10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵

文字の大きさ
38 / 39
番外編

熱と温もり

しおりを挟む
 長いようで短かった2年の婚約期間が終わり、私とアルト様は結婚することになった。
 公爵家同士の結婚ということもあって、王都にある大聖堂で私達も式を挙げることになっている。

 代々の王族が式を挙げてきたという神聖な場所で挙げられるのは嬉しいのだけど、少し私の身に余るような気もしている。

「緊張しているのかな?」
「ええ。こんなにも沢山の方に注目されるのは初めてですから……」

 招待者の一覧を見て、言葉を失ったのはついさっきの話。
 でも、時間が経っても緊張が和らぐことはなくて、むしろ少しずつ増していっている。

 そんな私だけれど、今は最高級のシルクで仕立てられたウェディングドレスを身に纏い、今までの人生で一番輝かしい装いをしている。
 アクセサリーも全て高級品で、今の私が身に着けているものだけで伯爵家の屋敷が買えてしまうというのだから驚きしかない。

 きっと、その重みも緊張の原因になっている。
 それでも宝石やドレスそのものの重さはあまり感じていない。アクセサリーの一部に重さを軽くする効果のある魔導具が混ざっているから。

「大丈夫、ソフィアは世界で一番綺麗だよ。注目されても恥なんてかかないさ。それに、何かあっても俺が助ける」
「一番は言い過ぎですわ」
「謙遜しなくてもいい。本当に今すぐ抱きしめたいくらいだ」

 冗談を言っている様子もなく、そんなことを口にするアルト様。
 その言葉は毎日のように言われているけれど、久しぶりに赤面してしまった。

「アルト様。ドレスが乱れてしまうので抱きしめないでくださいね?」

 そんな時、侍女さんがアルトにこんなことを注意していた。

「分かっている。だが口付けくらいは良いだろう?」
「式の最中にされるのですから、問題ありません」

 口付けくらい? そっちの方が恥ずかしいのだけど?
 でも、式の時に大勢の前で……。

 想像してみたら、恥ずかしさや私が知らない気持ちで胸が熱くなってしまう。
 そういえば、恥ずかしい時は自分から行動を起こすと良いってアリスが言っていたわね……。

 ええ、覚悟を決めました。

「アルト様、少し屈んで頂けますか?」
「これでいい?」
「ありがとうございます」

 お礼を言ってから、不意を突くように彼の頬に口付ける私。
 少ししてから離れると、アルト様は驚いたような表情をしていた。でも、赤面はしていない。

 けれども、その直後。

「ソフィアのせいで心臓がバクバク言ってるんだけど? これはお返し」
「えっ……?」

 私が戸惑っていると、慣れた様子で顔を寄せられ、唇を重ねられてしまった。
 不意打ちに不意打ちで返すのは良くないと思うのだけど!?

 心の中で抗議してみてもアルト様が離れる気配は無くて。
 しばらくして彼が離れた時には、すっかり私の顔は茹だってしまっていた。

「やぱっり可愛い」
「もう、追い打ちをかけるのは止めてください!」
「式の時に赤面する方が恥ずかしいと思うから、今のうちに慣らしておかないとね」

 アルト様なりの配慮だったのか、それとも言葉通りに私に対するお返しだったのか、それとも両方なのかは分からない。
 でも、そんな彼の配慮が嬉しくて。

 胸の熱は心地よい温かさに変わっていた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

セラフィーヌの幸せ結婚  ~結婚したら池に入ることになりました~

れもんぴーる
恋愛
貧乏子爵家のセラフィーヌは侯爵家嫡男のガエルに望まれて結婚した。 しかしその結婚生活は幸せなものではなかった。 ガエルは父に反対されている恋人の隠れ蓑としてセラフィーヌと結婚したのだ。 ある日ガエルの愛人に大切にしていたブローチを池に投げ込まれてしまうが、見ていた使用人たちは笑うだけで拾おうとしなかった。 セラフィーヌは、覚悟を決めて池に足を踏み入れた。 それをガエルの父が目撃していたのをきっかけに、セラフィーヌの人生は変わっていく。 *前半シリアス、後半コミカルっぽいです。 *感想欄で所々ネタバレしてしまいました。  感想欄からご覧になる方はご注意くださいませm(__)m *他サイトでも投稿予定です  

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...