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運命さんこんばんは、ありがとう
2 『運命』の為に
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玲斗はなんとなく今日はお酒を飲む気にもなれず、せっかく入った店をすぐに出た。
夜の街をあてもなく歩き、わざと酔っ払いの千鳥足を真似てみたり。少しだけ楽しい気もするがあまりやりすぎると無駄なトラブルを生む為、玲斗は自分が泊まるホテルへとしっかりした足取りで向かった。
治安のことを考えれば、通るべきではないラブホテルの立ち並ぶ前の道を玲斗は使った。確かに近道ではあるが、普段は使わない道だ。急いでいるわけでもないのに、今日はなぜかその道を使わなくてはいけないと思った。
どうしてそう思ったのか、それはすぐに分かった。出会ってしまったのだ。
柔らかそうな黒髪に細いフレームの眼鏡から覗く優しそうな瞳。華奢に見えるが自分よりも大きな体躯。あの腕に抱きしめられたなら──胸がドキドキと煩く騒ぐ。ひと目で分かった。玲斗の『運命』──。
だが『運命』はラブホテルからふたりで出てきたのだ。直前まで睦み合っていたであろう相手を労わるように腰を抱き、とても遊びという雰囲気ではなかった。ということは『運命』にはそういう相手がいるということだ。
反応したフェロモンに気づかれないように玲斗は急いで踵を返し、念の為遠回りをして泊まっているホテルへと帰った。
普段はどんなにお酒を飲んでも酔ってしまうことなんてないし、今日はそんなに飲んでもいないのに頭がグラグラとしてひどく気持ちが悪く、胸も痛くて──どこかに消えてしまいたかった。
*****
玲斗は部屋に入るなり服も脱がずにベッドにうつ伏せになり、顔を枕に押し当てた。これで涙もため息も──胸の痛みすらも枕が吸ってくれるといい……。
「…………」
玲斗はずっと後悔していることがあった。咲に手紙を届けたことだ。悪戯に気持ちを引っ掻き回しただけで、結局誰の為にもならなかった。だから突然の解雇に憤りながらも当然なのだとも思っていた。
玲斗は晶馬と八生が番った後、ふたりが心からお互いを想い合っていることも番になれて幸せなことも今は知っている。『運命』と結ばれることが必ずしも幸せだとは限らないのだ。それなのに自分の気持ちを優先させて、勘違いしている晶馬を惑わすようなことをしてしまった。そんな自分が今度は『運命』だからと言って相手のいる人を奪うなんてしていいはずがなかった。そもそも今はこんなにも惹かれている『運命』も勘違いかもしれないのだ。
「『運命』の為に僕にできることは──」
玲斗は自分のことを我儘で自己中だと思っているが、いつもいつも誰かの為に自分を犠牲にしてきた。手紙の件だって晶馬がもっとしっかりしていれば思いつきもしなかったことだった。そして今回も、玲斗の『運命』とその番の為に自分が誰かと早く番わなくてはいけない、と考えた。Ωである玲斗にとって番うことは人生を左右する。『保険』であったときもそれは同じだが、『保険』の役目で番ったなら羽鳥家からのサポートは受けられたはずだ。今はなにが起こっても完全に自己責任、誰も助けてはくれない。
玲斗が『運命』と一緒にいた相手を『番』だと思ったのは、ひと目見て玲斗の方はあの男が『運命』だと分かり反応したのにもかかわらず、男の方は玲斗に反応しているようには見えなかったからだ。だから玲斗の方も比較的軽く済んだということもあるが。それは男が既に番持ちであり相手のことを心から愛している為、玲斗との繋がりが弱くなっているのだろうと想像できた。それでもお互いを至近距離で認識してしまえば、惹かれ合い番になってしまう可能性が高い。たとえ玲斗がどこか遠くへ逃れたのだとしても必ずまた出会ってしまうだろう。
それが、『運命』なのだ。だからこそ主人たちには『保険』がいた。
*****
強迫観念に駆られるみたいに、玲斗は翌日には一刻も早く番になるべくお相手探しを始めた。プライベートでの人付き合いは得意な方ではないが自分から声をかけ、なるべくたくさんの人と会い、妥協できる人を探した。今の玲斗にとって、誰であっても『運命』には敵わない為、どんな人物であっても玲斗にとっては妥協になってしまうのだ。もしも燐がフリーであったとしてもそれは変わらない。
だが『運命』以外はみな等しく玲斗には魅力的に映らず、少しも惹かれることはないのだから妥協すら難しかった。そんな状態で番う相手を探すなんてことは無理な話だろう。玲斗は必死になりすぎて、そのことに気付けないでいた──。
夜の街をあてもなく歩き、わざと酔っ払いの千鳥足を真似てみたり。少しだけ楽しい気もするがあまりやりすぎると無駄なトラブルを生む為、玲斗は自分が泊まるホテルへとしっかりした足取りで向かった。
治安のことを考えれば、通るべきではないラブホテルの立ち並ぶ前の道を玲斗は使った。確かに近道ではあるが、普段は使わない道だ。急いでいるわけでもないのに、今日はなぜかその道を使わなくてはいけないと思った。
どうしてそう思ったのか、それはすぐに分かった。出会ってしまったのだ。
柔らかそうな黒髪に細いフレームの眼鏡から覗く優しそうな瞳。華奢に見えるが自分よりも大きな体躯。あの腕に抱きしめられたなら──胸がドキドキと煩く騒ぐ。ひと目で分かった。玲斗の『運命』──。
だが『運命』はラブホテルからふたりで出てきたのだ。直前まで睦み合っていたであろう相手を労わるように腰を抱き、とても遊びという雰囲気ではなかった。ということは『運命』にはそういう相手がいるということだ。
反応したフェロモンに気づかれないように玲斗は急いで踵を返し、念の為遠回りをして泊まっているホテルへと帰った。
普段はどんなにお酒を飲んでも酔ってしまうことなんてないし、今日はそんなに飲んでもいないのに頭がグラグラとしてひどく気持ちが悪く、胸も痛くて──どこかに消えてしまいたかった。
*****
玲斗は部屋に入るなり服も脱がずにベッドにうつ伏せになり、顔を枕に押し当てた。これで涙もため息も──胸の痛みすらも枕が吸ってくれるといい……。
「…………」
玲斗はずっと後悔していることがあった。咲に手紙を届けたことだ。悪戯に気持ちを引っ掻き回しただけで、結局誰の為にもならなかった。だから突然の解雇に憤りながらも当然なのだとも思っていた。
玲斗は晶馬と八生が番った後、ふたりが心からお互いを想い合っていることも番になれて幸せなことも今は知っている。『運命』と結ばれることが必ずしも幸せだとは限らないのだ。それなのに自分の気持ちを優先させて、勘違いしている晶馬を惑わすようなことをしてしまった。そんな自分が今度は『運命』だからと言って相手のいる人を奪うなんてしていいはずがなかった。そもそも今はこんなにも惹かれている『運命』も勘違いかもしれないのだ。
「『運命』の為に僕にできることは──」
玲斗は自分のことを我儘で自己中だと思っているが、いつもいつも誰かの為に自分を犠牲にしてきた。手紙の件だって晶馬がもっとしっかりしていれば思いつきもしなかったことだった。そして今回も、玲斗の『運命』とその番の為に自分が誰かと早く番わなくてはいけない、と考えた。Ωである玲斗にとって番うことは人生を左右する。『保険』であったときもそれは同じだが、『保険』の役目で番ったなら羽鳥家からのサポートは受けられたはずだ。今はなにが起こっても完全に自己責任、誰も助けてはくれない。
玲斗が『運命』と一緒にいた相手を『番』だと思ったのは、ひと目見て玲斗の方はあの男が『運命』だと分かり反応したのにもかかわらず、男の方は玲斗に反応しているようには見えなかったからだ。だから玲斗の方も比較的軽く済んだということもあるが。それは男が既に番持ちであり相手のことを心から愛している為、玲斗との繋がりが弱くなっているのだろうと想像できた。それでもお互いを至近距離で認識してしまえば、惹かれ合い番になってしまう可能性が高い。たとえ玲斗がどこか遠くへ逃れたのだとしても必ずまた出会ってしまうだろう。
それが、『運命』なのだ。だからこそ主人たちには『保険』がいた。
*****
強迫観念に駆られるみたいに、玲斗は翌日には一刻も早く番になるべくお相手探しを始めた。プライベートでの人付き合いは得意な方ではないが自分から声をかけ、なるべくたくさんの人と会い、妥協できる人を探した。今の玲斗にとって、誰であっても『運命』には敵わない為、どんな人物であっても玲斗にとっては妥協になってしまうのだ。もしも燐がフリーであったとしてもそれは変わらない。
だが『運命』以外はみな等しく玲斗には魅力的に映らず、少しも惹かれることはないのだから妥協すら難しかった。そんな状態で番う相手を探すなんてことは無理な話だろう。玲斗は必死になりすぎて、そのことに気付けないでいた──。
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