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第2章 公爵令嬢、料理人になりました
11. 最初の賄い①
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「これで全部なので、王都に戻りましょう」
「早かったわね……」
食べられる部分を全て料理に使える形に解体し終え、マリエット達は王都に足を向ける。
豚一頭分の肉はかなりの重さがあるが、マリエットが作り出した氷の荷車のお陰で軽々と運べていた。
「王宮までは時間がかかりそうね」
「最初から馬車で来た方が良かったですね……」
「そうね。この氷、どれくらい持つのかしら?」
「私が触れている間は解けないので、私が生きている限りは持たせられます」
アンナは食材と氷の心配をしていたが、マリエットの言葉で不安は消えていく。
氷の荷車は目立つものの、氷結スキル使いが使っている姿が目撃されているお陰で、王都に戻っても怪しまれることは無かった。
三十分ほど歩いて王宮に戻ると、マリエットは氷が敷き詰められている冷蔵庫に肉を入れ、使う分だけを外の調理場に運ぶ。
そして道具の準備を済ませると、金網の下にある薪に料理スキルを使って火を起した。
「では、始めますね」
「お願いするわ」
短いやり取りに続けて、マリエットは金網の上に肉を載せる。
そして、燻している間に急いで厨房に戻り、アンナと手分けしてトマトをみじん切りにしていく。
「これは何を作っているのかしら?」
「ケチャップという調味料です」
「初めて聞くわ……」
「私もレシピスキルで見るまでは知らなかったのですけど、色々な料理に合うので使い勝手が良いのです」
言葉を交わしている間に、みじん切りにしたトマトを煮込み、もう一つの鍋ではオニオンとガーリックなどを入れ煮込んでいくマリエット。
アンナは教育係のはずだが、無駄の無い動きをするマリエットに感心しつつ、使い終わった道具を洗っていた。
――それから一時間。
厨房には立派なベーコンとケチャップが完成した状態で並べられると、アンナは引き気味に口を開いた。
「賄いにここまで手をかける人はマリエットさんが初めてだわ……」
「自分で食べるだけでも、美味しい方が良いと思うので。皆さんは違うのですか……?」
マリエットから作り方を聞いているため、まだ食材が揃っただけというのはアンナも理解している。
時間に余裕はある上に、残る仕事は賄いを作るだけだから問題は無いものの、大抵の料理人は休むことを求めるため、アンナにとっては不思議な光景だ。
「大抵の人は楽することを選んでいるわ。
私も普段なら部屋でゆっくりしているもの」
「そうだったのですね。ここまで準備出来たら、あとは三十分くらいで出来るので時間まで休みましょう」
「ええ。でも、その前に……昼食にしましょう」
不思議そうにするアンナだが、マリエットとて働き詰めを望んでいるわけではない。
食材や道具を片付け終えると、厨房を後にし使用人向けのダイニングへと向かった。
けれども、廊下を進んでいる途中で侍女に呼び止められてしまう。
「貴女、まだ勤務時間なのにサボるつもりかしら?」
今にも手を出しかねない形相で声を上げるカミラを見て、マリエットは身構える。
公爵令嬢として護身術を叩きこまれているため、手を出されても怪我をしない自信はあるものの、新入りの身で余計な騒ぎは起こしたくない。
「カミラさん、私達はまだ一度も休憩出来ていないの。まだお昼も食べれていないから、今から食べに行くところなの。それも許されないのかしら?」
「休憩なら決められた時間に取るべきだと思うわ。ねえ、マリエットさん?」
「私はそう思いません。王家の方にも都合があるので、お仕えしている私達は臨機応変に行動するべきです」
「……先輩方に目を付けられても知らないわよ」
王家を引き合いに出すと、カミラも強くは出れないらしく、捨て台詞を口にする。
けれど、マリエットには響かない。既にカミラという厄介な先輩に目を付けられているものの、他の侍女達には親切にしてもらえているからだ。
「ご助言、ありがとうございます。気を付けますわ」
言いたいことはあるものの、穏便に済ませるためマリエットはカミラに頭を下げる。
そうして無事に解放されると、マリエットはアンナと並んで廊下を進み、使用人が使っているダイニングに足を踏み入れた。
今日は朝食を食べる余裕が無かったため、ここに入るのは初めてのことだ。
目に入る景色すべてが新鮮で、見回すと至る所に調度品が置かれており、貴族のダイニングと言っても疑われないほど豪華な造りをしている。
アンナに促され料理を取ってから席に着くと、椅子の座り心地の良さにも驚く。
(疲れは吹き飛ぶけれど、椅子から離れたくなくなりそうね……)
マリエットはそんなことを思いながら、賄いに目を向ける。
今日はハンバーグとスープにパンの三品だが、どれも暗い色をしていて普段なら食欲はそそられないだろう。
今は空腹という最高のスパイスのお陰で気にならないが、王家にも評される先輩料理人が作ったとは信じがたいものだ。
「いただきます……」
「いただきます」
一体どんな味がするのか。
恐怖と興味の入り混じった気持ちで、マリエットはハンバーグにナイフを入れるのだった。
「早かったわね……」
食べられる部分を全て料理に使える形に解体し終え、マリエット達は王都に足を向ける。
豚一頭分の肉はかなりの重さがあるが、マリエットが作り出した氷の荷車のお陰で軽々と運べていた。
「王宮までは時間がかかりそうね」
「最初から馬車で来た方が良かったですね……」
「そうね。この氷、どれくらい持つのかしら?」
「私が触れている間は解けないので、私が生きている限りは持たせられます」
アンナは食材と氷の心配をしていたが、マリエットの言葉で不安は消えていく。
氷の荷車は目立つものの、氷結スキル使いが使っている姿が目撃されているお陰で、王都に戻っても怪しまれることは無かった。
三十分ほど歩いて王宮に戻ると、マリエットは氷が敷き詰められている冷蔵庫に肉を入れ、使う分だけを外の調理場に運ぶ。
そして道具の準備を済ませると、金網の下にある薪に料理スキルを使って火を起した。
「では、始めますね」
「お願いするわ」
短いやり取りに続けて、マリエットは金網の上に肉を載せる。
そして、燻している間に急いで厨房に戻り、アンナと手分けしてトマトをみじん切りにしていく。
「これは何を作っているのかしら?」
「ケチャップという調味料です」
「初めて聞くわ……」
「私もレシピスキルで見るまでは知らなかったのですけど、色々な料理に合うので使い勝手が良いのです」
言葉を交わしている間に、みじん切りにしたトマトを煮込み、もう一つの鍋ではオニオンとガーリックなどを入れ煮込んでいくマリエット。
アンナは教育係のはずだが、無駄の無い動きをするマリエットに感心しつつ、使い終わった道具を洗っていた。
――それから一時間。
厨房には立派なベーコンとケチャップが完成した状態で並べられると、アンナは引き気味に口を開いた。
「賄いにここまで手をかける人はマリエットさんが初めてだわ……」
「自分で食べるだけでも、美味しい方が良いと思うので。皆さんは違うのですか……?」
マリエットから作り方を聞いているため、まだ食材が揃っただけというのはアンナも理解している。
時間に余裕はある上に、残る仕事は賄いを作るだけだから問題は無いものの、大抵の料理人は休むことを求めるため、アンナにとっては不思議な光景だ。
「大抵の人は楽することを選んでいるわ。
私も普段なら部屋でゆっくりしているもの」
「そうだったのですね。ここまで準備出来たら、あとは三十分くらいで出来るので時間まで休みましょう」
「ええ。でも、その前に……昼食にしましょう」
不思議そうにするアンナだが、マリエットとて働き詰めを望んでいるわけではない。
食材や道具を片付け終えると、厨房を後にし使用人向けのダイニングへと向かった。
けれども、廊下を進んでいる途中で侍女に呼び止められてしまう。
「貴女、まだ勤務時間なのにサボるつもりかしら?」
今にも手を出しかねない形相で声を上げるカミラを見て、マリエットは身構える。
公爵令嬢として護身術を叩きこまれているため、手を出されても怪我をしない自信はあるものの、新入りの身で余計な騒ぎは起こしたくない。
「カミラさん、私達はまだ一度も休憩出来ていないの。まだお昼も食べれていないから、今から食べに行くところなの。それも許されないのかしら?」
「休憩なら決められた時間に取るべきだと思うわ。ねえ、マリエットさん?」
「私はそう思いません。王家の方にも都合があるので、お仕えしている私達は臨機応変に行動するべきです」
「……先輩方に目を付けられても知らないわよ」
王家を引き合いに出すと、カミラも強くは出れないらしく、捨て台詞を口にする。
けれど、マリエットには響かない。既にカミラという厄介な先輩に目を付けられているものの、他の侍女達には親切にしてもらえているからだ。
「ご助言、ありがとうございます。気を付けますわ」
言いたいことはあるものの、穏便に済ませるためマリエットはカミラに頭を下げる。
そうして無事に解放されると、マリエットはアンナと並んで廊下を進み、使用人が使っているダイニングに足を踏み入れた。
今日は朝食を食べる余裕が無かったため、ここに入るのは初めてのことだ。
目に入る景色すべてが新鮮で、見回すと至る所に調度品が置かれており、貴族のダイニングと言っても疑われないほど豪華な造りをしている。
アンナに促され料理を取ってから席に着くと、椅子の座り心地の良さにも驚く。
(疲れは吹き飛ぶけれど、椅子から離れたくなくなりそうね……)
マリエットはそんなことを思いながら、賄いに目を向ける。
今日はハンバーグとスープにパンの三品だが、どれも暗い色をしていて普段なら食欲はそそられないだろう。
今は空腹という最高のスパイスのお陰で気にならないが、王家にも評される先輩料理人が作ったとは信じがたいものだ。
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