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運命さんこんにちは、さようなら
2ー③
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「ふぅん。そっか。分かった。じゃあもう家に帰っていい?」
「は? ダメに決まってるだろう。主人とお相手様が無事番うまで万が一にも遭遇してもらっては困る。だからそれまではここにいて欲しい」
「えー? 僕仕事もあるし、ここにずっとは無理だよー」
「仕事……」
燐は仕事という言葉に反応し顔を歪ませ、咲に蔑みの目を向けた。
実は咲が『運命』と遭遇した場所が一本通りが違えば所謂ホテル街になっていて、咲がその方向から出てきたのを見ている為仕事はそっち系なのだと勝手に勘違いしてしまっていた。だから最初から咲に対して態度が悪く、少しだけ高圧的にもなったのだ。
こちらの都合で番にしてしまうのだから、燐は番のことを一番に考えなんでも許し、大事にしようと思っていた。自分と番ったことを良かったと思って欲しかった。幸せにしたかった。
燐たちは誰かと関係を持つことを禁じられていたこともあるが、燐自身将来の番の為に操をたてていたから相手もそうであったらいいと思っていた。過去に恋人がいたならそれはしょうがないが、そういうことを仕事にできるなんて、とショックを受け裏切られたように感じてしまったのだ。たとえそういう仕事をしていたとしても好きでしているとは限らない。生きる為に仕方なくそうするしかないΩもたくさんいることを燐は少しも想像できなかった。
誤解している燐には、咲が今更仕事を続けることも関係者と会うことすら到底受け入れられるはずがなかった。イライラがそのままひどい言葉となって口から飛び出す。
「仕事なんか……。充分な金は払うって言ってるだろう?」
少し怒ったように吐き捨てるように言う燐に咲はムッとして、すぐに悲し気な顔をした。
「そういう問題じゃないよ。そりゃ僕ひとりいなくても困らないかもだけど、社長にはお世話になったしアニキたちのことも好きだもん。せめて会ってお別れくらい言わせてよ」
「──ダメだ」
『好き』という言葉に思わず低い声が出た。一体何人とそういう関係になったのか、もしかして客だけではなくそいつらとも──考えるだけで胸がざわざわと煩く騒ぎ、ズキズキと痛む。人はそれを『嫉妬』と言うが、燐はそれに気づかない。勿論咲も。
「横暴だ……」と咲はぽつりと呟いて、そっぽを向いた。普段の咲であったらどんなに理不尽に思えてもこんな風な態度は取らないが、相手が番であると分かって多少気を許しているのかもしれなかった。まったく知らない相手だとしても咲にとって番は番。番=家族、咲は家族が欲しかったのだ。
「──恋人が……いたりするのか……?」
お金の心配はないというのに仕事に行きたがる咲に、もしかして職場に恋人でもいるのかと燐は勘繰ってしまう。本来なら番う前に恋人の有無を確認するはずが、できないまま番になってしまったのだ。燐が咲と番ったのも主人との縁を切る為なので、相手は必ずしも燐である必要はない。咲に恋人がいるなら主人と咲を引き離した上で恋人と番ってもらうという選択肢もあった。だが咲をこの部屋に連れてくるまでで燐も限界だった。それでも恋人の有無を確認をしようと口を開けたところで咲にキスをされ、理性は完全に崩壊してしまったのだ。そのことも咲がそういうことに慣れていると勘違いした原因でもある。
「え? い、いないよ! 僕はずっとひとり、だよ……」
「ふむ。──住所教えろ。俺が直接行って話をつけてくる。お前がアニキたちのことを気にしていたと伝えるから、それでいいだろう?」
妥協案のような申し出に咲は少しだけ考えて、結局は折れた。どう話すかは分からないが、アニキたちのことだから番ができたと伝えてくれたら喜んでくれるだろう。
「あのね、番ができて僕は幸せだよって伝えてね」
「あ、あぁ。分かった……」
燐にとって咲の言ったことは意外なものだった。自分も番になったことは伝えようとは思っていたが、それは相手に納得してもらう為のもので、幸せかどうかなんて頭にもなかった。以前はあれほど幸せにしたいと思っていたのに。
目が合ってふにゃりと笑う番を、燐はどういう感情で見ればいいのか分からなかった──。
「は? ダメに決まってるだろう。主人とお相手様が無事番うまで万が一にも遭遇してもらっては困る。だからそれまではここにいて欲しい」
「えー? 僕仕事もあるし、ここにずっとは無理だよー」
「仕事……」
燐は仕事という言葉に反応し顔を歪ませ、咲に蔑みの目を向けた。
実は咲が『運命』と遭遇した場所が一本通りが違えば所謂ホテル街になっていて、咲がその方向から出てきたのを見ている為仕事はそっち系なのだと勝手に勘違いしてしまっていた。だから最初から咲に対して態度が悪く、少しだけ高圧的にもなったのだ。
こちらの都合で番にしてしまうのだから、燐は番のことを一番に考えなんでも許し、大事にしようと思っていた。自分と番ったことを良かったと思って欲しかった。幸せにしたかった。
燐たちは誰かと関係を持つことを禁じられていたこともあるが、燐自身将来の番の為に操をたてていたから相手もそうであったらいいと思っていた。過去に恋人がいたならそれはしょうがないが、そういうことを仕事にできるなんて、とショックを受け裏切られたように感じてしまったのだ。たとえそういう仕事をしていたとしても好きでしているとは限らない。生きる為に仕方なくそうするしかないΩもたくさんいることを燐は少しも想像できなかった。
誤解している燐には、咲が今更仕事を続けることも関係者と会うことすら到底受け入れられるはずがなかった。イライラがそのままひどい言葉となって口から飛び出す。
「仕事なんか……。充分な金は払うって言ってるだろう?」
少し怒ったように吐き捨てるように言う燐に咲はムッとして、すぐに悲し気な顔をした。
「そういう問題じゃないよ。そりゃ僕ひとりいなくても困らないかもだけど、社長にはお世話になったしアニキたちのことも好きだもん。せめて会ってお別れくらい言わせてよ」
「──ダメだ」
『好き』という言葉に思わず低い声が出た。一体何人とそういう関係になったのか、もしかして客だけではなくそいつらとも──考えるだけで胸がざわざわと煩く騒ぎ、ズキズキと痛む。人はそれを『嫉妬』と言うが、燐はそれに気づかない。勿論咲も。
「横暴だ……」と咲はぽつりと呟いて、そっぽを向いた。普段の咲であったらどんなに理不尽に思えてもこんな風な態度は取らないが、相手が番であると分かって多少気を許しているのかもしれなかった。まったく知らない相手だとしても咲にとって番は番。番=家族、咲は家族が欲しかったのだ。
「──恋人が……いたりするのか……?」
お金の心配はないというのに仕事に行きたがる咲に、もしかして職場に恋人でもいるのかと燐は勘繰ってしまう。本来なら番う前に恋人の有無を確認するはずが、できないまま番になってしまったのだ。燐が咲と番ったのも主人との縁を切る為なので、相手は必ずしも燐である必要はない。咲に恋人がいるなら主人と咲を引き離した上で恋人と番ってもらうという選択肢もあった。だが咲をこの部屋に連れてくるまでで燐も限界だった。それでも恋人の有無を確認をしようと口を開けたところで咲にキスをされ、理性は完全に崩壊してしまったのだ。そのことも咲がそういうことに慣れていると勘違いした原因でもある。
「え? い、いないよ! 僕はずっとひとり、だよ……」
「ふむ。──住所教えろ。俺が直接行って話をつけてくる。お前がアニキたちのことを気にしていたと伝えるから、それでいいだろう?」
妥協案のような申し出に咲は少しだけ考えて、結局は折れた。どう話すかは分からないが、アニキたちのことだから番ができたと伝えてくれたら喜んでくれるだろう。
「あのね、番ができて僕は幸せだよって伝えてね」
「あ、あぁ。分かった……」
燐にとって咲の言ったことは意外なものだった。自分も番になったことは伝えようとは思っていたが、それは相手に納得してもらう為のもので、幸せかどうかなんて頭にもなかった。以前はあれほど幸せにしたいと思っていたのに。
目が合ってふにゃりと笑う番を、燐はどういう感情で見ればいいのか分からなかった──。
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