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優しい嘘の見分け方
③ @一宮 美幸
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白兎を送り出して一年という月日が流れ、突然母がいい人を見つけて来たからお見合いするようにと言ってきた。
たとえ叶わないとしても白兎以外と番うつもりも結婚するつもりもなかったが、白兎の事では母には迷惑をかけてしまったという事もあり母の顔を立てる為にお見合いの席に着く事にした。
*****
お見合い場所であるとある料亭の座敷にはまだ相手は来ておらず、テーブルのこちら側と向こう側に座布団がふたつ、並べられているだけだった。
とりあえず席に着き持ち込んだ文庫に視線を落とした。
誰が来たとしても興味もないし、顔を見るつもりもなかった。
しばらくして静かに障子を開ける音がして俺の前に座ったのが分かったが、俺は顔を上げずにいた。
相手が断るならそれでいいし、断らなかったとしても愛すつもりもない相手を見ても意味がないと思っていた。
「初めまして、花崎 白兎十八歳です」
――が、その声にぴくりと肩が震えた。
「え……」
手にしていた文庫が手の中から滑り落ちるが、構わず相手の顔を見つめる。
いるはずのない人物がそこにはいて、ニコニコと笑っていた。
「俺はあなたと仲良くなりたいだけなんだ。ねぇ名前は?」
優しい声があの日の俺の言葉をなぞる。
「――み……ゆき。一宮 美幸……だ」
「美幸、俺は美幸と『番』になりたい。そしてずっと一緒にいたいんだ。他の事なんか知らないし、どうでもいいんだ。ずっとずっと一緒にいてくれるんだろう? 美幸、大好きだよ」
真っすぐに見つめる赤い瞳は本当に綺麗で、その瞳に間抜け面した俺が映っているのが堪らなく嬉しかった。
「ふ……ぐぅ……」
俺は流れる涙を止める事なんてできなかった。
愛しい人を抱きしめ声もなく何度もなんども頷いた。
俺は白兎の傍にいたくて、白兎の愛が欲しくて数えきれない程『嘘』を吐いた。嘘をいくつも吐きながらお前に向って必死に手を伸ばしていた。
許されない事をしたと思う。それなのに白兎は俺の元に帰って来てくれた。
こんな俺の番になりたいと言ってくれたのだ。
たとえ叶わないとしても白兎以外と番うつもりも結婚するつもりもなかったが、白兎の事では母には迷惑をかけてしまったという事もあり母の顔を立てる為にお見合いの席に着く事にした。
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お見合い場所であるとある料亭の座敷にはまだ相手は来ておらず、テーブルのこちら側と向こう側に座布団がふたつ、並べられているだけだった。
とりあえず席に着き持ち込んだ文庫に視線を落とした。
誰が来たとしても興味もないし、顔を見るつもりもなかった。
しばらくして静かに障子を開ける音がして俺の前に座ったのが分かったが、俺は顔を上げずにいた。
相手が断るならそれでいいし、断らなかったとしても愛すつもりもない相手を見ても意味がないと思っていた。
「初めまして、花崎 白兎十八歳です」
――が、その声にぴくりと肩が震えた。
「え……」
手にしていた文庫が手の中から滑り落ちるが、構わず相手の顔を見つめる。
いるはずのない人物がそこにはいて、ニコニコと笑っていた。
「俺はあなたと仲良くなりたいだけなんだ。ねぇ名前は?」
優しい声があの日の俺の言葉をなぞる。
「――み……ゆき。一宮 美幸……だ」
「美幸、俺は美幸と『番』になりたい。そしてずっと一緒にいたいんだ。他の事なんか知らないし、どうでもいいんだ。ずっとずっと一緒にいてくれるんだろう? 美幸、大好きだよ」
真っすぐに見つめる赤い瞳は本当に綺麗で、その瞳に間抜け面した俺が映っているのが堪らなく嬉しかった。
「ふ……ぐぅ……」
俺は流れる涙を止める事なんてできなかった。
愛しい人を抱きしめ声もなく何度もなんども頷いた。
俺は白兎の傍にいたくて、白兎の愛が欲しくて数えきれない程『嘘』を吐いた。嘘をいくつも吐きながらお前に向って必死に手を伸ばしていた。
許されない事をしたと思う。それなのに白兎は俺の元に帰って来てくれた。
こんな俺の番になりたいと言ってくれたのだ。
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