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俺のかわいい後輩さま どこかの世界線で
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「――本当……に?」
「本当に。俺の勝手な想いで薫君を悩ませてしまって結婚話を白紙に戻させてしまったけど……。薫君は俺の事……嫌い?」
「そんな事ありませんっ!」
少し食い気味に否定する薫君。
じゃあ……じゃあさ――。
「じゃあ……好き?」
ごくりと息を呑む音がした。
そして俯いたまま薫君は話し始めた。
「――俺はこの結婚話が出る前から先輩の事を知っていました。優しくて恰好よくて誰の事も区別しない素敵な人で、密かに憧れていました。俺は欠陥Ωだし……見た目がこんなだから今まで色々と言われてきました。だけど先輩ならそんな俺でも受け入れてくれるかなって……勝手に妄想したりして。それを父さんがどこからか訊きつけて、先輩にあんなだまし討ちのような結婚話を持ち掛けてしまった。でもその話を聞いて俺は、チャンスだって思いました。あの人たちが言うように社長からの話を断る事なんて難しいでしょうしね。特にうちみたいな規模の会社はボスの言う事は絶対です。俺はそんな事を考える狡くて自分勝手なヤツなんです。父さんは優しくて俺の事が大好きです。だから間違った事だと分かっていても俺の為にならどんな事でもします。一か月後俺に会ってしまえばもう逃げる事はできなかったでしょう。もしこの事でお父様に不都合が……と考えているのなら――大丈夫、です。何のペナルティもなく終わらせられました。もう済んだ話なんです。この先の事も俺が保証します」
「だから無理に好きだなんて言わなくていいんです……」と俺の事を見つめ、続く悲しい言葉。
薫君の瞳には薄っすらと膜のようなものが張っていて、奥に潜む感情が見え隠れするのに言葉にしてはくれない。
憧れていたとは言ってくれたけど、好きだとは言ってくれない。俺の好きを信じてくれない。
ほら、こんな時でもきみがくれない事を不満に思ってしまうのは俺の方なのに。
きみが本当に狡くて自分勝手な人間だったらこの話を断ってなんかいないと分かるのに。
嘘に本当を散りばめて、自分を悪く言う事で誰の事も傷つかないようにしている。
薫君はこんなにも傷ついているのに――。
俺がそうさせてしまっているんだ。
あの時の薫君のあの言葉――。
『その方が、あなたもいい……ですか?』
薫君は俺の事を最初から知っていたと言っていた。
特に何の繋がりもなかった俺が急に声をかけたんだ。どんなにか驚いて、どんなにか不安で……、そして少しだけ期待したかもしれなかった。だからこその問いかけ。
違うと言って欲しかったはずなのに、俺は深く考える事なく肯定するような言い方をしてしまった。
期待させて、そして失望させた。
薫君はあの時どんな気持ちだったんだろう――。
薫君の気持ちを思うと胸が張り裂けそうに痛い。
今回だって婚約者だなんて言って薫君を守ったつもりで、傷つけていたんだ。
勇気を出して名乗ってくれたのに、俺は「いい名前だね」なんて言って大好きな人の名前を知れた事を喜んで、自分の他に婚約者がいる事に傷ついていた。
俺がやった事すべてが悔やまれる。大事な人の事を何度も何度も傷つけてしまっていた。
だから結婚話を白紙に戻して――。俺がこうやって薫君を連れ出して告白しても信じてもらえない――。信じる事ができなくさせてしまった。
俺が見たような事は何度もあって、心ない連中に幾度となく暴言を吐かれてきたのだろう。だからか薫君は極端に自分に自信がない。
それなのに俺はそれに追い打ちをかけるようなまねをしてしまった。
信じさせて裏切って、信じさせて裏切って――。
だから俺の『好き』という言葉を簡単に信じる事ができない――。
薫君のこれまでの事を思い涙が零れそうになるけどここで俺が泣くのは違うと思うから、ぐっと奥歯を噛みしめ堪える。
本当に心から薫君の事が好きなんだ。薫君は俺の唯一。
何度でも謝って、何度でも『好き』を伝えるから。
薫君の存在は俺にとって全てが愛おしい。愛おしくて愛おしくて、薫君なしでは息もできないくらい愛おしくてたまらない。
薫君の心に残る沢山の傷。その全部が俺の愛で幸せに変わるように、俺の全てで抱きしめて大事に大事に愛すから。
俺は薫君の両手を握り、その瞳を見つめる。
俺の全てがきみに伝わるように――。
「薫君がいい。父の為にこんな事を言ってるんじゃない。何度だって言うよ。薫君が薫君である事が重要で他の事なんて関係ないんだよ。欠陥Ω? 容姿? 自分勝手? そんな事は絶対にない。薫君じゃなきゃ俺が嫌なんだ。ほら俺の方が自分勝手だろう? おまけに俺は大好きな人を傷つけてばかりいる間抜けで情けない男だよ。こんな俺は嫌? もしそうじゃないのなら……そうじゃないと思ってくれるなら、もう一度だけ俺の事を信じて――?」
潤んだ瞳で俺の言葉を最後まで聞いてくれた。だけど何の言葉もない。
本当に信じてしまっていいのか躊躇い、ただ瞳を揺らしている。
俺は自分でもびっくりするくらいきみの事が好き。
俺の一生にはきみしかいらない。
俺の全部はきみだけのもの。
これが俺の気持ち。
お願い。きみの本当の気持ちを聞かせて?
きみを……薫君の全部を俺にちょうだい?
瞬きも忘れ薫君の瞳を見つめ続けた。
ふいに薫君の瞳から大粒の光が零れ落ちた。
それが合図になったかのようにゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「――信じ……ます。何を訊いても……やっぱり先輩は、素敵な人……です。――俺、は……。俺、も本当は……許されるなら――。どんな先輩でも……す……」
止めどなく流れ続ける涙を拭う事もせず、俺もと言う薫君の言葉は最後まで言う事はできなかった。
俺が薫君の唇を自分の唇で塞いでしまったから。
初めてのキスは甘くて燃えるように熱かったけど、少しだけしょっぱくて涙の味がした。
そしてテンパってしまって高かった熱が更に上がって意識を失っちゃうわけだけど、慌てる薫君の声を遠くに聞きながら申し訳ないと思いながらも幸せだなぁなんて、思ったんだ――。
「本当に。俺の勝手な想いで薫君を悩ませてしまって結婚話を白紙に戻させてしまったけど……。薫君は俺の事……嫌い?」
「そんな事ありませんっ!」
少し食い気味に否定する薫君。
じゃあ……じゃあさ――。
「じゃあ……好き?」
ごくりと息を呑む音がした。
そして俯いたまま薫君は話し始めた。
「――俺はこの結婚話が出る前から先輩の事を知っていました。優しくて恰好よくて誰の事も区別しない素敵な人で、密かに憧れていました。俺は欠陥Ωだし……見た目がこんなだから今まで色々と言われてきました。だけど先輩ならそんな俺でも受け入れてくれるかなって……勝手に妄想したりして。それを父さんがどこからか訊きつけて、先輩にあんなだまし討ちのような結婚話を持ち掛けてしまった。でもその話を聞いて俺は、チャンスだって思いました。あの人たちが言うように社長からの話を断る事なんて難しいでしょうしね。特にうちみたいな規模の会社はボスの言う事は絶対です。俺はそんな事を考える狡くて自分勝手なヤツなんです。父さんは優しくて俺の事が大好きです。だから間違った事だと分かっていても俺の為にならどんな事でもします。一か月後俺に会ってしまえばもう逃げる事はできなかったでしょう。もしこの事でお父様に不都合が……と考えているのなら――大丈夫、です。何のペナルティもなく終わらせられました。もう済んだ話なんです。この先の事も俺が保証します」
「だから無理に好きだなんて言わなくていいんです……」と俺の事を見つめ、続く悲しい言葉。
薫君の瞳には薄っすらと膜のようなものが張っていて、奥に潜む感情が見え隠れするのに言葉にしてはくれない。
憧れていたとは言ってくれたけど、好きだとは言ってくれない。俺の好きを信じてくれない。
ほら、こんな時でもきみがくれない事を不満に思ってしまうのは俺の方なのに。
きみが本当に狡くて自分勝手な人間だったらこの話を断ってなんかいないと分かるのに。
嘘に本当を散りばめて、自分を悪く言う事で誰の事も傷つかないようにしている。
薫君はこんなにも傷ついているのに――。
俺がそうさせてしまっているんだ。
あの時の薫君のあの言葉――。
『その方が、あなたもいい……ですか?』
薫君は俺の事を最初から知っていたと言っていた。
特に何の繋がりもなかった俺が急に声をかけたんだ。どんなにか驚いて、どんなにか不安で……、そして少しだけ期待したかもしれなかった。だからこその問いかけ。
違うと言って欲しかったはずなのに、俺は深く考える事なく肯定するような言い方をしてしまった。
期待させて、そして失望させた。
薫君はあの時どんな気持ちだったんだろう――。
薫君の気持ちを思うと胸が張り裂けそうに痛い。
今回だって婚約者だなんて言って薫君を守ったつもりで、傷つけていたんだ。
勇気を出して名乗ってくれたのに、俺は「いい名前だね」なんて言って大好きな人の名前を知れた事を喜んで、自分の他に婚約者がいる事に傷ついていた。
俺がやった事すべてが悔やまれる。大事な人の事を何度も何度も傷つけてしまっていた。
だから結婚話を白紙に戻して――。俺がこうやって薫君を連れ出して告白しても信じてもらえない――。信じる事ができなくさせてしまった。
俺が見たような事は何度もあって、心ない連中に幾度となく暴言を吐かれてきたのだろう。だからか薫君は極端に自分に自信がない。
それなのに俺はそれに追い打ちをかけるようなまねをしてしまった。
信じさせて裏切って、信じさせて裏切って――。
だから俺の『好き』という言葉を簡単に信じる事ができない――。
薫君のこれまでの事を思い涙が零れそうになるけどここで俺が泣くのは違うと思うから、ぐっと奥歯を噛みしめ堪える。
本当に心から薫君の事が好きなんだ。薫君は俺の唯一。
何度でも謝って、何度でも『好き』を伝えるから。
薫君の存在は俺にとって全てが愛おしい。愛おしくて愛おしくて、薫君なしでは息もできないくらい愛おしくてたまらない。
薫君の心に残る沢山の傷。その全部が俺の愛で幸せに変わるように、俺の全てで抱きしめて大事に大事に愛すから。
俺は薫君の両手を握り、その瞳を見つめる。
俺の全てがきみに伝わるように――。
「薫君がいい。父の為にこんな事を言ってるんじゃない。何度だって言うよ。薫君が薫君である事が重要で他の事なんて関係ないんだよ。欠陥Ω? 容姿? 自分勝手? そんな事は絶対にない。薫君じゃなきゃ俺が嫌なんだ。ほら俺の方が自分勝手だろう? おまけに俺は大好きな人を傷つけてばかりいる間抜けで情けない男だよ。こんな俺は嫌? もしそうじゃないのなら……そうじゃないと思ってくれるなら、もう一度だけ俺の事を信じて――?」
潤んだ瞳で俺の言葉を最後まで聞いてくれた。だけど何の言葉もない。
本当に信じてしまっていいのか躊躇い、ただ瞳を揺らしている。
俺は自分でもびっくりするくらいきみの事が好き。
俺の一生にはきみしかいらない。
俺の全部はきみだけのもの。
これが俺の気持ち。
お願い。きみの本当の気持ちを聞かせて?
きみを……薫君の全部を俺にちょうだい?
瞬きも忘れ薫君の瞳を見つめ続けた。
ふいに薫君の瞳から大粒の光が零れ落ちた。
それが合図になったかのようにゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「――信じ……ます。何を訊いても……やっぱり先輩は、素敵な人……です。――俺、は……。俺、も本当は……許されるなら――。どんな先輩でも……す……」
止めどなく流れ続ける涙を拭う事もせず、俺もと言う薫君の言葉は最後まで言う事はできなかった。
俺が薫君の唇を自分の唇で塞いでしまったから。
初めてのキスは甘くて燃えるように熱かったけど、少しだけしょっぱくて涙の味がした。
そしてテンパってしまって高かった熱が更に上がって意識を失っちゃうわけだけど、慌てる薫君の声を遠くに聞きながら申し訳ないと思いながらも幸せだなぁなんて、思ったんだ――。
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