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運命さんこんばんは、ありがとう
3 孤独なα 歴木 航
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玲斗の『運命』は名を歴木 航といった。航は八生や晶馬の家である鷹取や羽鳥に比べればいくつか落ちるが、そこそこ上流階級の生まれだ。αの父とΩの母の元に生まれ何不自由なく育ち、早くにα性が発現した航は親や親戚たちから期待されていた。航はその期待に応え文武両道に励み、共に優秀な成績を修めた。航はどこに出しても恥ずかしくない立派なαだった。
そして適齢期になり、家が決めた婚約者と番う段になって問題が発覚したのだ。政略結婚ともいえたが航と婚約者は元々幼馴染で仲がよかった。航は婚約者に対して激しくはないが穏やかな愛情を感じていたし、相手もそうだと思っていた。だが、ヒート時に交わり頸を噛んだのに番になることができなかったのだ。慌てて婚約者と共に病院に行き、告げられた検査の結果は『変異型α』、聞いたこともない病名だった。八億人に一人というとても珍しい病気であり、学会で初めて発表されたのもわずか数年前のことで、未だその全貌は明らかになっていないとか。分かっていることは、能力的には一般的なαとなんら変わりもないし日常生活にもなんの影響もないが、精子がβに近く、ヒート中のΩであっても妊娠させることもできなければ番にもなれないということだった。航は医者の説明をまるで他人事のように聞いていた。婚約者との幸せな未来を思い描いていた航には、到底受け入れることができなかったのだ。だが、Ωのヒートフェロモンにも反応は鈍かったはずだと言われ、ハッとした。航には思い当たる節がたくさんあったからだ。α性の発現が早かったにもかかわらず、今までどのΩのフェロモンにも反応したことがなかった。婚約者であってもそれは同じだった。それでもαとΩだ。ヒート中に行為後頸を噛みさえすれば番になれると信じていた。
航は医者からの説明を数日かけて自分なりに受け止めた後も、落ち込みはしたが婚約者と一緒ならお互いを支え合って幸せになれると思っていた。だが現実は思っていた以上に厳しく、航を更に追い詰めた。婚約者はさっさと航との婚約を解消し、慰謝料まで要求してきたのだ。そしてすぐに別の相手と番になったと聞いて、信じていたものがガラガラと音を立てて崩れていくようだった。あんなに期待に満ちていた両親の目も、侮蔑の色はないもののどう扱っていいのか分からないという戸惑いへと変わり、航は不安を強くした。これから自分はどうなってしまうのか。医者は確実ではないですがと前置いて、βとなら子どもを作れる可能性があるというが、好きになった人がβであったならまだしも番になれないαをΩが受け入れてくれないからβとだなんてβに失礼だし、今の自分は誰であっても受け入れてもらえるとは思えなかった。それほどαとしての自尊心は傷つけられ、自分の存在意義すら見失うほどだった。
そして航はなにかを探すようにあてもなく夜の街を彷徨うようになった。そこで突発的なヒートに苦しむΩに出会った。航は辺りに充満しているはずのヒートフェロモンになんの反応もしない自分の身体を呪ったが、「助けて」と自分に伸ばされた手に、もしかしたらこれが自分に与えられた使命なのではないかと考えた。ヒートフェロモンに反応しない自分ならΩを助けることができる。Ωを安全な場所へ連れていくことも、Ωが望めば性交だって妊娠したり番になるリスクなく行うことができるのだ。フリーのΩのヒートは抑制剤が効けばいいが効かない体質やそもそも薬を買うことができなかったり、性交経験があればひとりですごすヒートは尋常じゃなくつらい。そのことを知っていた航がそう考えてしまうのも仕方のない話なのかもしれなかった。
突然暗闇にひとり放り出されてしまった航にとって、どんな形であれΩに求められることは天から差した一筋の光のような、自分がαである意味、『希望』そのものだった。
そして適齢期になり、家が決めた婚約者と番う段になって問題が発覚したのだ。政略結婚ともいえたが航と婚約者は元々幼馴染で仲がよかった。航は婚約者に対して激しくはないが穏やかな愛情を感じていたし、相手もそうだと思っていた。だが、ヒート時に交わり頸を噛んだのに番になることができなかったのだ。慌てて婚約者と共に病院に行き、告げられた検査の結果は『変異型α』、聞いたこともない病名だった。八億人に一人というとても珍しい病気であり、学会で初めて発表されたのもわずか数年前のことで、未だその全貌は明らかになっていないとか。分かっていることは、能力的には一般的なαとなんら変わりもないし日常生活にもなんの影響もないが、精子がβに近く、ヒート中のΩであっても妊娠させることもできなければ番にもなれないということだった。航は医者の説明をまるで他人事のように聞いていた。婚約者との幸せな未来を思い描いていた航には、到底受け入れることができなかったのだ。だが、Ωのヒートフェロモンにも反応は鈍かったはずだと言われ、ハッとした。航には思い当たる節がたくさんあったからだ。α性の発現が早かったにもかかわらず、今までどのΩのフェロモンにも反応したことがなかった。婚約者であってもそれは同じだった。それでもαとΩだ。ヒート中に行為後頸を噛みさえすれば番になれると信じていた。
航は医者からの説明を数日かけて自分なりに受け止めた後も、落ち込みはしたが婚約者と一緒ならお互いを支え合って幸せになれると思っていた。だが現実は思っていた以上に厳しく、航を更に追い詰めた。婚約者はさっさと航との婚約を解消し、慰謝料まで要求してきたのだ。そしてすぐに別の相手と番になったと聞いて、信じていたものがガラガラと音を立てて崩れていくようだった。あんなに期待に満ちていた両親の目も、侮蔑の色はないもののどう扱っていいのか分からないという戸惑いへと変わり、航は不安を強くした。これから自分はどうなってしまうのか。医者は確実ではないですがと前置いて、βとなら子どもを作れる可能性があるというが、好きになった人がβであったならまだしも番になれないαをΩが受け入れてくれないからβとだなんてβに失礼だし、今の自分は誰であっても受け入れてもらえるとは思えなかった。それほどαとしての自尊心は傷つけられ、自分の存在意義すら見失うほどだった。
そして航はなにかを探すようにあてもなく夜の街を彷徨うようになった。そこで突発的なヒートに苦しむΩに出会った。航は辺りに充満しているはずのヒートフェロモンになんの反応もしない自分の身体を呪ったが、「助けて」と自分に伸ばされた手に、もしかしたらこれが自分に与えられた使命なのではないかと考えた。ヒートフェロモンに反応しない自分ならΩを助けることができる。Ωを安全な場所へ連れていくことも、Ωが望めば性交だって妊娠したり番になるリスクなく行うことができるのだ。フリーのΩのヒートは抑制剤が効けばいいが効かない体質やそもそも薬を買うことができなかったり、性交経験があればひとりですごすヒートは尋常じゃなくつらい。そのことを知っていた航がそう考えてしまうのも仕方のない話なのかもしれなかった。
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