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 翌日も美晴は学校へ行かなかった。食事はちゃんと取ってはいるようだが、自分の部屋に籠りっきりでもう一週間も顔を合わせてはいなかった。
 最初は合わせる顔がないと思っていたが、そんなのは自分可愛さの逃げだともう分かっているから、このままにはしない。
 俺自身迷惑をかけた人たちに謝り、一応は誰に対しても恥ずかしくないつもりだ。

 今日は涼雨も学校帰りに直接ここに来ると言っていたから、一緒に美晴に会うつもりだ。このことは事前に乾に報告はしたが、「お願いします」とだけ言われた。てっきり乾も立ち会うと思っていたが、どうも少しだけ避けられている気がするのは気のせいだろうか。

 ――まぁ自分と乾の事は後でいい。あれもこれもと手を出すと失敗してしまうのは経験済みだ。
 今は美晴のことに集中しなくては。
 後ろ髪を引かれる想いはあるものの、乾の為にも俺は真っすぐ前を向いた。

 美晴になにを言ったらいいのか、最初に謝ることは決まっているがその他のことは結局具体的なことはなにひとつ思い浮かばなかったが、変に意識しない方がいいのかもしれないと思った。
 意識し過ぎると視線が右頬に集中してしまうし、反対に不自然にそこを見ないというのもダメだと思うからだ。
 右頬に火傷の痕はあっても、それが美晴を形作るすべてではないのだ。注意して見なければならないのは美晴の内側で、美晴の外側外見ではない。

 昨日話していた感じでは涼雨もその辺は心得ているようだった。
 俺の半分以下の少年たちなのに俺よりもずっとちゃんとしている。色々なことを考えて、必死に頑張っている。

「まぁ本題は涼雨に任せて、俺は保護者枠で参加ってことでいいのかもな」

 と独り言ちって、大きく伸びをした。

 決して涼雨に丸投げをするという意味ではないが、涼雨の方が美晴との心の距離が近いように感じたからだ。

 いつの時代も『恋』は人を弱くもするが、強くもする。その強さが美晴の心の支えになればいい。

 美晴に確認したわけでもないのになにをと思うかもしれないが、昨夜涼雨を家に送り届け乾邸に帰り着く頃になってやっと思い出したのだ。
 美晴との会話の中に『涼雨くん』と涼雨が何度も出てきていたことを。

 涼雨のことを話す美晴は幸せそうにしていた。あんなの恋してなきゃ嘘だろってくらい可愛い顔をしていたんだ。

 だから俺は涼雨に賭けると決めたのだ。

 もしも乾が涼雨の存在を知っていたなら危険を顧みず誰かを家に入れ、『一日一回褒めお仕事』なんてことはしなかったのだろうが、美晴も実の兄である乾には恥ずかしくて話せなかったのかもしれない。そう考えると俺がここにいる意味も少しはあったかと嬉しくなった。


 呼び鈴が鳴り、涼雨を乾邸へと迎え入れた。お互い今日は勝負の日だと思っている。

 俺たちは無言で頷き合った。

「さぁ、行こうか」




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