男子高校生たちの

ハリネズミ

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アレはそういう事だったのか

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あれから渚が宮園と一緒にいる場面は見ない。
ただ、その日から渚は俺と一緒に帰らなくなった。

一度だけ「何で帰れないの?」って訊いてみたが、瞬き多めに誤魔化された。
だけど、それ以上は訊いたりはしない。訊けない。
訊いてしまったら自分が渚を泣かせてしまう自信があるから。

からかわれて泣きそうな顔になるキミが好きだ。
怒って真っ赤な顔をしながらそっぽ向くキミが好きだ。
拗ねて口きかないって言いながらすぐにそんな事は忘れて笑顔になるキミが好きだ。

だけど、俺が感情を隠さず全てキミにぶつけてしまったら、キミは…。

「なぁ、哲、今日放課後、うちに…来ない?用事…あったりする?」
そう訊く渚の全身が緊張している事が分かる。ある、と分かる。
心の奥でどろりと嫌な感情があふれ出す。
だけど、気づかれないように普通の顔で、調子で言葉を紡ぐ。
「―――ん、大丈夫。特に用事もないし行けるよ」
「そっか。よかった…久しぶりに一緒に帰ろ」
久しぶりに一緒に帰れるというのに、渚の家で待つに怯え心が沈む。


家に着くと渚の部屋に入れてもらえずリビングで待つように言われた。
待つ事五分。
渚の部屋から「いいよー。入ってきてー」と声がかかる。
ドキドキと緊張が高まる。
震える手で渚の部屋のドアノブを回し静かにドアを開けると…。

「パーン」
クラッカーの音に
最上哲史もがみてつしくん、誕生日おめでと―――!」
という渚の声と零れんばかりの笑顔。

え。

驚きのあまり声も出ない。

「ふふふ。びっくりした?びっくりしたよな?」

飾り付けられた部屋と皿に盛られた軽食、チョコレートケーキ。
俺の好きな物ばかりが並べられていた。

「俺たちが…その…こ、こい、人になって、初めての…誕生日、だからさ、ちゃんと…したかった、んだ」

そう言いながら照れてどもるキミ。俺の一番好きな笑顔のキミ。

「それで、俺お小遣い貯めてたんだけど…こないだ、その…使っちゃって…。宮園に短期アルバイト紹介してもらたんだ。だけど…料理とかケーキで無くなっちゃって…ごめん。プレゼント用意、できなかった…。バイトもう少し続けて買うからさ、何か欲しい物ある?」

「―――ぃ………」
「え?哲、何?」
俺は我慢ができなくて、渚を抱きしめていた。

「ひゃっ」
渚が変な声を上げて驚いている。

貯めていたお小遣いは最近仕事が忙しすぎて疲労が溜まっていた両親への旅行のプレゼントに使ったのを知っている。

宮園とコソコソしてたアレは俺の為だったのか。
最近一緒に帰れなかったのもバイトをしていたからで、俺の為。


胸中に渦巻いていた黒いものが拡散し、代わりに温かい物が広がる。
「え?ちょっ…!て、て、て、て、哲??!」
「ごめ…ちょっとだけ。ちょっとだけこうさせて」
渚を抱きしめる腕が震える。
明日からは渚が慣れてくれるのをちゃんと待つから、だから今日だけはキミに触れる事を許して?

そして、少しだけ俺の心を伝えてもいいだろうか?
我儘を言ってもいいだろうか?

「バイト、もうしなくていい。俺と…もっと、一緒にいて?」
「わかった」

俺が決死の想いで口にした言葉に渚はあっさりと了承した。
渚は震える事もなく黙って俺に抱きしめられている。
こういう時は本当まいっちゃうくらい潔くて、恰好いい。

「一つお兄さんになったのに、哲はまだまだ子どもだなー。ふふ」
渚はそう言いながら温かな笑みを浮かべ背中をぽんぽんと撫でた。

少し落ち着いてきた俺は自分の行動が恥ずかしくて、つい憎まれ口を叩いてしまう。
「渚に子どもって言われたくなーい。こないだだってちびちび食べてたアイス溶けちゃって落として大泣きしてたじゃん」
「う…。哲は、意地悪だ…」
「―――意地悪は…嫌い…?」
「ば―――か。嫌いなら、付き合うかよ」

にっと悪戯っぽく笑う渚。
俺も同じように笑う。
「そう、だな」

続く「ありがとう」は小さすぎて渚の耳に届いたかわからないけど、


キミを好きになってよかった。



-終-
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