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運命さんこんばんは、ありがとう
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十年前、玲斗が八生の『保険』になったのは家族の為だった。玲斗の父親は元々そんなに身体が丈夫な方ではなかったが、病弱だった妻(玲斗の母親)とまだ小さい子どもたちの為に人の何倍も働いていた。そしてとうとう無理が祟って亡くなってしまった。残された病弱な母親と玲斗、そして幼い弟たちは父親の死を悲しむ余裕さえないくらい貧困の中にいた。これから先どうすればいいのか──玲斗は幸い、といえるのか二次性の発現が早く十歳にしてΩだと分かっていた。玲斗は幼くても自分にお金を稼ぐ手段があることを喜んだ。玲斗は自分がやろうとしていたことがどういうことなのか、本当の意味では理解していなかったのだ。ただお金が欲しい、それだけだった。そしてドキドキしながら初めて声をかけたのが人の良さそうな壮年の男で、運命の巡り合わせかその男は八生の家の者だった。そのころ羽鳥家では性の経験がなく、高度な教育を施す為にできるだけ幼いΩを欲していた。玲斗はいくつか質問された後、身体を売ることなく羽鳥家へと連れられて行かれた。
玲斗は『春』ではなく『人生』を売り、『保険』として思いもよらなかった人生を歩み始めることになった。
あれからすぐに病弱だった母親も玲斗のお陰で元気になっており、最近新しく夫を迎え幸せに暮らしていた。そんな中に今更玲斗が入っていけるわけがなかった。今の幸せが玲斗の人生と引き換えにもらったお金のお陰だったのだとしても、新しい家族の形ができてしまっているのだ。勿論玲斗のことを温かく迎え入れてくれるだろうが、小さいころならいざ知らず二十歳の男が十年ぶりに帰ってきても、母親はまだ幼かった玲斗を手放してしまったことで玲斗に対して負い目を感じているはずで、いくら玲斗が気にしていないと言ってみてもお互いにギクシャクするのは目に見えていた。だから玲斗はひとりでいることを選んだ。家族みんなが幸せならそれでよかったから。
*****
ひとりになった玲斗はあえてホテル暮らしをし、あてもなく夜の街を彷徨うようになった。ベタベタとした付き合いは好きではないが、ほどよい距離感で、人の気配だけでも感じていたかったからだ。お金は充分あるのに家を持たず、ホテル暮らしをする理由でもある。
玲斗は元々美しい容姿をしていたが、孤独感からか憂いを増し、ますます儚げな美人になっていた。街を歩けば声をかけられ、Barに入ればこの後どうだ、と肩を抱かれる。だが『保険』の為の教育で得た技術で、そのすべてを難なくいなすことができた。ヒート中でなければΩであってもきちんと学び、修練さえすれば力の差は問題ではないのだ。合気道のように相手の力を利用する術はいくつもある。流石に上位のαが相手であればそうもいかないだろうが、そういうαたちはこんな場所にはいないのでなにも問題はなかった。
そうこうしてるうちにΩなのに誰にも媚びず、誰よりも強い『孤高の花』などと呼ばれるようになりトラブルに巻き込まれることはなくなったが、『花』を鑑賞するように遠巻きにするばかりで近づいてくる者もいなくなり、玲斗はどんどん孤立していった。
弱くはないが決してひとりで平気でいられるほど強くもない、玲斗はひとりぼっちのただの寂しがり屋のΩなのに。
玲斗は『春』ではなく『人生』を売り、『保険』として思いもよらなかった人生を歩み始めることになった。
あれからすぐに病弱だった母親も玲斗のお陰で元気になっており、最近新しく夫を迎え幸せに暮らしていた。そんな中に今更玲斗が入っていけるわけがなかった。今の幸せが玲斗の人生と引き換えにもらったお金のお陰だったのだとしても、新しい家族の形ができてしまっているのだ。勿論玲斗のことを温かく迎え入れてくれるだろうが、小さいころならいざ知らず二十歳の男が十年ぶりに帰ってきても、母親はまだ幼かった玲斗を手放してしまったことで玲斗に対して負い目を感じているはずで、いくら玲斗が気にしていないと言ってみてもお互いにギクシャクするのは目に見えていた。だから玲斗はひとりでいることを選んだ。家族みんなが幸せならそれでよかったから。
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ひとりになった玲斗はあえてホテル暮らしをし、あてもなく夜の街を彷徨うようになった。ベタベタとした付き合いは好きではないが、ほどよい距離感で、人の気配だけでも感じていたかったからだ。お金は充分あるのに家を持たず、ホテル暮らしをする理由でもある。
玲斗は元々美しい容姿をしていたが、孤独感からか憂いを増し、ますます儚げな美人になっていた。街を歩けば声をかけられ、Barに入ればこの後どうだ、と肩を抱かれる。だが『保険』の為の教育で得た技術で、そのすべてを難なくいなすことができた。ヒート中でなければΩであってもきちんと学び、修練さえすれば力の差は問題ではないのだ。合気道のように相手の力を利用する術はいくつもある。流石に上位のαが相手であればそうもいかないだろうが、そういうαたちはこんな場所にはいないのでなにも問題はなかった。
そうこうしてるうちにΩなのに誰にも媚びず、誰よりも強い『孤高の花』などと呼ばれるようになりトラブルに巻き込まれることはなくなったが、『花』を鑑賞するように遠巻きにするばかりで近づいてくる者もいなくなり、玲斗はどんどん孤立していった。
弱くはないが決してひとりで平気でいられるほど強くもない、玲斗はひとりぼっちのただの寂しがり屋のΩなのに。
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