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番外編
運命さん、番わないでくれてありがとう
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咲と燐が番になってもう五年が経とうとしていた。三年前に子どもも生まれ、三人での生活は大変なこともあるがふたりにとってそのすべてが幸せなことだった。今も──
「ん? もう食べないの?」
突然思い立ってふわふわのパンケーキを焼いたのはいいが、量を間違えて予定の三倍ほどのふわふわふかふかのパンケーキの山ができあがってしまっていた。頬がパンパンになるくらい頬張り、もぐもぐしている様は出会ったころとなにも変わらない。可愛くて愛おしくて、そしてそれはふたりの愛息である千花も同じだった。小さな身体のいったいどこに入るのか。燐はそれを見ているだけでお腹いっぱいだ。残すのは勿体無いと言いながらも無理しているわけではなく、余裕でまだまだ食べる気満々の咲と千花は、食べるのを止めてしまった燐を見て同時にこてんと首を傾げている。そんな姿も可愛くて燐は片手で顔を覆い、天を仰ぎ見た。
「あ、あぁ、俺はもうお腹いっぱいだ。ちぃとふたりで残りは食べていいけど、食べ過ぎるなよ?」
「こないだもそんなこと言ってたけど、我慢してない? まだ少ししか食べてないじゃない。僕もちぃもそんなに食いしん坊っていうわけじゃないんだから我慢しなくていいんだよ? ほら、魅惑のパンケーキはまだこーんなにいっぱいあるんだから」
などと言ってニンマリと笑う。本気か? と思うがふたりの食べる姿を見ていると嘘や冗談を言っているようには見えなかった。パクパクもぐもぐ、いつまでも見飽きることはない。燐は追加でもう一枚食べたところで本気のギブアップをして、ふたりが嬉しそうに食べる姿を見守ることにした。
そうしているうちに燐の中にとある欲望が頭を擡げた。あのパンパンに膨らんだ愛らしい頬をつついてみたい──。
食事中にそんなことをするのはマナー違反だし、そうすることでどうなるかなんて容易に想像ができた。それでもつい愛する我が子のパンパンに膨らんだ頬をつついてみたいと思ってしまったのだ。そして実際つついてしまった。千花はその刺激で口の中の物をピュッと吐いた。戻したわけではなく、つつかれたことで物理的に外に出てしまったのだ。慌てる燐とびっくりして固まる千花、そしてびっくりしすぎて笑い出してしまった咲。おまけに笑ったことで咲まで吹き出してしまいそうになり慌ててごっくんと飲み下し、咽せてしまっている。
オロオロとする燐を我に返った千花と咲が「め!」と叱り、燐は言い訳することなく素直に謝った。千花と咲が頷き、そして三人は笑い出す。ダメなことはダメだが、きちんと謝った後はそれ以上責めることはしない。そうして三人で大笑いしながら片付けるという、なんとも幸せな時間だ。
始まりは咲がどう思っていたとしても勝手な都合で無理矢理番にされたわけだから怒ってもいいし、憎んでもよかった。だが咲は誰のことも怒らないし憎まない。その必要がないからだ。咲は燐と番って、家族になってずっと幸せなのだ。千花も加わりもっともっと幸せになった。怒っても泣いても、なにをしていてもぜんぶが幸せなのだ。だから咲は今も時々思う。
『運命さん、番わないでくれてありがとう』と。
-終わり-
※最後までお付き合いいただきありがとうございました。
「ん? もう食べないの?」
突然思い立ってふわふわのパンケーキを焼いたのはいいが、量を間違えて予定の三倍ほどのふわふわふかふかのパンケーキの山ができあがってしまっていた。頬がパンパンになるくらい頬張り、もぐもぐしている様は出会ったころとなにも変わらない。可愛くて愛おしくて、そしてそれはふたりの愛息である千花も同じだった。小さな身体のいったいどこに入るのか。燐はそれを見ているだけでお腹いっぱいだ。残すのは勿体無いと言いながらも無理しているわけではなく、余裕でまだまだ食べる気満々の咲と千花は、食べるのを止めてしまった燐を見て同時にこてんと首を傾げている。そんな姿も可愛くて燐は片手で顔を覆い、天を仰ぎ見た。
「あ、あぁ、俺はもうお腹いっぱいだ。ちぃとふたりで残りは食べていいけど、食べ過ぎるなよ?」
「こないだもそんなこと言ってたけど、我慢してない? まだ少ししか食べてないじゃない。僕もちぃもそんなに食いしん坊っていうわけじゃないんだから我慢しなくていいんだよ? ほら、魅惑のパンケーキはまだこーんなにいっぱいあるんだから」
などと言ってニンマリと笑う。本気か? と思うがふたりの食べる姿を見ていると嘘や冗談を言っているようには見えなかった。パクパクもぐもぐ、いつまでも見飽きることはない。燐は追加でもう一枚食べたところで本気のギブアップをして、ふたりが嬉しそうに食べる姿を見守ることにした。
そうしているうちに燐の中にとある欲望が頭を擡げた。あのパンパンに膨らんだ愛らしい頬をつついてみたい──。
食事中にそんなことをするのはマナー違反だし、そうすることでどうなるかなんて容易に想像ができた。それでもつい愛する我が子のパンパンに膨らんだ頬をつついてみたいと思ってしまったのだ。そして実際つついてしまった。千花はその刺激で口の中の物をピュッと吐いた。戻したわけではなく、つつかれたことで物理的に外に出てしまったのだ。慌てる燐とびっくりして固まる千花、そしてびっくりしすぎて笑い出してしまった咲。おまけに笑ったことで咲まで吹き出してしまいそうになり慌ててごっくんと飲み下し、咽せてしまっている。
オロオロとする燐を我に返った千花と咲が「め!」と叱り、燐は言い訳することなく素直に謝った。千花と咲が頷き、そして三人は笑い出す。ダメなことはダメだが、きちんと謝った後はそれ以上責めることはしない。そうして三人で大笑いしながら片付けるという、なんとも幸せな時間だ。
始まりは咲がどう思っていたとしても勝手な都合で無理矢理番にされたわけだから怒ってもいいし、憎んでもよかった。だが咲は誰のことも怒らないし憎まない。その必要がないからだ。咲は燐と番って、家族になってずっと幸せなのだ。千花も加わりもっともっと幸せになった。怒っても泣いても、なにをしていてもぜんぶが幸せなのだ。だから咲は今も時々思う。
『運命さん、番わないでくれてありがとう』と。
-終わり-
※最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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