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番外編
3 夢から覚めて
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アイツが俺の元を去ってしばらくは息をする事すら痛くて辛かった。アイツが俺の隣りにいないなんて考えた事もなかった。寂しくて悲しくて痛くて、辛すぎて――生きるのを止めようとした時、誰かが言った「これは夢だよ」のひと言を思い出した。これはいつ誰が言った言葉だったのか――。記憶の中に微かに残る言葉。
その言葉通り俺はそれを夢にしてしまった。長いながい夢――。
朝起きて、ご飯を食べて会社に行き仕事をする。誰かと言葉を交わし、仕事が終われば家に帰ってまたご飯を食べて風呂に入って寝る。夢の中の俺は淡々とそれを繰り返していた。いつかアイツが「ただいま」って帰って来る事を信じて――。
*****
ある日突然夢から覚めた時にはすでにあれから10年も過ぎていて、鏡に映る自分の姿が少し老けて見えた。そして左手薬指に残る白い跡がうすらぼんやりとしていて、あれが夢ではなく現実なんだと嫌でも実感させられた。
実感したからといってその後も生活は変わらず――いや、夢ではなく現実だと理解したのだからあの頃感じていた『痛み』や『悲しみ』が現実のものとなって容赦なく襲い掛かってきた。
本当ならもっと前に自分の気持ちに折り合いをつけるべき事で、10年という歳月はそれが可能な時間でもあったはずだった。だけど俺はそれを夢だと思っていたからアイツがもういない事をちゃんと受け入れようとはしていなかった。夢から覚めた今も――。
溜め息を吐く俺に、「顔色悪いけどどうした? 飯はちゃんと食べてるのか? 世話してくれるパートナーはいないのか? いないのならお前に紹介したいい子がいるんだけど」と、アイツの事が原因だとは誰も思わない。それだけ周りからすると時間が過ぎてしまっていたという事だ。俺ひとりが未だアイツの事を『過去』にできないでいる。
そんな時、ある人物が俺の興味をひいた。一条 彼方という同じ部署ではあるが殆ど関わる事のない俺よりも5つ下のΩ性の男性だ。聞こえてきた彼の噂。何年も前から婚約者はいるものの未だ番っていないと言う。
その年で番わない理由はなんだ? 彼も運命を待っている? それとも婚約者の方が?
一条さんはΩだ。だから先延ばしにするにしても流石に40近い年齢までという事は考えにくい。となると婚約者が原因か――。
今思えば俺は一条さんを自分に重ねてしまっていたように思う。彼が悲しそうにしていると胸が痛み、彼が溜め息を吐くと自分も溜め息が出た。
αやΩにとって『運命』は憧れというだけではなく、遺伝子に刻まれた『呪い』のようなものだと思う。決して誰もその『呪い』からは逃れられない。だけど、俺は運命なんか――と思う。運命なんかに不幸にされる人をこれ以上見たくはないのだ。もしも彼の婚約者が運命を求めるというなら俺が彼の事を幸せにする。したっていいはずだ。
一条さんに対してアイツに抱いていた程の強い想いはないけれど、それでも彼の心からの笑顔が見たいと思ったのだ。そしてその笑顔を俺が守りたいと――。
――そう思っていたのに、彼と婚約者は『運命』だったのだ。今まで番にならなかった理由は婚約者が原因というのは当たっていたが、婚約者が未成年だったからで、ふたりはちゃんと愛し合っていた。俺は知らなかったとはいえ『運命』に挑んで、また敗北したってわけだ。
俺はとことん『運命』に嫌われているようだ――。
その言葉通り俺はそれを夢にしてしまった。長いながい夢――。
朝起きて、ご飯を食べて会社に行き仕事をする。誰かと言葉を交わし、仕事が終われば家に帰ってまたご飯を食べて風呂に入って寝る。夢の中の俺は淡々とそれを繰り返していた。いつかアイツが「ただいま」って帰って来る事を信じて――。
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ある日突然夢から覚めた時にはすでにあれから10年も過ぎていて、鏡に映る自分の姿が少し老けて見えた。そして左手薬指に残る白い跡がうすらぼんやりとしていて、あれが夢ではなく現実なんだと嫌でも実感させられた。
実感したからといってその後も生活は変わらず――いや、夢ではなく現実だと理解したのだからあの頃感じていた『痛み』や『悲しみ』が現実のものとなって容赦なく襲い掛かってきた。
本当ならもっと前に自分の気持ちに折り合いをつけるべき事で、10年という歳月はそれが可能な時間でもあったはずだった。だけど俺はそれを夢だと思っていたからアイツがもういない事をちゃんと受け入れようとはしていなかった。夢から覚めた今も――。
溜め息を吐く俺に、「顔色悪いけどどうした? 飯はちゃんと食べてるのか? 世話してくれるパートナーはいないのか? いないのならお前に紹介したいい子がいるんだけど」と、アイツの事が原因だとは誰も思わない。それだけ周りからすると時間が過ぎてしまっていたという事だ。俺ひとりが未だアイツの事を『過去』にできないでいる。
そんな時、ある人物が俺の興味をひいた。一条 彼方という同じ部署ではあるが殆ど関わる事のない俺よりも5つ下のΩ性の男性だ。聞こえてきた彼の噂。何年も前から婚約者はいるものの未だ番っていないと言う。
その年で番わない理由はなんだ? 彼も運命を待っている? それとも婚約者の方が?
一条さんはΩだ。だから先延ばしにするにしても流石に40近い年齢までという事は考えにくい。となると婚約者が原因か――。
今思えば俺は一条さんを自分に重ねてしまっていたように思う。彼が悲しそうにしていると胸が痛み、彼が溜め息を吐くと自分も溜め息が出た。
αやΩにとって『運命』は憧れというだけではなく、遺伝子に刻まれた『呪い』のようなものだと思う。決して誰もその『呪い』からは逃れられない。だけど、俺は運命なんか――と思う。運命なんかに不幸にされる人をこれ以上見たくはないのだ。もしも彼の婚約者が運命を求めるというなら俺が彼の事を幸せにする。したっていいはずだ。
一条さんに対してアイツに抱いていた程の強い想いはないけれど、それでも彼の心からの笑顔が見たいと思ったのだ。そしてその笑顔を俺が守りたいと――。
――そう思っていたのに、彼と婚約者は『運命』だったのだ。今まで番にならなかった理由は婚約者が原因というのは当たっていたが、婚約者が未成年だったからで、ふたりはちゃんと愛し合っていた。俺は知らなかったとはいえ『運命』に挑んで、また敗北したってわけだ。
俺はとことん『運命』に嫌われているようだ――。
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