5 / 39
運命さんこんにちは、さようなら
2ー②
しおりを挟む
「あなたが僕の『運命』?」
男の説明はいまいち分からなかったので、とりあえず咲は気になることを訊いてみた。
「いや、俺は違う。俺はこういうときの為の『保険』だ」
αであるこの男は名を影山 燐といった。そしてもうひとり、桂木 玲斗というΩはお互いの主人がもしも『運命』に出会ってしまった時の為に存在していた。今回燐がしたように『運命』の相手を主人たちから遠ざけ、『運命』と番うのが役目だ。それもこれも主人とその相手を守る為。そこまでする必要はないと思うかもしれないが『運命』とは厄介で、片方に番がいてももう片方がフリーであればお互いのフェロモンに影響を受けるし、番の上書きが可能なのだ。だからこその『保険』なのだ。
燐は咲と番うことでしっかりとお役目を果たしたことになる。あとは玲斗だが、この先出会うかどうかも分からない主人の『運命』の為にずっと『保険』として主人の傍にあり続ける。好きな相手を作ることも勝手に番うこともできないし、誰かと交わること自体禁じられている。もしも『運命』が現れなかったら、そのままひとりでその生涯を終えることになる。充分すぎるほどの対価も支払われるし、もちろん最初に彼らはひと通りの説明を受け、納得もしている。そして、せっかく出会えた『運命』であっても番うことが許されない主人たちは、お金の為に人生を売る自分たちよりももしかしたら不幸なのかもしれない、とも思っていた。
しかしそれはあくまでも主人たちと『保険たち』の事情であって、咲には一切関係のない話だった。
「保険?」
咲は燐が言っていることの意味が分からなかった。『運命』の相手がいることは分かったが目の前の男ではないと言う、それでどうして自分がここにいるのか。目の前にこの男がいるのか。
「お前には悪いと思っている……。だが主人とお相手様は絶対にどんなことがあろうと番にならなくてはならない。たとえお互いに『運命』が現れたとしてもそれは変わらない。これは生まれる前から決まっていたことだ」
咲は何度も瞬く。燐の言っている意味をどう受け止めていいのか分からないのだ。
「お前の『運命』は俺じゃないが──俺はお前の番だ」
「──つがい……?」
ほぼ無意識に頸に持っていった手が、でこぼこの噛み跡に触れた。その記憶がなくても咲は、既に燐と番になっていたということだ。
この男が現れた時、少しも恐怖を感じることなくどちらかと言うと安堵したのはそういうことだったのかと咲は思った。初めて会う人間からもらった薬を、なんの疑いもなく飲んだのもそういうことだったのだろう。ふたりの間には目に見えない絆ができていたのだ。
「でも僕──そんな記憶ない、よ?」
「──昨日……いい匂いを嗅いだはずだ」
「いい匂い……? 強烈な匂いは嗅いだけど──もしかしてそれが……?」
「そうだ。それがお前の『運命』のフェロモンだ。あちらもお前のフェロモンを嗅いだ途端様子がおかしくなって、お前の元に駆け寄ろうとしていた……。だから俺がお前を攫った。そしてここで……番った」
「──んぅー? 分かったような分からないような……。つまりは僕は運命さんとは番えないってこと? そして僕の番はあなた?」
「そうだ。勝手な話であることは重々承知している。色々と不満もあるだろうが、お詫びは充分にさせてもらう。具体的に言うと金だが、もしも他にも要求があれば可能な限り応えるつもりだ。働かなくとも一生食うに困ることはない。Ωであるお前にとってもいい話だと思う。だからそれで納得してくれないか?」
燐も無茶苦茶なことを言っている自覚はあるが今更どうにもならない為、一切の異論は許さないとばかりに一気に捲し立てるように言った。
男の説明はいまいち分からなかったので、とりあえず咲は気になることを訊いてみた。
「いや、俺は違う。俺はこういうときの為の『保険』だ」
αであるこの男は名を影山 燐といった。そしてもうひとり、桂木 玲斗というΩはお互いの主人がもしも『運命』に出会ってしまった時の為に存在していた。今回燐がしたように『運命』の相手を主人たちから遠ざけ、『運命』と番うのが役目だ。それもこれも主人とその相手を守る為。そこまでする必要はないと思うかもしれないが『運命』とは厄介で、片方に番がいてももう片方がフリーであればお互いのフェロモンに影響を受けるし、番の上書きが可能なのだ。だからこその『保険』なのだ。
燐は咲と番うことでしっかりとお役目を果たしたことになる。あとは玲斗だが、この先出会うかどうかも分からない主人の『運命』の為にずっと『保険』として主人の傍にあり続ける。好きな相手を作ることも勝手に番うこともできないし、誰かと交わること自体禁じられている。もしも『運命』が現れなかったら、そのままひとりでその生涯を終えることになる。充分すぎるほどの対価も支払われるし、もちろん最初に彼らはひと通りの説明を受け、納得もしている。そして、せっかく出会えた『運命』であっても番うことが許されない主人たちは、お金の為に人生を売る自分たちよりももしかしたら不幸なのかもしれない、とも思っていた。
しかしそれはあくまでも主人たちと『保険たち』の事情であって、咲には一切関係のない話だった。
「保険?」
咲は燐が言っていることの意味が分からなかった。『運命』の相手がいることは分かったが目の前の男ではないと言う、それでどうして自分がここにいるのか。目の前にこの男がいるのか。
「お前には悪いと思っている……。だが主人とお相手様は絶対にどんなことがあろうと番にならなくてはならない。たとえお互いに『運命』が現れたとしてもそれは変わらない。これは生まれる前から決まっていたことだ」
咲は何度も瞬く。燐の言っている意味をどう受け止めていいのか分からないのだ。
「お前の『運命』は俺じゃないが──俺はお前の番だ」
「──つがい……?」
ほぼ無意識に頸に持っていった手が、でこぼこの噛み跡に触れた。その記憶がなくても咲は、既に燐と番になっていたということだ。
この男が現れた時、少しも恐怖を感じることなくどちらかと言うと安堵したのはそういうことだったのかと咲は思った。初めて会う人間からもらった薬を、なんの疑いもなく飲んだのもそういうことだったのだろう。ふたりの間には目に見えない絆ができていたのだ。
「でも僕──そんな記憶ない、よ?」
「──昨日……いい匂いを嗅いだはずだ」
「いい匂い……? 強烈な匂いは嗅いだけど──もしかしてそれが……?」
「そうだ。それがお前の『運命』のフェロモンだ。あちらもお前のフェロモンを嗅いだ途端様子がおかしくなって、お前の元に駆け寄ろうとしていた……。だから俺がお前を攫った。そしてここで……番った」
「──んぅー? 分かったような分からないような……。つまりは僕は運命さんとは番えないってこと? そして僕の番はあなた?」
「そうだ。勝手な話であることは重々承知している。色々と不満もあるだろうが、お詫びは充分にさせてもらう。具体的に言うと金だが、もしも他にも要求があれば可能な限り応えるつもりだ。働かなくとも一生食うに困ることはない。Ωであるお前にとってもいい話だと思う。だからそれで納得してくれないか?」
燐も無茶苦茶なことを言っている自覚はあるが今更どうにもならない為、一切の異論は許さないとばかりに一気に捲し立てるように言った。
21
あなたにおすすめの小説
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる