天職を見つけたので毎日が幸せです!

水空 葵

文字の大きさ
11 / 46
第2章 公爵令嬢、料理人になりました

11. 最初の賄い①

しおりを挟む
「これで全部なので、王都に戻りましょう」
「早かったわね……」

 食べられる部分を全て料理に使える形に解体し終え、マリエット達は王都に足を向ける。
 豚一頭分の肉はかなりの重さがあるが、マリエットが作り出した氷の荷車のお陰で軽々と運べていた。

「王宮までは時間がかかりそうね」
「最初から馬車で来た方が良かったですね……」
「そうね。この氷、どれくらい持つのかしら?」
「私が触れている間は解けないので、私が生きている限りは持たせられます」

 アンナは食材と氷の心配をしていたが、マリエットの言葉で不安は消えていく。
 氷の荷車は目立つものの、氷結スキル使いが使っている姿が目撃されているお陰で、王都に戻っても怪しまれることは無かった。

 三十分ほど歩いて王宮に戻ると、マリエットは氷が敷き詰められている冷蔵庫に肉を入れ、使う分だけを外の調理場に運ぶ。
 そして道具の準備を済ませると、金網の下にある薪に料理スキルを使って火を起した。

「では、始めますね」
「お願いするわ」

 短いやり取りに続けて、マリエットは金網の上に肉を載せる。
 そして、燻している間に急いで厨房に戻り、アンナと手分けしてトマトをみじん切りにしていく。

「これは何を作っているのかしら?」
「ケチャップという調味料です」
「初めて聞くわ……」
「私もレシピスキルで見るまでは知らなかったのですけど、色々な料理に合うので使い勝手が良いのです」

 言葉を交わしている間に、みじん切りにしたトマトを煮込み、もう一つの鍋ではオニオンとガーリックなどを入れ煮込んでいくマリエット。
 アンナは教育係のはずだが、無駄の無い動きをするマリエットに感心しつつ、使い終わった道具を洗っていた。

 ――それから一時間。
 厨房には立派なベーコンとケチャップが完成した状態で並べられると、アンナは引き気味に口を開いた。

「賄いにここまで手をかける人はマリエットさんが初めてだわ……」
「自分で食べるだけでも、美味しい方が良いと思うので。皆さんは違うのですか……?」

 マリエットから作り方を聞いているため、まだ食材が揃っただけというのはアンナも理解している。
 時間に余裕はある上に、残る仕事は賄いを作るだけだから問題は無いものの、大抵の料理人は休むことを求めるため、アンナにとっては不思議な光景だ。

「大抵の人は楽することを選んでいるわ。
 私も普段なら部屋でゆっくりしているもの」
「そうだったのですね。ここまで準備出来たら、あとは三十分くらいで出来るので時間まで休みましょう」
「ええ。でも、その前に……昼食にしましょう」

 不思議そうにするアンナだが、マリエットとて働き詰めを望んでいるわけではない。
 食材や道具を片付け終えると、厨房を後にし使用人向けのダイニングへと向かった。

 けれども、廊下を進んでいる途中で侍女に呼び止められてしまう。

「貴女、まだ勤務時間なのにサボるつもりかしら?」 

 今にも手を出しかねない形相で声を上げるカミラを見て、マリエットは身構える。
 公爵令嬢として護身術を叩きこまれているため、手を出されても怪我をしない自信はあるものの、新入りの身で余計な騒ぎは起こしたくない。

「カミラさん、私達はまだ一度も休憩出来ていないの。まだお昼も食べれていないから、今から食べに行くところなの。それも許されないのかしら?」
「休憩なら決められた時間に取るべきだと思うわ。ねえ、マリエットさん?」
「私はそう思いません。王家の方にも都合があるので、お仕えしている私達は臨機応変に行動するべきです」
「……先輩方に目を付けられても知らないわよ」

 王家を引き合いに出すと、カミラも強くは出れないらしく、捨て台詞を口にする。
 けれど、マリエットには響かない。既にカミラという厄介な先輩に目を付けられているものの、他の侍女達には親切にしてもらえているからだ。

「ご助言、ありがとうございます。気を付けますわ」

 言いたいことはあるものの、穏便に済ませるためマリエットはカミラに頭を下げる。
 そうして無事に解放されると、マリエットはアンナと並んで廊下を進み、使用人が使っているダイニングに足を踏み入れた。

 今日は朝食を食べる余裕が無かったため、ここに入るのは初めてのことだ。
 目に入る景色すべてが新鮮で、見回すと至る所に調度品が置かれており、貴族のダイニングと言っても疑われないほど豪華な造りをしている。

 アンナに促され料理を取ってから席に着くと、椅子の座り心地の良さにも驚く。

(疲れは吹き飛ぶけれど、椅子から離れたくなくなりそうね……)

 マリエットはそんなことを思いながら、賄いに目を向ける。
 今日はハンバーグとスープにパンの三品だが、どれも暗い色をしていて普段なら食欲はそそられないだろう。

 今は空腹という最高のスパイスのお陰で気にならないが、王家にも評される先輩料理人が作ったとは信じがたいものだ。

「いただきます……」
「いただきます」

 一体どんな味がするのか。
 恐怖と興味の入り混じった気持ちで、マリエットはハンバーグにナイフを入れるのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

処理中です...