【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

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運命がたり

6 幸せがたり

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 宗介そうすけは小さいころからいつも、胸に大きな穴がぽっかりと空いているような気がしていた。なにかが足らない、と分かるのになにが足らないかは分からなかった。決して親の愛情が足らなかったわけではない。それでもなにかが足らないと感じてしまうのだ。
 高校生になった今もそれは変わらなかった。βにしては優秀で、全国模試で高成績をとってもバスケットボールでダンクシュートを決めても少しも心は弾まない、ちっとも嬉しくはなかった。だからか宗介はいつも眉間に皺を寄せ、イラついているようにも見えた。だが実際は誰にでも優しく誠実であった為、そのギャップがいいとする者も少なくはなく、宗介はそれなりにモテていた。ただどんなに魅力的な子であっても宗介は心惹かれることはなかった。誰も、なにも宗介の心を満たしてはくれなかったのだ。年を追うごとに感じる周囲と自分との違いに、自分は欠陥人間だと思ったりもしたがそれがどうした、とことさら『完全』を求めたりはしなかった。なぜかは知らないが、焦る必要はないのだと感じていたからだ。


*****

 今日も昼の休み時間に人伝に呼び出しを受け、ため息を吐きつつも直接断る為に呼び出された場所へと向かった。
 だがそこには誰もおらず、待てど暮らせど誰かがくる気配すらない。宗介はどうしたものかと困ってしまった。昼食をとる前にきてしまった為、このまま待ち続ければ昼ごはんを食べ損ねてしまう。正直こないなら戻ってしまいたかった。男子高校生にとって昼食を抜くことは死活問題だ。うーんと唸っていると近づいてくる人の気配を感じ、宗介はホッとした。これでやっと断る・・ことができる。そして振り向いて相手の姿を瞳が捉えた途端、心臓が跳ねた。今までに感じたことのない感情が一気に押し寄せてくる。まるで落としたラムネの瓶からラムネが吹き出すように、しゅわしゅわキラキラとした輝き、心が弾けた。そして宗介の欠けた部分が満たされていくような、痛みにも似た喜び──。

「え……っ? は、はぁ……う、うぅっ」

 唐突な変化に胸が苦しくて、切なくて、宗介は立っていられなくなった。慌てて駆け寄ってきた、恐らく告白相手である男子生徒の胸の中へと倒れ込む。ふわりといい香りがして、さらに心が震え身体から力が抜けていく。

「大丈夫? どっか具合が悪いん? なんやろ、立ちくらみやろか……どないしよ……」

 あわあわと慌て出す男子生徒の様子に、宗介は思わず「ふはっ」っ初めて息をするみたいに吹き出した。

「えぇ? なんで笑うん? 具合悪かったんとちゃうの? 僕のこと揶揄ったん?」

 ぷぅっと頬を膨らませる男子生徒に、宗介は「見つけた」と思った。探す必要もないと思っていた自分の欠けた部分だ。

「あぁ、悪い。もう大丈夫だ。それより名前なんていうんだ?」

「あ、えっと僕の名前は黒田 三葉くろだ みつば。友だちにお願いして呼び出してもろたんは僕やねんけど、……その……す、す、す……」

「好きだ。三葉、俺と付き合って」

 少し被せ気味に、宗介は三葉からの告白を奪うようにして自分から告白をした。見つけた欠けらを絶対に手放したくなくて、三葉の両手を掴む。いつもしかめっ面だった宗介の眉間の皺は消えていて、甘えるように、縋るように三葉を見つめていた。

「──へ?」

 三葉も最初はダメ元での告白だった為、宗介が自分のことを受け入れてくれるなんて思っていなかった。それなのに宗介から告白されて、しかもこんな懇願するような態度に驚いて反応が遅れてしまった。じわじわと遅れてくる喜びに頬が熱くなり口元がニヨニヨとして、笑顔が弾ける。それを見た宗介はホッと息を吐き、三葉の両手を掴んでいた手を離した。そして微笑み、「飛び込んでおいで」とばかりに両手を広げた。三葉はこくりと頷き宗介の胸に飛び込んだ。

「嬉しい! 僕も好きや!」



 ふたりは『運命の番』ではなく、巡り合い愛し合う運命・・ではあった。そしてそれはふたりにとっての約束・・だった。





-終わり-


※本編完結。番外編あります。11月1日公開。



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