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運命さんこんにちは、さようなら
3 番のいる生活 ①
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「あ、あと僕の家の冷蔵庫に高級プリンがあるんだけど──」
咲にとっては重要なことであったが、ついでにという感じでプリンのことを口にした。『高級』とあえてつけたのは、番に少しだけ格好つけたいというΩ心と、番に対する甘えもあった。自分で取りに行くことが叶わないのなら取ってきて欲しいと、番になら甘えても許されると思ったのだ。
「…………プリンならいくらでも買ってやるからそれは諦めろ」
燐としては、咲のことをあまり信用していなかった。だから職場へ自ら赴くことも本当なら避けたいことだったが(咲をひとりにすると逃げ出してしまう恐れがある為)、咲に無理を強いているのも分かっているので、そのくらいのことはしなくてはと思った。それにアニキたちのことも気になっていた。
ただ、咲の家からなにかを持ってくるというのは、現状では許容できなかった。できるだけ外出時間を短くしたかったのと、他の人間に番の住んでいた部屋に立ち入らせたくないと無意識に思っていたからなのだが、それに気づかない燐は、欲しい物なら外部のサポートメンバーに連絡を取って、いくらでも用意できるのだから後々アパートを引き払わせるにしても今わざわざ取りに行くこともない、と思った。
「うぅ──勿体無いけど……分かった諦める。でもあのね、生クリームの入ったやつだよ? 本当にいいの?」
「ああ、上にさくらんぼが載ったやつでもバケツ、いや浴槽みたいにでっかいやつでも買ってやる」
「えぇ……。ううん。僕コンビニに売ってるのがいい。半分こして一緒に食べようよ。あ、でも身体が大きい分僕よりいっぱい食べるのかな。じゃあ三分の二食べてもいいよ」
咲はワクワクといった感じでそう言って、嬉しそうに笑った。それを見て燐は困惑の表情を浮かべた。
「一個を分けるって言ってるか? もしかして金のことを気にしてるのか? お前には主人からお詫びに何億という金が支払われる。そんなプリンなんか何万個買ったとしても大丈夫だぞ?」
「むぅ……そうじゃなくて──、そう言えば名前も知らないや。ねぇ名前なんていうの? 僕は咲、神楽 咲だよ」
「俺は影山 燐、だ」
「そう。燐、いくら好きな物でも何万個なんて、そんなに食べたら嫌いになっちゃうかもしれないじゃない。そんなの悲しいよ」
咲は本当に少し悲しくなっていた。お金があるからなんでもできるし、許されるみたいな考え方は好まない。沢山より少しでもふたりで分かち合える方がいいのだ。でもそれは咲の考えであって、燐に押し付けていいものではないとも思ったので強くは言えず、こんな言い方になってしまった。
「──燐が足らないなら僕の分をもっとあげてもいいし、何万個より一個を分け合う方がいい。僕はそんな風にする方が幸せだよ」
咲の口から再び出た『幸せ』という言葉に戸惑いつつも燐は頷いた。
「あ、ああ……。俺も別に贅沢がしたいわけじゃない。幸せ──っていうのは俺には今はまだ分からないが……」
「うん。いいんじゃない? その辺は人それぞれだと思うし」
思えば燐は挨拶もしなければ名乗りもせずに咲の気持ちを無視した態度だった。それでも話が長くなるからとおにぎりを作ってくれる優しさもあり、仕事のことだって変に誤魔化したりせずに対応してくれる。
今も燐からしたら貧乏くさいと思われても仕方がない話をきちんと訊いてくれて、幸せは分からないとしながらも頷いてくれたことが嬉しかった。同等の立場として受け入れられたと思えたからだ。
咲は番に対して夢も希望もあった。平凡な出会いでもいい、愛し愛される相手と番い、その相手と生涯添い遂げたい。前半は叶わなくなってしまったが、番った相手と生涯添い遂げるのはこれからできることだ。まだまだ知らないことだらけのふたりだが燐となら大丈夫、根拠なんかなくても咲は心からそう信じられた。
咲にとっては重要なことであったが、ついでにという感じでプリンのことを口にした。『高級』とあえてつけたのは、番に少しだけ格好つけたいというΩ心と、番に対する甘えもあった。自分で取りに行くことが叶わないのなら取ってきて欲しいと、番になら甘えても許されると思ったのだ。
「…………プリンならいくらでも買ってやるからそれは諦めろ」
燐としては、咲のことをあまり信用していなかった。だから職場へ自ら赴くことも本当なら避けたいことだったが(咲をひとりにすると逃げ出してしまう恐れがある為)、咲に無理を強いているのも分かっているので、そのくらいのことはしなくてはと思った。それにアニキたちのことも気になっていた。
ただ、咲の家からなにかを持ってくるというのは、現状では許容できなかった。できるだけ外出時間を短くしたかったのと、他の人間に番の住んでいた部屋に立ち入らせたくないと無意識に思っていたからなのだが、それに気づかない燐は、欲しい物なら外部のサポートメンバーに連絡を取って、いくらでも用意できるのだから後々アパートを引き払わせるにしても今わざわざ取りに行くこともない、と思った。
「うぅ──勿体無いけど……分かった諦める。でもあのね、生クリームの入ったやつだよ? 本当にいいの?」
「ああ、上にさくらんぼが載ったやつでもバケツ、いや浴槽みたいにでっかいやつでも買ってやる」
「えぇ……。ううん。僕コンビニに売ってるのがいい。半分こして一緒に食べようよ。あ、でも身体が大きい分僕よりいっぱい食べるのかな。じゃあ三分の二食べてもいいよ」
咲はワクワクといった感じでそう言って、嬉しそうに笑った。それを見て燐は困惑の表情を浮かべた。
「一個を分けるって言ってるか? もしかして金のことを気にしてるのか? お前には主人からお詫びに何億という金が支払われる。そんなプリンなんか何万個買ったとしても大丈夫だぞ?」
「むぅ……そうじゃなくて──、そう言えば名前も知らないや。ねぇ名前なんていうの? 僕は咲、神楽 咲だよ」
「俺は影山 燐、だ」
「そう。燐、いくら好きな物でも何万個なんて、そんなに食べたら嫌いになっちゃうかもしれないじゃない。そんなの悲しいよ」
咲は本当に少し悲しくなっていた。お金があるからなんでもできるし、許されるみたいな考え方は好まない。沢山より少しでもふたりで分かち合える方がいいのだ。でもそれは咲の考えであって、燐に押し付けていいものではないとも思ったので強くは言えず、こんな言い方になってしまった。
「──燐が足らないなら僕の分をもっとあげてもいいし、何万個より一個を分け合う方がいい。僕はそんな風にする方が幸せだよ」
咲の口から再び出た『幸せ』という言葉に戸惑いつつも燐は頷いた。
「あ、ああ……。俺も別に贅沢がしたいわけじゃない。幸せ──っていうのは俺には今はまだ分からないが……」
「うん。いいんじゃない? その辺は人それぞれだと思うし」
思えば燐は挨拶もしなければ名乗りもせずに咲の気持ちを無視した態度だった。それでも話が長くなるからとおにぎりを作ってくれる優しさもあり、仕事のことだって変に誤魔化したりせずに対応してくれる。
今も燐からしたら貧乏くさいと思われても仕方がない話をきちんと訊いてくれて、幸せは分からないとしながらも頷いてくれたことが嬉しかった。同等の立場として受け入れられたと思えたからだ。
咲は番に対して夢も希望もあった。平凡な出会いでもいい、愛し愛される相手と番い、その相手と生涯添い遂げたい。前半は叶わなくなってしまったが、番った相手と生涯添い遂げるのはこれからできることだ。まだまだ知らないことだらけのふたりだが燐となら大丈夫、根拠なんかなくても咲は心からそう信じられた。
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