嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~

月夜乃 古狸

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第46話 困惑、納得、やっぱり困惑

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 いくつかある学院の食堂。
 貴族科棟と政務科棟の間にあるそこの席に料理の載ったトレイを置いてから崩れるように座って溜め息を吐く。

 皇室が運営する帝国高等学院は帝国中から全ての貴族家子女と素養の高い平民が集まるだけあって所属する学生や職員は相当な数に上る。
 そのため、敷地内には食堂が複数あり、学生は好きな場所で食事を摂ることになっているのだけど、基本的に自分の所属する科に近い食堂を利用している。
 まぁ、軍務科はむさ苦しい連中が多いせいか、文官志望の政務科生徒は近づかないし、貴族科棟にある食堂は高位貴族、まぁ伯爵家連中だが、そいつらが幅をきかせていて面倒なので、取り巻きたち以外の下級貴族や政務科の平民の家の子女は一番大きなここの食堂を利用することがほとんどだ。
 俺の場合も辺境伯家とはいえ田舎者なのでこっちの方が居心地が良い。

 ちなみに公爵家や侯爵家、辺境伯家という最高位貴族子女は別に用意されているサロンを利用することが多い、らしい。
 リスランテに連れられて一度行った事があるけど、高そうな調度品があって落ち着いて飯が食えなかったのでそれ以来使っていない。料理は美味かったけどな。
 それに対してこの食堂は平民や余裕のない下級貴族が利用するだけあって味はそこそこだけど安くて量が多い。
 家の爵位は高くても金持ちじゃない俺としてはとてもありがたい場所なのだ。

 それと、俺がこの食堂を利用している理由がもうひとつ。
「あれ? どうしたのフォー? 随分疲れた顔をしてるけど」
「レスタールさん、久しぶりです。お疲れですか?」
 せっかく持ってきた料理に手をつけずにボーッとしていると、ふたりの男女に声を掛けられた。
 聞き覚えのある声に、俺は大きく伸びをしてから振り返る。
 俺と同じように木のトレーを持った友人、タルド男爵家のボーデッツと平民の出ながら文官志望の才女ウィミルが近づいてきていた。

「実際、疲れてるよ」
「今日はリスランテさんは一緒じゃないの?」
「あ~、なんか休みらしい。世話係のクレジェスさんの話だとフォルス公爵の用事で何日か学院に来られないらしい。色々と相談したかったんだけどな。タイミングが悪いよ」
 向かい側に座ったふたりにそう愚痴ると、ウィミルは不思議そうに首をかしげたがボーデッツの方はニヤニヤしながら俺に揶揄うような目を向けてきた。

「どうしてさ。フォーの望み通り令嬢からモテモテじゃないか。嬉しいでしょ?」
 同じクラスなだけにボーデッツは俺の今の状況を知っている。
 だからこそこうして面白そうにしているんだろうが、俺としてはそんな気楽なものじゃない。
「休暇が明けて学院に戻ってきたらいきなりわけもわからず言い寄られるようになったら逆に恐すぎるわ。これまで俺が近づくだけで距離を取られてたのに」
 本当に意味がわからないから単純に喜べないのだ。
 
 それに、突然俺にアプローチしてきた令嬢たちは10人くらいなんだが、その誰もが俺に好意を持っているというよりも、別の目的があるように思えて仕方がない。
 何せ、俺に話しかけてくる令嬢の目には甘いものなんて欠片も浮かんでいなくて、どこか必死さというか、やむにやまれぬ事情があるような、そんな切羽詰まった感じがあるのだ。
 確かに俺が希望していた下級貴族の令嬢たちばかりで、将来的にレスタール領に移り住みたいと言ってはくれているから条件的には申し分ないし、容姿も十分に可愛い。
 けど、俺が一番重視するのは、俺のことを好きになってくれて、結婚してからもイチャイチャ甘々な生活が送れることだ。
 それなのに、今のところ特別な感情を持っていないだろう俺に対して悲壮な覚悟で嫁候補に名乗り出るような相手とそんな関係を築ける気がしない。

「わけがわからないって、フォーは本当に理由を知らないの?」
 ん? ボーデッツは知ってるのか?
「えっと、レスタール辺境伯とボッシュ男爵家の噂なら私も聞いていますけど、もしかしてそのことですか?」
 どゆこと?
 政務科のウィミルまで知ってるって、もしかしてその噂とやらが原因なのか?

「貴族科ではかなり広まってるけど。フォーの家がボッシュ男爵家の後ろ盾になって援助したことや男爵家の令嬢との縁談がなくなったのに支援は継続してるって」
「あの決闘の事もかなり噂になってますよね。その分テルケル伯爵家は大変みたいですけど」
 ボーデッツとウィミルの言葉に憮然とする。
 ボッシュ前男爵とサリーフェ嬢が自領に帰ってからまだそれほど経ってないのになんでそんなに噂が広まってるんだよ。
 しかも、縁談がなくなった、つまり俺の婚活がまたしても失敗したことまで。

 ボーデッツが話してくれたところによると、そもそも決闘の話がかなりの勢いで貴族たちの間に広まっていたらしい。
 レスタール領の兵士が精強であるという話は聞いていても、どこか眉唾というか、話半分という捉えられ方しかしていなかった貴族たち。
 まぁ、ひとりで100人を倒せるだとか、一体で街を滅ぼせるような魔獣を日常的に狩っているとか聞けば、噂に尾ひれがつきまくった大げさな話としか思えなくても無理はないのかもしれない。

 ところがテルケル伯爵家の嫡男が必勝を期して投じた精鋭20名を俺ひとりであっさりと蹴散らし、経験豊富な腕利きの傭兵は戦わずして降参という結果。
 公爵家当主にして現宰相が立会人。しかもテルケル伯爵家が吹聴しまくったせいで、あの場には多くの貴族連中が集まっていたため、その一部始終を目の当たりにした人も大勢居た。
 だから実際にレスタールの狩人の実力が噂に違わぬ、どころか下手をすればそれ以上かもしれないと思ったのだろう。
 
 為政者にとって武力は文字通り力だ。
 ただ、帝国では領地ごとに所有できる兵力は制限されている。帝都から離れた領主が邪なことを考えないようにという規則で、基本的には治安維持プラス多少の余裕ができる程度しか許されていない。
 例外は潜在的な敵対国と隣接している辺境伯領だけど、それすらも常に中央の監視対象となっている。……監査官の居着かないレスタール領以外は。
 
 さらに、今回ボッシュ男爵家は、うちが持たせたお土産。レスタール領で狩った獣の素材や魔境産の鉱物を満載した荷車で送ったわけだが、それを商人に売ったことで返さなくて良くなったはずのテルケル伯爵家への借金も返しきったらしい。
 つまりは強力な武力と、豊かな資源を持っていることを知った貴族連中がレスタール家を取り込もうと動いた結果が今の状況だということだった。
 だから俺が公言していたような下級貴族家の令嬢を宛がって結婚させようと一部の貴族が動いたのだろう。
 …………う、嬉しくねぇ!

「それに、ボッシュ男爵の令嬢が縁談を断っても、約束通り援助は続けたわけでしょ? そんなお人好しのフォーなら籠絡できると思ったんじゃない?」
「あ、あの、レスタールさんはとても優しくて強いですから、全部が全部打算ってわけじゃないと思います、よ?」
 ウィミルのフォローが逆に辛いですよ。ボーデッツの容赦ない論評も悲しいけども。

「と、とにかくいきなり令嬢が寄ってくるようになった理由はわかった」
「で、フォーはどうするの? 今ならよりどりみどり選び放題だよ?」
「そ、そんなの不誠実です!」
「しないよ!?」
 紐付きどころか打算しかない政略結婚なんてするつもりないぞ。
 俺の夢見るイチャイチャ結婚生活と対極の環境なんて真っ平御免だよ。

「けど、面白くないって思ってる貴族も居るみたいだから注意した方が良いかもね」
 ひとしきり俺を揶揄った後、ボーデッツが不意に真剣な顔でそう忠告してきた。
「いや、面白くないって、別に俺悪くないだろ?」
「少なくともテルケル伯爵家は完全に面目丸つぶれだよ。しかもボッシュ男爵には一括で借金まで返されて社交界では笑いものだからね。フォーのことは相当恨んでるんじゃないかな。それに、モルジフ殿下もフォーが原因で陛下から謹慎させられてて、そうとう荒れてるらしいし」
 め、面倒くせぇ!

「まぁ、近いうちにリスランテさんに相談した方が良いかもね」
 ボーデッツはそう言うが、どうもリスも忙しいみたいだしなぁ。
 自分のことは自分でなんとかしなきゃ、頼ってばかりじゃ友人とは言えないし。
 まぁ、とりあえず令嬢たちからはなんとか逃げるとして、他の、ちょっかい出してくる連中は場合によっては拳で説得する。
 ともかく、今の状況はなんとか理解できたから、慎重に立ち回ることにしよう。うん。

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