【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

文字の大きさ
19 / 39
運命さんこんばんは、ありがとう

1ー②

しおりを挟む
 十年前、玲斗が八生の『保険』になったのは家族の為だった。玲斗の父親は元々そんなに身体が丈夫な方ではなかったが、病弱だった妻(玲斗の母親)とまだ小さい子どもたちの為に人の何倍も働いていた。そしてとうとう無理が祟って亡くなってしまった。残された病弱な母親と玲斗、そして幼い弟たちは父親の死を悲しむ余裕さえないくらい貧困の中にいた。これから先どうすればいいのか──玲斗は幸い、といえるのか二次性の発現が早く十歳にしてΩだと分かっていた。玲斗は幼くても自分にお金を稼ぐ手段があることを喜んだ・・・。玲斗は自分がやろうとしていたことがどういうことなのか、本当の意味では理解していなかったのだ。ただお金が欲しい、それだけだった。そしてドキドキしながら初めて声をかけたのが人の良さそうな壮年の男で、運命の巡り合わせかその男は八生の家の者だった。そのころ羽鳥はとり家では性の経験がなく、高度な教育を施す為にできるだけ幼いΩを欲していた。玲斗はいくつか質問された後、身体を売ることなく羽鳥家へと連れられて行かれた。
 玲斗は『春』ではなく『人生』を売り、『保険』として思いもよらなかった人生を歩み始めることになった。


 あれからすぐに病弱だった母親も玲斗のお陰で元気になっており、最近新しく夫を迎え幸せに暮らしていた。そんな中に今更玲斗が入っていけるわけがなかった。今の幸せが玲斗の人生と引き換えにもらったお金のお陰だったのだとしても、新しい家族の形ができてしまっているのだ。勿論玲斗のことを温かく迎え入れてくれるだろうが、小さいころならいざ知らず二十歳の男が十年ぶりに帰ってきても、母親はまだ幼かった玲斗を手放してしまったことで玲斗に対して負い目を感じているはずで、いくら玲斗が気にしていないと言ってみてもお互いにギクシャクするのは目に見えていた。だから玲斗はひとりでいることを選んだ。家族みんなが幸せならそれでよかったから。


*****

 ひとりになった玲斗はあえてホテル暮らしをし、あてもなく夜の街を彷徨うようになった。ベタベタとした付き合いは好きではないが、ほどよい距離感で、人の気配だけでも感じていたかったからだ。お金は充分あるのに家を持たず、ホテル暮らしをする理由でもある。
 玲斗は元々美しい容姿をしていたが、孤独感からか憂いを増し、ますます儚げな美人になっていた。街を歩けば声をかけられ、Barに入ればこの後どうだ、と肩を抱かれる。だが『保険』の為の教育で得た技術で、そのすべてを難なくいなすことができた。ヒート中でなければΩであってもきちんと学び、修練さえすれば力の差は問題ではないのだ。合気道のように相手の力を利用する術はいくつもある。流石に上位のαが相手であればそうもいかないだろうが、そういうαたちはこんな場所にはいないのでなにも問題はなかった。

 そうこうしてるうちにΩなのに誰にも媚びず、誰よりも強い『孤高の花』などと呼ばれるようになりトラブルに巻き込まれることはなくなったが、『花』を鑑賞するように遠巻きにするばかりで近づいてくる者もいなくなり、玲斗はどんどん孤立していった。

 弱くはないが決してひとりで平気でいられるほど強くもない、玲斗はひとりぼっちのただの寂しがり屋のΩなのに。







しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

僕は今日、謳う

ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。 彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。 彼との最後の思い出が欲しかったから。 彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。 本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。 終始セリフばかりです。 話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。 名前が出てこない短編part4です。 誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。 途中手直しついでに加筆もするかもです。 感想もお待ちしています。 片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が! あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。 私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

俺がモテない理由

秋元智也
BL
平凡な大学生活を送っていた桜井陸。 彼には仲のいい幼馴染の友人がいた。 友人の名は森田誠治という。 周りからもチヤホヤされるほどに顔も良く性格もいい。 困っている人がいると放かってはおけない世話焼きな 性格なのだった。 そんな二人が、いきなり異世界へと来た理由。 それは魔王を倒して欲しいという身勝手な王様の願い だった。 気づいたら異世界に落とされ、帰りかたもわからない という。 勇者となった友人、森田誠治と一緒に旅を続けやっと 終わりを迎えたのだった。 そして長い旅の末、魔王を倒した勇者一行。 途中で仲間になった聖女のレイネ。 戦士のモンド・リオールと共に、ゆっくりとした生活 を続けていたのだった。 そこへ、皇帝からの打診があった。 勇者と皇女の結婚の話だった。 どこに行ってもモテまくる友人に呆れるように陸は離 れようとしたのだったが……。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

処理中です...