂い……」
「今日の賄いは当たりかもしれないわ」
ちらほらと期待する声も聞こえ、マリエットは少し緊張してしまう。
もし不味いと言われたら、自信を無くすに違いないから。
けれど、ナポリタンを口にした人の方から聞こえてくるのは、満足している声ばかりだ。
「このパスタ、初めて見るけど……すごくおいしいわね」
「ナポリタンって書いてあったわ。聞いたことが無いから、きっと料理人さんの発明よ」
「また食べたいわ」
厨房のカウンターから見渡すと、大勢が満足そうに食事を勧めていて、ようやくマリエットは安堵から頬を緩める。
そして、人の流れが途切れると、マリエット達もナポリタンを手に厨房の奥にあるテーブルを囲った。
「いただきます」
「いただきます」
食前の挨拶をして、具と麺を絡めて口に運ぶアンナ。
マリエットはアンナの反応が気になっていて、まだ手を付けられずにいる。
「……美味しい。パスタに似ているようで、別物ね。これなら王家の方も満足させられると思うわ」
「気に入って頂けて良かったです。この量を作るのは初めてで、不安でしたの」
「沢山作る方が難しいから、王家に出すときはもっと美味しく出来そうね」
期待するような視線を向けられ、マリエットは照れ隠しのように料理へと視線を落とす。
そして、最初のひと口を確かめると、満足そうに笑顔を浮かべた。
流石は王宮仕えの料理人と思える味だ。
けれども、食材の質が良くないせいで、食感はボソボソとし口の中の水分を奪われるもの。
味付けのお陰で難なく食べられるものの、決して美味しいとは言えなかった。
一方、スープは王家に出した余りということもあり、具の野菜からは程よい歯応えを感じられる。お肉はとても柔らかく、味付けも相まってとても美味しい。
けれど味付けは塩味が基本なため、毎回これでは飽きてしまいそうだ。
「マリエットさん、最初の賄いはどうかしら?」
「正直に答えて良いのでしょうか?」
ひと口ずつ運ぶとアンナに問いかけられ、マリエットは答えに困ってしまう。
「ええ、もちろん」
「分かりました。スープは美味しいと思いますが、ハンバーグはそう思えませんでした。味付けは良いのですけれど、食材が駄目です」
「味付けや調理方法を変えても駄目かしら?」
「お肉だと難しいと思います」
痛んだ食材を使って料理をしたこともあるものの、痛んだ肉を使った時は上手く出来なかった。
料理スキルのお陰で食中りは起さずに済んだものの、とても人に出せるものではないとマリエットは思っている。
「マリエットさんでも難しいなら、本当に無理なのかもしれないわね……」
「狩りをすれば安くて良いお肉が手に入るので、アンナさんも試してみますか?」
「命がいくらあっても足りないわ」
「練習すれば大丈夫です。
……ごちそうさまでした」
言葉を交わしている間に完食し、マリエット達は食器を片付けに向かう。
王族や貴族は食器の片付けを使用人に任せているが、使用人になると自分が使った食器は自分で綺麗にして干す決まりだ。
だから、マリエットは流し場で汚れを軽く落としてからスキルで綺麗にし、アンナは石鹸を使って洗っていく。
それが終わると、残りの休憩時間は自由に過ごせる。
「マリエットさん。私は部屋で休むけれど、大丈夫かしら?」
「私も部屋で休憩するので大丈夫です」
休憩場所の説明は受けていないため、休むなら私室なのだろう。マリエットはそう考え、アンナと同じ方向に足を向ける。
部屋はすぐ近くだったようで、お互いに会釈をしてから部屋に入った。
それからしばらくして。
休憩を終え厨房に戻ったマリエットは、アンナと手分けして賄いを作ることになった。
賄い担当の仕事は、王宮暮らしをしている使用人の夕食を作ることだ。
昼食の使用人全員分より量は少ないものの、大変なことに変わりはない。
「まずはオニオンとピーマンはこの切り方で、ベーコンはこんな感じでお願いします」
「分かったわ」
だから、マリエットは早めに調理を始めて、夕食時に備えることに決めている。
麺は伸びてしまうためまだ手を付けていないものの、具の方は料理スキルで美味しく温め直せるのだ。
けれど、オニオンを切るときに目が痛くなることは防げず、マリエットは何度か涙を拭う。
ちなみに、今回は余っていた食材も使っているものの、どれも状態は悪くない。だから、マリエットは美味く作れる自信を持っていた。
「アンナさんは大丈夫なのですね……」
「慣れだと思うわ。マリエットさんも、すぐ大丈夫になるはずよ」
食材を切り終えたら、大きなフライパンで炒めていき、頃合いを見てケチャップから作ったソースと和えていく。
そして、大抵の使用人が夜の休憩に入る時間を見計らって麺を茹で、最後に具と混ぜ合わせ軽く炒めたら完成だ。
「――いよいよ完成かしら?」
「はい。早すぎましたか?」
「丁度良い時間だから驚いたわ。マリエットさんの料理スキル、未来も見えるのかしら?」
「そんな力はありません。ただ、夜の休憩時間から計算して動いただけです」
言葉を交わしながら盛り付けをすると、休憩に来た使用人が次々と姿を見せる。
「美味しそうな匂い……」
「今日の賄いは当たりかもしれないわ」
ちらほらと期待する声も聞こえ、マリエットは少し緊張してしまう。
もし不味いと言われたら、自信を無くすに違いないから。
けれど、ナポリタンを口にした人の方から聞こえてくるのは、満足している声ばかりだ。
「このパスタ、初めて見るけど……すごくおいしいわね」
「ナポリタンって書いてあったわ。聞いたことが無いから、きっと料理人さんの発明よ」
「また食べたいわ」
厨房のカウンターから見渡すと、大勢が満足そうに食事を勧めていて、ようやくマリエットは安堵から頬を緩める。
そして、人の流れが途切れると、マリエット達もナポリタンを手に厨房の奥にあるテーブルを囲った。
「いただきます」
「いただきます」
食前の挨拶をして、具と麺を絡めて口に運ぶアンナ。
マリエットはアンナの反応が気になっていて、まだ手を付けられずにいる。
「……美味しい。パスタに似ているようで、別物ね。これなら王家の方も満足させられると思うわ」
「気に入って頂けて良かったです。この量を作るのは初めてで、不安でしたの」
「沢山作る方が難しいから、王家に出すときはもっと美味しく出来そうね」
期待するような視線を向けられ、マリエットは照れ隠しのように料理へと視線を落とす。
そして、最初のひと口を確かめると、満足そうに笑顔を浮かべた。
612
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる