【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

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運命さんこんにちは、さようなら

2ー②

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「あなたが僕の『運命』?」

 男の説明はいまいち分からなかったので、とりあえず咲は気になることを訊いてみた。

「いや、俺は違う。俺はこういうとき・・・・・・の為の『保険・・』だ」

 αであるこの男は名を影山 燐かげやま りんといった。そしてもうひとり、桂木 玲斗かつらぎ れいとというΩはお互いの主人がもしも『運命』に出会ってしまった時の為に存在していた。今回燐がしたように『運命』の相手を主人たちから遠ざけ、『運命』と番うのが役目だ。それもこれも主人とその相手を守る為。そこまでする必要はないと思うかもしれないが『運命』とは厄介で、片方に番がいてももう片方がフリーであればお互いのフェロモンに影響を受けるし、番の上書きが可能なのだ。だからこその『保険彼ら』なのだ。
 燐は咲と番うことでしっかりとお役目を果たしたことになる。あとは玲斗だが、この先出会うかどうかも分からない主人の『運命』の為にずっと『保険』として主人の傍にあり続ける。好きな相手を作ることも勝手に番うこともできないし、誰かと交わること自体禁じられている。もしも『運命』が現れなかったら、そのままひとりでその生涯を終えることになる。充分すぎるほどの対価も支払われるし、もちろん最初に彼らはひと通りの説明を受け、納得もしている。そして、せっかく出会えた『運命』であっても番うことが許されない主人たちは、お金の為に人生を売る自分たちよりももしかしたら不幸なのかもしれない、とも思っていた。

 しかしそれはあくまでも主人たちと『保険たち』燐と玲斗の事情であって、咲には一切関係のない話だった。

「保険?」

 咲は燐が言っていることの意味が分からなかった。『運命』の相手がいることは分かったが目の前の男ではないと言う、それでどうして自分がここにいるのか。目の前にこの男がいるのか。

「お前には悪いと思っている……。だが主人とお相手様は絶対にどんなことがあろうと番にならなくてはならない。たとえお互いに『運命』が現れたとしてもそれは変わらない。これは生まれる前から決まっていたことだ」

 咲は何度も瞬く。燐の言っている意味をどう受け止めていいのか分からないのだ。

「お前の『運命』は俺じゃないが──俺はお前のだ」

「──つがい……?」

 ほぼ無意識に頸に持っていった手が、でこぼこの噛み跡に触れた。その記憶がなくても咲は、既に燐と番になっていたということだ。
 この男が現れた時、少しも恐怖を感じることなくどちらかと言うと安堵したのはそういうことだったのかと咲は思った。初めて会う人間からもらった薬を、なんの疑いもなく飲んだのもそういうことだったのだろう。ふたりの間には目に見えない繋がりができていたのだ。

「でも僕──そんな記憶ない、よ?」

「──昨日……いい匂い・・・・を嗅いだはずだ」

「いい匂い……? 強烈な匂いは嗅いだけど──もしかしてそれが……?」

「そうだ。それがお前の『運命』のフェロモンだ。あちらもお前のフェロモンを嗅いだ途端様子がおかしくなって、お前の元に駆け寄ろうとしていた……。だから俺がお前を攫った。そしてここで……番った」

「──んぅー? 分かったような分からないような……。つまりは僕は運命さんとは番えないってこと? そして僕の番はあなた?」

「そうだ。勝手な話であることは重々承知している。色々と不満もあるだろうが、お詫びは充分にさせてもらう。具体的に言うと金だが、もしも他にも要求があれば可能な限り応えるつもりだ。働かなくとも一生食うに困ることはない。Ωであるお前にとってもいい話だと思う。だからそれで納得してくれないか?」

 燐も無茶苦茶なことを言っている自覚はあるが今更どうにもならない為、一切の異論は許さないとばかりに一気に捲し立てるように言った。




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